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おうちで診る医療|名古屋発!ごうホームクリニックの在宅医療ポッドキャスト

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This podcast has
355 episodes
Language
Japanese
Publisher
Go Ito
Explicit
No
Date created
2026/01/08
Latest episode
2026/10/25
Average duration
19 min.
Release period
1 days

Description

「在宅医療って、実際どうなの?」その疑問に現場の医師がお答えします。 名古屋市天白区の「ごうホームクリニック」は、24時間365日対応の機能強化型の在宅クリニックです。約600名の患者さんの「おうちで過ごしたい」という願いに寄り添い、年間100件超の看取り・緊急往診、人工呼吸器を使う方や医療的ケアが必要なお子さんの在宅サポートなど、地域の在宅医療を支えています。 このポッドキャストでは、病院では教わらない在宅医療の実践知をお届けします。 ・高齢者の「いつもと違う」を見逃さないプロの眼 ・在宅での急変時、何を見て何を伝えるか ・ご家族への説明で大切にしていること ・訪問診療チームの連携の実際 医療・介護に携わる専門職の方の学びに、そしてご家族の介護に向き合う皆さんの安心につながれば幸いです。 移動中でも、家事をしながらでも、「聴く在宅医療」をぜひご活用ください。

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【在宅医療のお金】払ってから戻す?窓口負担を抑える準備|#340
2026/10/25
在宅医療の現場では、医学的な判断と同じくらい「お金の段取り」が療養の継続を左右します。訪問診療、訪問看護、訪問薬剤、医療材料、そして介護保険サービス。一つひとつは数千円から数万円でも、月単位で積み上がると家計を圧迫します。特に、がん終末期や慢性心不全の増悪(ぞうあく)など、短期間に医療の密度が上がる局面では、1か月の窓口負担が十万円を超えることも珍しくありません。そのとき家族が口にするのは「このまま家で診てもらって、本当に払えるのか」という不安です。 日本の医療保険には、自己負担が一定額を超えた分を保険者(ほけんしゃ。健康保険組合、協会けんぽ、市町村国保、後期高齢者医療広域連合など、保険を運営する団体のこと)が負担する高額療養費(こうがくりょうようひ)制度があります。ただしこの制度には二つの受け方があります。ひとつは、いったん窓口で全額(3割など)を払い、あとから払い戻しを受ける償還払い(しょうかんばらい)。もうひとつは、事前に手続きをして、窓口での支払いを最初から上限額までに抑える現物給付(げんぶつきゅうふ)です。同じ制度、同じ最終負担額でも、家計にかかる一時的な負担はまったく違います。 在宅医療スタッフが押さえるべき要点は、ここにあります。制度を「知っている」だけでは患者さんのお金は守れません。導入のタイミングで声をかけ、必要な手続きに間に合わせること。つまり、払ってから戻すのではなく、最初から払わない形に持っていくこと。それが退院前カンファレンスや初回訪問でできる、きわめて実践的な支援です。本稿では、高額療養費の仕組みと申請のタイミング、限度額適用認定証(げんどがくてきようにんていしょう)を事前に用意する意味、そして年単位で効いてくる高額介護合算療養費(こうがくかいごがっさんりょうようひ)の使いどころを整理します。
339結局、月いくら?在宅医療の請求書を開く
2026/10/25
在宅医療の導入相談で、ご家族から最も多く出る質問は「で、毎月いくらかかるんですか」です。ところが私たち支援する側も、即答できないことが少なくありません。理由ははっきりしていて、在宅医療の費用は、医療保険と介護保険という性格の違う2つの財布から、しかも複数の事業所から、バラバラの請求書として届くからです。訪問診療の医療機関、訪問看護ステーション、調剤薬局、訪問介護事業所、福祉用具貸与事業所。利用者宅の机の上には、毎月4通も5通も封筒が並びます。合計額を把握している人が誰もいない、という状態が普通に起きます。 もうひとつの難しさは、月によって金額が変わることです。体調が安定していれば月2万円前後だった負担が、発熱や増悪(ぞうあく)で訪問が増えた月に一気に跳ね上がる。末期の悪性腫瘍(まっきのあくせいしゅよう)で訪問看護が医療保険に切り替わった月に、介護保険の請求は減ったのに医療保険の請求が倍増する。こうした「月ごとの振れ幅」を事前に説明できているかどうかが、信頼関係を左右します。 費用の説明は事務職の仕事、と思われがちですが、実際にご家族から最初に聞かれるのは、最も顔を合わせる回数が多い訪問看護師やケアマネジャー、ヘルパーです。正確な点数を暗記する必要はありません。必要なのは、お金の流れの地図を頭に入れて、「この部分は医療保険、こちらは介護保険」「この月は高くなる見込みです」と見通しを示せることです。この資料では、費用の全体像、負担割合の考え方、そして「思ったより高い」が起きる典型パターンを整理します。 なお、以下で挙げる点数は2026年6月施行の診療報酬改定後、単位数は2024年度介護報酬改定の値です(2026年6月の介護報酬の期中改定は処遇改善加算の拡充が中心で、基本の単位数は変わっていません)。いずれも改定のたびに変わります。数字そのものより構造を覚えてください。
338申告しない人が、毎年損している数万円
2026/10/25
在宅医療の現場では、「医療費が高い」「介護保険の自己負担が重い」という相談が日常的に寄せられます。しかし、その多くは制度を知らないことによる損失です。日本の医療・福祉制度の大半は申請主義、つまり本人や家族が自分から手を挙げないと一円も戻ってこない仕組みになっています。高額療養費のように保険者から勧奨通知が届くものもありますが、医療費控除(いりょうひこうじょ)や障害者控除は、自分で確定申告をしない限り自動的には適用されません。 在宅療養中の利用者は、訪問診療、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、紙おむつ、通院タクシーなど、年間の医療・介護関連支出が三十万円から百万円規模になることが珍しくありません。これらの多くが医療費控除の対象であるにもかかわらず、「介護保険のサービスは医療費ではない」と思い込んで申告していないケースが非常に多いのが実情です。さらに、六十五歳以上で障害の程度が障害者に準ずると市区町村長の認定を受ければ、障害者手帳がなくても障害者控除を使えることは、あまり知られていません。この認定の書類は、多くの自治体で障害者控除対象者認定書(しょうがいしゃこうじょたいしょうしゃにんていしょ)と呼ばれています。 申告で戻る金額は、所得税の還付(かんぷ)と翌年度の住民税の軽減を合わせて、年間でおおむね三万円から十万円程度になることが多く、決して小さくありません。しかも還付申告は五年間さかのぼって行えます。在宅医療スタッフは税理士ではありませんが、「この費用は控除の対象になるかもしれないので、領収書を箱にためておいてください」「市役所でこの書類をもらってください」と一言伝えるだけで、利用者の家計を年単位で守ることができます。お金の話は、疼痛(とうつう)コントロールや褥瘡(じょくそう)予防と並ぶ、立派な在宅支援の一領域です。
337年金15万円で、家での療養は何年もつか
2026/10/25
在宅医療の現場で、医療者が最も語りにくく、しかし家族が最も知りたがっているのが「お金」の話です。年金収入が月15万円、つまり年額180万円。これは年金で暮らす単身高齢者として珍しくない水準ですが、この金額で親や配偶者の療養生活を何年支えられるのかを、具体的に答えられるスタッフは多くありません。結果として、家族は誰にも相談できないまま貯金を取り崩し、限界が来てから「もうサービスを減らしてください」と切り出すことになります。 お金の問題は、単なる経済の問題ではなく、ケアの質と予後(よご)に直結する臨床の問題です。入浴回数を減らせば皮膚トラブルと褥瘡(じょくそう)のリスクが上がり、おむつ交換を減らせば尿路感染や皮膚炎が増えます。エアコンを止めれば脱水と熱中症が起き、通院交通費を惜しめば受診間隔が延びて増悪(ぞうあく)を拾えなくなります。経済的な逼迫(ひっぱく)は、必ず身体の所見として現れます。だからこそ、訪問時にお金のサインを読み取ることは、バイタルサインを測ることと同じくらい在宅スタッフの基本業務だと考えるべきです。 この資料では、在宅と施設の費用を同じ土俵で比較し、家計が破綻する前に現れるサインを具体的に挙げ、そして見落とされがちな保険外の出費を洗い出します。さらに、貯蓄と月々の赤字から「あと何年もつか」を概算する方法を示します。数字はいずれも目安であり、地域、所得区分、要介護度、サービス構成によって大きく変動することを前提にお読みください。
336「通帳、見せて」をケンカにしない切り出し方
2026/10/25
在宅医療・在宅介護の現場で、支援が止まる理由の上位に必ず入るのが「お金の話」です。医療や介護の必要性は全員が理解しているのに、費用の話が出た瞬間に家族の表情が変わり、「そこまでは結構です」「本人が嫌がるので」と断られる。その裏側にあるのは、料金そのものへの不満ではなく、「誰がどこまで本人の財産に触れてよいのか」という、家族内で誰も言語化していない不安であることが少なくありません。 さらに在宅医療の対象者は、認知症(にんちしょう)や脳血管障害の既往(きおう)などによって金銭管理の能力が少しずつ低下していく方が多く、通帳や印鑑、キャッシュカードの所在そのものが曖昧になっていきます。訪問スタッフが「通帳、見せてもらえますか」と踏み込むと、同居家族は「財産を疑われた」と受け取り、別居家族は「同居の兄が勝手に使っているのでは」と疑い始める。善意の一言が、家族間の火種に変わることは現実に起きています。 だからこそ、費用の話は「いつ、誰が、どの順番で、どんな言葉で」切り出すかを、チームであらかじめ設計しておく必要があります。この資料では、費用説明のタイミングと役割分担、費用を理由にサービスを断る家族への向き合い方、そして成年後見(せいねんこうけん)制度をはじめとする金銭管理支援への橋渡しの実際を、明日からの訪問で使える形で整理します。
335同じ効き目で薬代が半分になる話
2026/10/25
在宅医療の現場で「お金の話」というと、訪問診療料や訪問看護の自己負担に目が向きがちです。しかし実際にご家族から相談が多いのは、意外にも薬代です。薬は毎月必ず発生する固定費であり、慢性疾患を複数抱える在宅患者さんでは、月の自己負担のうち薬剤費が半分以上を占めることも珍しくありません。しかも薬代は、診療内容を変えなくても、選び方と渡し方の工夫だけで下げられる余地が大きいという特徴があります。 ここで言う工夫とは、治療内容を削ることではありません。同じ有効成分・同じ効き目のまま価格の安いものに置き換える、飲み残しが出ない形で渡して無駄な処方を減らす、そして使える公的制度を取りこぼさない。この三つです。先発医薬品(せんぱついやくひん)から後発医薬品(こうはついやくひん)への変更だけで薬剤費が半分前後になるケースは実際に多く、2024年10月からは長期収載品(ちょうきしゅうさいひん)の選定療養(せんていりょうよう)が始まり、あえて先発品を選ぶと追加の自己負担が生じる仕組みになりました。2026年6月からは、その追加の負担がさらに大きくなっています。制度そのものが「同じ効き目なら安い方へ」という方向に動いています。 一方で、在宅では高額な抗がん剤や医療用麻薬(まやく)を自宅で使う場面も増えました。こちらは工夫で安くできる性質のものではなく、高額療養費制度や各種公費をいかに早く適用するかが勝負になります。この回では、薬の飲み方や減薬の臨床的な進め方ではなく、あくまで「請求額がいくら変わるか」という費用の構造に絞って整理します。看護師・介護職・ケアマネジャーが、薬剤師や医師につなぐ前の段階で気づける視点を持つことが目的です。
334限度額を超えた日、10割が襲ってくる
2026/10/25
在宅医療の現場で、利用者と家族が最も強い衝撃を受ける瞬間のひとつが、月末に届く請求書を見たときです。「先月までと同じようにサービスを使っていたつもりなのに、なぜ3万円も請求が来るのか」。この裏側にあるのが、介護保険の区分支給限度基準額(くぶんしきゅうげんどきじゅんがく)の超過です。介護保険は、要介護度ごとに1か月に使えるサービス量の上限が単位(たんい)という形で決められており、その上限までは1割から3割の自己負担で済みます。しかし上限を1単位でも超えた瞬間、超過分は保険給付がゼロになり、利用者が10割、つまり全額を負担します。1割負担の方であれば、同じサービスが突然10倍の値段に変わるということです。 さらに厄介なのは、この超過分が高額介護サービス費(こうがくかいごサービスひ)の対象外だという点です。高額介護サービス費は、1か月の自己負担が一定額を超えたときに払い戻される仕組みですが、そもそも保険給付の対象外である限度額超過分は、この救済ネットに引っかかりません。つまり、超えた分は誰も助けてくれない、純粋な家計の持ち出しになります。 一方で、在宅医療の現場には「介護保険の枠を使わずに訪問看護を入れる」という正規のルートがあります。訪問看護が医療保険に切り替わる場面です。この切替は、節約テクニックではなく、制度上そうしなければならない法令上の振り分けですが、結果として介護保険の枠が大きく空きます。限度額超過を防ぐうえで、医療職とケアマネジャーが共通言語を持つべき最重要ポイントがここにあります。この回では、10割負担が実際に発生する具体的な場面と、医療保険と介護保険の切替判断に絞って掘り下げます。
333 お金に困ったと言える相手が、地域にいる
2026/10/25
在宅医療の現場では、医療とケアの質を左右する要素として「お金」が静かに、しかし決定的に効いてきます。訪問回数を減らしてほしいという申し出、福祉用具の解約、ショートステイのキャンセル、薬局での「今日は一部だけください」という言葉。これらは多くの場合、症状の改善や本人の希望ではなく、支払いの不安から出てきます。しかし患者さんや家族は、痛みや呼吸苦のことは話せても、お金のことはなかなか口に出せません。恥ずかしさ、迷惑をかけたくないという遠慮、そして「言ってもどうにもならない」という諦めがあるからです。 実は、お金の問題は「誰に言うか」でその後の展開が大きく変わります。同じ「支払いが苦しい」という訴えでも、医療費なのか、介護費なのか、保険料そのものなのか、生活費全体なのかによって、動くべき窓口がまったく違います。ケアマネジャー(介護支援専門員)に相談すれば何でも解決するわけではありません。むしろ、ケアマネが担当できる範囲は介護保険制度の周辺に限られており、医療費の高額療養費(こうがくりょうようひ)や保険料の滞納(たいのう)処分、債務の整理となると、医療ソーシャルワーカー(MSW)、保険者(ほけんしゃ)である市区町村、自立相談支援機関といった別の専門窓口の領域になります。この使い分けを在宅チーム全員が知っているかどうかが、結果として患者さんの療養継続を決めます。 もう一つ重要なのは、お金の相談は「困ってから」では遅いという事実です。介護保険料を二年以上滞納すると自己負担割合が引き上げられ、高額介護サービス費も使えなくなります。医療費の未収金(みしゅうきん)が膨らんでから相談しても、使える制度が減ってしまうことがあります。逆に、早い段階で一言「最近、支払いは大丈夫ですか」と聞けるチームがあれば、減免・猶予・貸付・制度利用という選択肢が残ります。この回では、支払い困難が見えたときに「どの窓口に、どの順番でつなぐか」という実務の地図を描きます。
【災害・停電】電気が消えた最初の1時間、何から手をつける|#332
2026/10/19
在宅医療の現場で停電が起きたとき、最も危険なのは「機械が止まったこと」そのものではなく、「あと何分もつのかを誰も知らないまま時間が過ぎること」です。人工呼吸器の内部バッテリーは機種によって概ね数時間、在宅酸素療法(ざいたくさんそりょうほう)の酸素濃縮装置(さんそのうしゅくそうち)に至ってはバッテリーを内蔵していない機種が主流で、電気が消えた瞬間に供給が止まります。吸引器(きゅういんき)も同様に、充電が切れていれば分泌物(ぶんぴつぶつ)の除去ができなくなります。つまり発災直後の最初の1時間は、「治療」ではなく「残り時間の計算」と「電源の付け替え」と「情報の流し方」で勝負が決まります。 朝の回で見たとおり、停電は「数時間で戻るだろう」という前提がしばしば裏切られます。発災直後に必要な判断は、「今どうするか」ではなく「3時間後、12時間後、72時間後に、この家の電源はもつのか」という時間軸の判断です。 この回では、アラームが鳴ったときの一般的な初動手順や、酸素トラブル全般の対応には踏み込みません。あくまで「電源が失われた」という一点に絞り、バッテリー残量の管理、外部電源への切替、用手換気(ようしゅかんき)への移行判断、ボンベへの切替と残量計算、そして誰にどの順番で連絡するかという段取りだけを扱います。現場の看護師、介護職、ケアマネジャーが、停電の第一報を受けた瞬間から動けるようにすることが目的です。
【災害・停電】停電72時間、誰から助けに行くか決めていますか|#331
2026/10/19
災害時、在宅医療の現場で最初に起きるのは「電気が止まること」です。建物が無事でも、電気が止まった瞬間から、人工呼吸器(じんこうこきゅうき)も、酸素濃縮装置(さんそのうしゅくそうち)も、吸引器(きゅういんき)も、エアマットレスも、冷蔵庫の中のインスリンも、すべてが止まります。2018年9月の北海道胆振東部地震(ほっかいどういぶりとうぶじしん)では道内のほぼ全域にあたる約295万戸が停電するブラックアウトが発生し、2019年9月の台風15号では千葉県を中心に最大約93万戸が停電し、地域によっては復旧までおおむね2週間を要しました。停電は「数時間で戻るもの」ではないという前提に立つ必要があります。 なぜ72時間なのか。発災直後の72時間は、行政も消防も救助活動に資源を集中させる時間帯であり、在宅療養者への公的支援が届きにくい空白の時間だからです。言い換えれば、最初の3日間は、普段その方を知っている私たち在宅医療・介護のチームが支えるしかありません。その3日間に、限られた人数のスタッフが、道路が寸断された地域で、誰のところから回るのか。これを発災後に考え始めると、必ず間に合いません。 本テーマの視点は「平時の備え」です。災害時に特別な力を発揮することは誰にもできません。できるのは、平時に決めておいたことを、そのまま実行することだけです。今回は、医療機器依存度による優先度の分け方、個別避難計画(こべつひなんけいかく)と避難行動要支援者名簿(ひなんこうどうようしえんしゃめいぼ)、そして患者・家族と決めておく連絡手段という3点に絞って整理します。
【災害・停電】電動ベッドが平らに戻らない、5階に取り残される|#330
2026/10/19
災害や停電が起きたとき、在宅医療の現場で最初に止まるのは「生活を支えていた電気仕掛けの住環境」です。電動ベッドは角度がついたまま固まり、エアマット(体圧分散マットレス)は数時間かけてしぼみ、エレベーターは止まり、エアコンも換気扇も動きません。医療機器のバックアップは平時から話題になりますが、ベッド・マット・エレベーター・室温という「生活動作と住環境」の停止は、見落とされたまま当日を迎えることが少なくありません。 月曜の回で触れたとおり、大規模停電は数日から、地域によってはおおむね2週間続いた例があります。つまり私たちが想定すべきは「48時間から1週間、電気のない家で寝たきりの方をどう守るか」という問いです。 さらに集合住宅では、停電が「垂直方向の孤立」を生みます。エレベーターが止まるだけでなく、受水槽(じゅすいそう)の加圧給水ポンプが止まって水も出ない。5階に住む要介護5の方は、ベッドが傾いたまま、マットがしぼみ、水も運べず、室温だけが上がっていく、という三重苦に置かれます。この回では、機器の選定論や熱中症予防の一般論ではなく、電気が来ない数日間に現場スタッフと家族が手で何をするか、に絞って整理します。
【災害・停電】とろみ剤が尽きた日の、食べる・飲むの守り方|#329
2026/10/19
災害や長時間の停電が起きたとき、在宅療養者の生死を分けるのは、実は人工呼吸器や酸素だけではありません。嚥下(えんげ)機能が落ちている方にとっては、とろみ調整食品(増粘剤・ぞうねんざい)が尽きること、嚥下調整食のレトルトが底をつくこと、そして冷蔵庫が止まることが、そのまま脱水と低栄養、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)に直結します。呼吸器や吸引器の電源確保は多くの事業所でチェックリスト化されていますが、「とろみ剤があと何日分あるか」を把握している在宅チームは、まだ多くありません。 ここで厄介なのは、嚥下障害のある方では「水があるのに飲ませられない」という独特の事態が起こることです。一般の避難者であれば配給されたペットボトルの水を飲めば済みますが、中間のとろみが必要な方にとって、とろみのつかない水は飲料ではなく誤嚥(ごえん)の原因物質になります。逆に、誤嚥を恐れて水分を絞れば、数日で脱水から傾眠(けいみん)やせん妄(せんもう)、腎機能低下へ進みます。災害時の嚥下管理とは、この二つのリスクの綱引きを、限られた物資のなかで現実的に調整する作業にほかなりません。 この回では、平時のとろみの付け方や水分摂取の工夫といった基礎は扱いません。扱うのは、災害に固有の三つの論点です。すなわち、嚥下調整食と経腸栄養剤(けいちょうえいようざい)を何日分どう積むかという備蓄量の設計、飲料水が限られた状況での必要量の見積もりと優先順位づけ、そして停電下での栄養剤と要冷蔵薬剤の管理です。明日の訪問から、持ち物リストと支援計画書に書き足せる形でお伝えします。
【災害・停電】避難所に行けない家族へ、背負わない準備リスト|#328
2026/10/19
在宅医療の対象となる方の多くは、災害が起きても避難所へ行けません。人工呼吸器(じんこうこきゅうき)や在宅酸素療法(ざいたくさんそりょうほう)を使っている、ストレッチャーでなければ移動できない、認知症があって集団生活に耐えられない、終末期で移動そのものが苦痛になる。理由はさまざまですが、結論は同じです。「逃げる」という一般的な防災の答えが、そのままでは使えない人たちがいます。そして、その現実を最も重く引き受けているのが同居家族です。 今週くり返し見てきたように、大規模停電は数日から、地域によってはおおむね2週間続くことがあります。この「数日から2週間」という時間軸は、在宅で電気に依存した療養をしている方にとって、生命に直結する長さです。にもかかわらず、多くのご家庭で備えは「家族の頭の中」にしかありません。頭の中にある備えは、その人が不在のとき、あるいは動揺しているときには存在しないのと同じです。 このテーマのタイトルを「背負わない準備リスト」としたのには、二つの意味があります。一つは物理的な意味で、要介護者を背負って階段を下りるような避難は現実的ではなく、荷物も背負えないという前提に立つこと。もう一つは心理的な意味で、家族が一人で全部を背負い込まない仕組みをつくることです。在宅医療スタッフの役割は、災害時に駆けつけることではありません。駆けつけられない前提で、平時に「紙」と「手順」と「役割分担」を家の中に置いておくことです。この資料では、備蓄リストと手順書、避難するか在宅にとどまるかの判断、平時に渡しておく緊急時カードという三つの具体策を扱います。
【災害・停電】うちのBCP、停電の夜に本当に動くか|#327
2026/10/19
在宅医療の現場でBCP(ビーシーピー、業務継続計画)という言葉はすっかり定着しました。介護保険サービスでは、二〇二一年度の報酬改定で自然災害と感染症のBCP策定が義務づけられ、三年間の経過措置を経て二〇二四年四月から完全義務化されています。つまり今、書類としてのBCPを持っていない事業所はほとんどありません。問題は、その紙が停電の夜に動くかどうかです。 想定すべきは大地震だけではありません。台風による長期停電では、携帯電話の基地局も非常用電源が尽きて圏外になった地域が広く出ました。在宅医療にとっての災害とは、建物が壊れることよりも、電気が止まり、電話がつながらず、人工呼吸器や吸引器を使う利用者さんの家に誰が行くのかを、情報が乏しいまま決めなければならない状況のことです。 この回で扱うのは、平時の顔の見える関係づくりや会議の進め方ではありません。そこは前提として、通信が途絶えた夜に、誰がどう安否を取り、誰が参集(さんしゅう、職員が所定の場所や役割に集まること)し、誰の家から先に回るのかという、BCP固有の意思決定の設計に話を絞ります。そして、その設計を行政・地域包括支援センター・他事業所とどう分担するか、訓練でどう壊して直すか、という三点を掘り下げます。
【災害・停電】水が出ない5日目、それでもケアは続く|#326
2026/10/19
災害対応の話は、どうしても発災直後の72時間に集中しがちです。しかし在宅医療の現場で本当に苦しくなるのは、むしろその後です。水道が止まったまま4日、5日と経過すると、備蓄した水はほぼ底をつき、紙オムツや尿取りパッドの残りが数えられるほどになり、ゴミの収集も止まったままになります。訪問するスタッフ自身も被災しており、訪問できる件数は平時の半分以下。この「継続期」こそ、在宅療養者の皮膚と排泄と内服が一気に崩れる時期です。 実際、過去の災害では断水の長期化が繰り返し起きています。2016年の熊本地震では最大で40万戸を超える断水が発生し、地域によっては復旧に数週間を要しました。2024年の能登半島地震では、水道の復旧が数か月単位に及んだ地域もありました。一方で、国が家庭備蓄として推奨しているのは最低3日分、できれば1週間分です。つまり「備蓄が想定どおりに持っても、断水のほうが長く続く」という事態は、例外ではなく標準的なシナリオだと考えるべきです。 そしてもう一つ押さえておきたいのが、災害関連死(さいがいかんれんし)の存在です。熊本地震では、建物倒壊などによる直接死よりも、その後の環境悪化や持病の増悪(ぞうあく)による関連死のほうが多かったことが知られています。在宅で療養を続ける人にとって、断水5日目は命に直結する環境です。今回は、平時の褥瘡(じょくそう)予防やオムツ選びの総論ではなく、「水と物がない中で、何を削り、何を絶対に守るか」という優先順位の判断に絞って整理します。

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