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ヒダテン!ボイスドラマ

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Categories
Country
United States
This podcast has
172 episodes
Language
Japanese
Date created
2025/01/17
Latest episode
2026/10/16
Average duration
19 min.
Release period
8 days

Description

飛騨高山を舞台にした珠玉のボイスドラマをお届けします。コミュニティFM Hit's FM(Hida Takayama Tele FM) で放送中の人気ラジオ番組! ヒダテン!のCV声優10名 が入れ替わりパーソナリティを務める「Hit’s Me Up!(ヒッツ・ミー・アップ!)」の中で放送されているボイスドラマです!ボイスドラマを通じて飛騨高山の魅力に触れてみてください! <番組の特徴> ・ 飛騨高山を舞台にしたボイスドラマを多数制作! これまでに100本以上の作品を発表し、地元の魅力を物語として発信 ・ 放送情報   放送局1: Hit's FM(Hida Takayama Tele FM)   放送時間:毎週金曜10:30-11:00/毎週土曜13:30-14:00   放送局2: FMらら(FMラインウェーブ株式会社)   放送時間:毎週金曜13:00-13:30   配信:Spotify、apple(iTune)ミュージック、amazonミュージック、YouTubeミュージック、CastboxなどのPodcastで番組とリンクして配信中! 飛騨高山の美しい風景とアニメ文化をつなぐ、唯一無二のラジオ番組! 「Hit’s Me Up!」を聴けば、新たなエンタメの扉が開きます!

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ボイスドラマ「林檎失踪事件」
2026/10/16
「もうマジで無理! こんな家出ていってやる」 秋の高山祭で賑わう10月。 久々野のりんご農園で母親と大喧嘩した林檎は、本当に家を飛び出してしまいます。 向かった先は、父・静流がペンションを営む奥飛騨温泉郷。 今回はアガサ・クリスティの名作ミステリー『アクロイド殺し』『オリエント急行殺人事件』にオマージュを捧げた、ヒダテン!流ミステリーコメディ。 舞台となるのは、高山から平湯、新穂高、そして中尾温泉へと走る濃飛バス新穂高線。 紅葉の奥飛騨を走る路線バスとともに、ちょっと不思議な「失踪事件」をお楽しみください。 果たしてあなたは、林檎が隠している“真相”を見破れるでしょうか? 【ペルソナ】 ・林檎=りんご(18歳/CV:坂田月菜)=JK3年生/父と離婚した母と2人暮らし/バスマニア ・静流=シズル(42歳/CV:日比野正裕)=離婚後に中尾温泉で温泉付きペンションを営む。ペンションの畑でスクナカボチャを育てている ・如菜=ジョナ(39歳/CV:小椋美織)=林檎の母/離婚したあともシングル/農園で働く・理玖=リク(19歳/CV:田中遼大)=林檎のバスマニア仲間/福井在住 ・愛李彩=アリサ(40歳/CV:中島ゆかり)=新穂高の旅館で働く仲居さん ・沙羅=さら(25歳/CV:岩波あこ)=渋谷の旅&グルメ系インフルエンサー(インスタグラマー)【プロローグ/久々野のりんご栽培農家】 ▪️SE/小鳥のさえずり 「もうマジで無理! なんで毎年10月ってこうなん!?意味分かんないんだけど! なんで私だけ、高山祭行けないの!?おかしくない!? 見てよ、ママ!インスタもTikTokも! 屋台の引き揃えの写真、こーんなにいっぱい。 友だちみーんなみだらしとか五平餅とか食べ歩きして、超楽しそうなのに! 私だけいけないの、なんで!?」 「りんご農園の娘だからでしょ! いまさら何言ってんの!」 「マジでりんご農園になんて生まれてこなきゃよかった。最悪」 「林檎!いい加減にしなさい!」 「なんで?間違ったこと言ってないし。 いいわ。もう。 こんな家出ていってやる」 「っとにもう!やんなるわ。 そういうとこそっくりなんだから・・」 え・・・ ママが思わず口にする。 それは去年別れたパパのこと。 ママも私も、ずっとタブーにしてたのに。 絶対口にしなかった言葉。 「あ・・・いや・・ちがくて・・・ とにかく黙って収穫手伝いなさい」 私は黙ってママに背を向けた。 うちは久々野のりんご農園。 毎年この時期は、目が回るくらい忙しい。 って、そんなこと言われなくてもわかってるし。 生まれたときからず〜っとそう。 私は林檎。 名前も林檎。 畑で実ってるやつとおんなじ。 それもず〜っといやだったけど。 友だちの楽しそうなストーリーを見て、ついにキレちゃった・ そのあとはママがなにを言ってきても全部シカト。 アタシは部屋に戻って、速攻で荷造りを始めた。 思ったとおり。 ママは追いかけてこない。そんなヒマないよね。 黙々とりんごの収穫を続けていた。 【シーン1/高山濃飛バスセンター新穂高線のりばから中尾高原口へ】 ▪️SE/高山濃飛バスセンターのガヤ 高山濃飛バスセンター新穂高線5番のりば。 路線バスは意外と混んでない。なんで? 紅葉シーズンの奥飛騨って、まじハイシーズンじゃん? あ、そっか。今日はみんな祭り見てるから。 てか、なんでこの路線なの?って話なんだけど、ぶっちゃけ・・・ パパ、離婚してから新穂高の中尾高原でペンションやってんだよね。 ハッキリ教えてくんないけど、ワンチャンそれも離婚のガチ原因説。 アタシは、裏垢でパパのペンション、フォローしてるし。 宿泊客の投稿、まじでレベチすぎてえぐい。 まずは、中尾高原の絶景掛け流し貸切風呂。貸切風呂だからスマホ持ち込めるのガチで神。 湯煙の向こう、北アルプスのビジュがまじで大優勝してる。 で、標高1,100mならではの、天然のプラネタリウム。 街明かりゼロ、お風呂に浸かりながら見上げる満天の星! ってかガチで優勝確定っしょ。 からの〜、とどめはペンションから車ですぐの『北アルプス大橋』! 全長150m、谷底からの高さ70m。上路式ソリッドリブアーチ橋? 錫杖岳とか笠ヶ岳をバックにしたビジュ。奥飛騨で一番すごいと思う。 だ・け・ど〜 パパ、アピるの下手すぎ。 こんなにスペック高いのに、SNSのアカウントほとんど放置だし。 もうちょっとなんとかならん?って感じ。 ってことで、目的地は奥飛騨温泉郷。 パパのペンション。 もちろん、アタシが行くことは伝えてない(笑・・むふふ)。 下手にLINEとかしたら、絶対ママにチクるっしょ。 たまにはサプラ〜イズ、ってのもアリじゃん? ま、アタシ的には、月イチの面会とか普通に足りなすぎて不満だし。 バスの乗客は、パラパラと数人。 その中で一番後ろに座ってるのは男子大学生ひとり。 なんかめっちゃ嬉しそうな顔してて草。 時刻表通り。 ドアが締まってバスが発車した。 高山駅前から国道158号を東へ。 『古い町並口』で、外国人のグループが降りていった。 安川通りってフツーに歩いてもエモいのにね。 別院前、東小学校口、松之木農協(まつのきのうきょう)を通って、丹生川へ。 このへんから景色が山になっていく感じ、ぶっちゃけ好きだわー。 丹生川中学校前。ほとんどのお客さんがバスを降りた。 観光客じゃなくて、リアル地元民ってことね。 次のバス停、丹生川支所前の町方(まちかた)から乗ってきたのは、ひとりの女性客。 40代くらい?ちょいキレイ目。 髪を一つにまとめ、白のニットにキャメルのプリーツスカート。 席に座るとすぐ、彼女のスマホに着信が鳴り響いた。 ▪️SE/スマホの着信音 いやいや、おいおい(笑)マナーモードにしとけよって話。 「あ、もしもし、私。 いまバス乗ったから」 え?出ちゃうの? 空気読めないなあ。 でもなんか焦ってる感じ? 「うん、1時間ちょっとで着くと思うわ」 1時間ちょっとって、パパのペンションまでとほぼ同じじゃん。 なんか、まじでいや〜な予感しかしないんだけど。 、 「で、そっちはどう? ロープウェイのお客さんとか、これからチェックインでしょ」 新穂高ロープウェイ? チェックイン? バスは鍾乳洞口、ほおのき平を通って 五色ヶ原入山口(ごしきがはらにゅうざんぐち)へ。 いよいよ奥飛騨突入って感じ。 さっきの40代話中(わちゅう)おばさんの声がだんだん大きくなる。 てか、まだ電話してんの? 「今晩? いいけど・・・大丈夫なの?」(※少し思わせぶりに) いや、ちょっと待って。ちょっとちょっと。 まさか、まさかだけど・・・ この人、パパの彼女だったりして〜? どうしようどうしよう? ってガチ焦りしてたら、始発から乗ってる大学生が席を立った。 「ケータイ、ほかの人の迷惑になりますから」 お。ヒーロー降臨じゃん。カッケー。 「あら、ごめんなさい。 実は緊急の用事が入っちゃって。 でも、ほかの人ってあなたしかいないけど・・」 「だから迷惑なんですけど。 とにかく手短にお願いします」 「はい、すみません」 と、そのとき。スマホがぶるってLINEの通知。パパから? やっぱきたか・・『いまどこ?』即レス。 『実はパパのペンションに向かってる』 『どうしたんだ?』 『いろいろあって・・』 『そうか。 いまバスか?』 『うん』 『降りるのは、中尾焼岳登山口だからな。間違えるなよ』パパとLINEしてたら、いつの間にかバスは平湯バスターミナルへ。 平湯から、スーツケースを引いた女性が乗ってきた。 25、6歳くらい? 垢抜けた雰囲気。 ダボッとしたワイドデニムにハイブランドのミニチェーンバッグ。 スタイリッシュな黒のアルミキャリー。 抜け感のある大人ストリートカジュアルって感じ?メロい。 乗客は、40代話中(わちゅう)おばさんとその横に移動した大学生、 一列空けてその前に座ったメロ姉さんだけ。 「あなた、大丈夫ですか?」 え?なに? 話中おばさんが緊迫した声で口を開いた。 見ると大学生が、俯いて胸を押さえている。 メロ姉さんも振り返って・・ 「どうかされましたか?」 「大丈夫です。ちょっと車酔いしちゃったみたいで・・・」 バスは新穂高温泉口へ。 アタシはパパにLINEする。 『パパ、いま新穂高温泉口だけど、車酔いした乗客がいて大変みたい。 どうしたらいい?』 『そうか。 まずベル
ボイスドラマ「101番目の提灯」
2026/10/09
「君の灯りは、世界で一番綺麗な灯りになるんだ・・・」 朝の高山濃飛バスセンター。5分間の缶コーヒーから始まった、届かないはずの恋。伝統の秋祭りの夜、100個の提灯の中で待つ彼のもとへ届いた奇跡とは・・・ 【ペルソナ】 ・アカナ=(20歳/CV:米山伸伍)=古川の専門学校で木工や家具の技術を学ぶ ・萌々=(もも/22歳/CV:高松志帆)=高山駅前のリゾートホテルで働くホテリエ 【シーン1/高山濃飛バスセンター(8月終わり)】 ▪️SE:高山濃飛バスセンターの雑踏(セミの声) 「おはよう!今日もきれいだね!」 「もう〜、やめてよ。みんな見てるのに」 「仕事がんばって!」 「ありがと!アカナもね!」 オレだけにわかるよう、 小さくウィンクをして彼女は市街地へ駆けていく・・・ ・・・・・なんて、あるわけないよなぁ〜! 高山濃飛バスセンター。 古川神岡線の降車場で、毎朝オレは妄想する。 朝6時20分。 古川駅前から高山濃飛バスセンターへやってくる始発のバス。彼女はいつもこのバスから降りてくる。 残暑厳しい8月。少しだけ残っている夜の涼しさ。 バスを降りた彼女は静かに歩き出す。肩のラインが綺麗な、白いサマードレス。風が吹くたび、裾のフリルが軽やかに揺れる。 丁寧に編み込んでアップにした髪型。うなじのラインが美しい。 あ・・ 心の中で声をかけようとしても、言葉がでない。 ほんの一瞬、視線が動いてオレの方へ。 口角が少しだけ上がったような気がした。 オレの名前はアカナ。 大新町(おおしんまち)1丁目に住む20歳(はたち)の学生。 古川にある専門学校で、木工とか家具の技術を学んでいる。 ホントは、からくりを作りたいんだ。 関係ないけど。 オレの乗るバスは6時40分。 彼女に会うために、毎朝15分も早起きしてる。 バカだよな。ったく。 【シーン2/高山濃飛バスセンター(9月中旬)】 ▪️SE:高山濃飛バスセンターの雑踏(雨の声) 9月の雨。 アスファルトに跳ね返る雨の音。 冷たい雨粒を見ながら、オレはいつものバスを待っている。 手にはコンビニで買ったビニール傘。 始発バスがロータリーに滑り込んできた。 小さく水飛沫が上がる。 タラップを降りる彼女は今日も美しい。 チャコールグレーのボトムスに、白いブラウス。 その上から、薄手のカーディガンを羽織っている。 雨でもやっぱり綺麗だな・・・ コンコースでバッグから折りたたみの傘を取り出す。 ワインレッドの上品な生地。 ボタンを押して開こうとしているみたい・・・だけど・・ ん? どうかしたのかな? なにか引っかかって開かないようだ。 道ゆく人は、気づかずに通り過ぎていく。 オレは迷わず彼女の横へ。 彼女に見えるように、手を差し出す。 「え・・」 「貸して。オレが開けてやるよ」 「あ・・、だ、大丈夫です」 一瞬オレをみたあと、すぐに視線を傘に戻して開こうとする。 「あれ・・・なんでかなあ」 「いいから貸して」 「いえ・・」 オレはなかば強引に彼女の手から傘をとりあげる。そのまま、力任せに開いた。 すると・・・ ▪️SE:傘の骨が折れる音「バキッ」 「あ・・・」 「ごっ、ごめんなさい!」 「ぷっ・・・」(笑) 傘は開いたけど、中の骨が折れて、飛び出している。 彼女は鼻で笑ったあと・・・ 「ありがとうございます」 そう言って、オレの手から傘をひったくった。 「じゃ、急ぐので・・」 「待って!」 「なにか・・?」 「これ・・オレの傘、使って」 「結構です・・ 駅前のお店で傘を買うから」 「そんなん、もったいない。 いいからオレの傘持ってって。 で、その傘はこっちへ。 オレが直しとくから」 「いえ、ホントに大丈夫ですから・・」 「大丈夫じゃない。 オレ、木工の学校行ってるんだ」 「え・・」 「そういうの直すの得意だから」 「でも・・」 彼女が言葉に詰まったのをみて、強引に壊れた傘を奪う。 「あ・・」 そのまま、自分の傘を彼女に押し付ける。 「それじゃあなた、濡れちゃうじゃない・・」 「明日、きっちり修理して渡すから」 「待ってよ・・・」 何か言おうとする彼女に背中を向けたまま手を降る。 振り返らずに、ロータリーへ入ってきた古川神岡線に乗り込んだ。 【シーン3/高山濃飛バスセンター(翌日)】 ▪️SE:高山濃飛バスセンターの雑踏(コオロギの声) 次の朝。 いつもの時間にオレは緊張しながらバスを待っている。 手には修復された折りたたみ傘。 思ったより時間がかかっちまったな。 てか、ほぼ徹夜・・・ 親骨(おやぼね)の関節部分が完全にひしゃげて、  かしめピンが弾け飛んでたんだよなあ。 ペンチの先で、アルミ骨の歪みを、真っ直ぐに叩いて伸ばした。 関節の破断部には、真鍮製の補修用スリーブを割り込ませる。 でもって、新しいかしめピンを打ち込んでがっちり固定。 仕上げは、防水ブチルテープを巻いて、雨水の浸入と金属疲労を防いだ。 ・・・な〜んて彼女に説明しても、きっとうざったいからやめとこ。 ほどなく、彼女の乗ったバス、古川神岡線が入ってくる。 なんか・・ドキドキする・・・ やんなるな、ったく。 ああ、バスのスピードがやけに遅く感じる。 ステップから降りてくる彼女の姿。 まるでスローモーションをみているようだった。 雨はやんでいるのに、手にはビニール傘。 なんか・・・ピカピカじゃねえか? しかも・・ 「おはよう。昨日はありがとう」 そう言って手渡したビニール傘には・・・なんだ? 小さなリボンのシールって・・・ 「おかげで助かったわ」 「あ・・そんな・・・」 「じゃ・・」 「ちょっと待って」 「え?」 「あの・・これ・・・」 「なあに?」 「傘、直しといたから・・・」 「うそ!あんなボロボロになってたのに」 「ボロボロって・・壊したのオレだし・・・」 「ありがとう・・・あ、ちょっと待って」 そう言って彼女は自販機の方へかけて行く。 やがて缶コーヒーを2本手に持ってきて・・ 「はい。お礼に。 ね、乗るのこのバスでしょ。古川神岡線」 「あ・・はい・・・」 「発車まで15分くらいあるよね?そこのベンチで少し話せる?」 そう言って、彼女と過ごした15分。 それは、20年の人生の全てを凝縮したような15分だった。 彼女の名前は萌々、というらしい。 高山市内のホテルで働くホテリエ。 国府駅前から30分かけて高山濃飛バスセンターまで通っている。 オレが古川の専門学校へ通っていることを話すと、 「すれ違いの人生ね」 と彼女は笑った。 その屈託のない笑顔が眩しすぎて、 オレはもう、恥ずかしいほど会話が続かなかった。 やがて、彼女の乗ってきたバスが、2番乗り場へと入っていく。 後ろ髪をひかれる思いでバスに乗りこむ。座るのはいつもの一番後ろの席。彼女はバスが見えなくなるまで手を振ってくれた。 【シーン4/高山濃飛バスセンター(9月中旬〜下旬)】 ▪️SE:高山濃飛バスセンターの雑踏(コオロギの声) その日からオレたちは毎日、バス停で缶コーヒーを飲んで話をした。 ホテルのお客さんは外国人が多いから、何ヶ国語も覚えなきゃいけないこと。 ロビーには、飛騨古川や高山の『匠』が作った家具が置いてあること。 毎日ピンヒールを履いて立ちっぱなしだから、 いつも足首の後ろに絆創膏を貼っていること。 彼女が困り眉をして口角を上げる。 大変なんだな、ホテルウーマン、ホテリエって。 オレも自分のことを話す。 家は市街地の大新町1丁目だということ。八幡祭(はちまんまつり)の屋台組だけど、屋台は消失して台車しか残ってないこと。 いつか消失した屋台を復活させたいこと。 そのために、古川にある木工デザインの専門学校に通っていること。実は、からくりの勉強をしていること。 萌々の傘を直したときもからくりのバネを応用したこと。 萌々は興味深そうにオレの話を聞く。 それは毎朝6時20分から40分までの、短くて甘美なひとときだった・・・ 10月に入ったある日・・・ オレはホットの缶コーヒーを萌々に渡し、いつものようにベンチに座る。 「さすがにもう、ホットだよね」 暖かい缶をカイロのように胸に抱く。 「そろそろ、コートかなあ」 「あ、そうだ、これ」 「なあに?」 「プレゼント。やるよ。 昨日実習で作ったんだ。ランタン」 「わあ、かわいい!」 「実はさ、これ、以前修理した傘の骨を再利用して作った。 内側のアルミの受け骨は綺
ボイスドラマ「おおきなさくらのおひっこし」
2026/10/02
湖の底に沈んだふるさと。そして、生き続けた二本の桜。 2024年、東京・渋谷。89歳の咲良のもとへ届いた一冊の絵本。 『おおきなさくらのおひっこし』 そこに描かれていたのは、70年以上前、ダム建設によって湖の底へ沈むことになった故郷・荘川村中野地区と、二本の大きな桜の物語でした・・・ 【ペルソナ】 ・さくら=荘川桜の精(年齢不詳/CV:岩波あこ)=ストーリーテラー ・咲良=さくら(19-20歳/23歳/26歳/89歳/CV:岩波あこ)青年団所属で反対同盟の運動員 ・昭一=しょういち/通称ショウ(年齢同上/CV:岩波あこ)咲良の幼馴染 【プロローグ/2024年4月/東京渋谷】 ▪️SE/玄関チャイム「お荷物です」 2024年春。 私の元に小さな小包が届いた。 私の名前は、咲良。 89歳。 東京の渋谷に住んで、もう60年以上になる。 ▪️SE/荷物の中身を開ける音 小包の中身は・・・ 絵本? 題名は・・・ 『おおきなさくらのおひっこし』。 私は本のページを捲る。 『荘川町中野地区。 そこには照蓮寺、光輪寺というお寺があり、 お寺には人々が大切にしていた二本の桜の木がありました』 え? 荘川村?中野地区? 桜の木? 何十年ぶりかに耳にするその名前。 荘川村の中野は、私が産まれたところだ。 【シーン1/1952年10月〜1953年1月/荘川村中野】 『ある日突然、この荘川にダムができるという話がきました。 中野地区の人たちは、みんなダムづくりにはんたいでした。 ダムは中野地区につくられるため、ふるさとが水の中にしずんでしまうのです』 ▪️SE/小鳥のさえずり 1952年10月。 ダム建設計画が公表された。 私がその話を聞いたのは、光輪寺の境内。 19歳の私は、幼馴染のショウ=昭一と一緒だった。 光輪寺の境内は、小さい頃から私たちの遊び場。 大人になってもそれは変わらない。 遅い春には、桜吹雪の下でいつまでもショウと語り合った。 ”お寺も、桜も、なにもかも・・・ 私たちの村が水の底に沈む?” 当時の荘川村は農作物も豊富で、恵まれた農村だった。 土地を失うということは『職と未来を同時に失うこと』を意味する。 年が明けると『御母衣ダム絶対反対期成同盟死守会』を結成。 日に日に反対運動は激しくなっていった。 私とショウは、家々の玄関に『ダム絶対反対』と書いた木札を打ち付ける。 バス停や道路沿いの家には巨大な横断幕を張って回った。 その年、白川村と合同陳情団を結成。 国会議事堂まで直訴に出かけた。 反対運動は日を追うごとに、激しさを増していく。 争いは何年にも渡り、終わりの見えない暗闇へと突き進んでいった。 そこに現れたのが『賛成派』の村人たち。 それは村を二分する深刻な対立へと発展した。 死守会の若手頭、ショウの怒りは頂点に達していく。 そんな時、私たちの目の前に、ひとりの老人が現れた。 【シーン2/1959年夏/荘川村中野】 『ある日、ダムづくりをすすめている、偉い人がやってきました。 その人は、ダムづくりが日本のためになると説明しました。 しかし、中野地区の人たちは、 何回きてもらっても、ダムづくりには、反対だからね、と言いました』 ▪️SE/ヒグラシの声 1959年。 初めてその人を見たとき、少し驚いた。 ダム開発の責任者。 それは冷徹で心のない、怖い人 私はそう想像していた。 なのに、その人の目は全く違った。 私たちを真っ直ぐに見て、深々と頭を下げる。 時には、目を潤ませながら。 ショウは、そんな姿を目にしてもまったく動じなかったけど。 『日本のために、みなさんからふるさとをとりあげる。 ほんとうにひどい話だと想っています』 私にはその人が、うわべだけのでまかせを言っているようには見えなかった。 ショウは相変わらず鋭い目つきで老人を睨みつける。 その夜、家に帰ると、父と母が私を待っていた。 仏壇の前に 正座して、私に告げたのは・・・ 『荘川を出る。新しい場所でやり直す』 耳を疑う言葉。 父の声は小さく、震えていた。 母は仏壇に向かったまま、肩を落としてすすり泣いている。 『もうここまでか・・・』 私の心の中に、波紋が広がっていった。 ▪️SE/小鳥のさえずり 次の日。 私はショウを光輪寺の境内に呼びつけた。「さくら・・どうしたんだ?」 「私、東京へ行くことになった」 「え・・・?」 絶句したまま、ショウは何も言わなかった。 季節は晩夏を越えて、もうすぐ冬の準備に入る頃。 目の前には私たちをずうっと見守ってきた大きな桜の木。 この桜も、水の底に沈んでしまうのか・・・ どうしようもない悲しさが私の心を覆っていく。 老木は、風に吹かれて枝を揺らしていた。 【シーン3/1959年11月/荘川村中野】 『一九五九年(昭和三十四年)11月、 みんながあつまって中野地区のお別れ会がひらかれました』 ▪️SE/虫の声 1959年11月。 荘川村立中野小学校。 反対同盟の解散式がおこなわれた。 それは今思い出しても、切なくて美しい和解の瞬間。 解散式に出席したのはなんと、開発の責任者。あの老人。 反対同盟から案内状を受け取り、わざわざ足を運んでくれたという。 反対同盟の幹部が解散宣言を読み上げる。 ショウは、何も言わず唇を噛んでいた。 宣言が終わる。 壇上で反対同盟の代表と開発責任者の老人が歩み寄った。 言葉を交わすのではなく、心を結ぶような固い握手。 その瞬間、大人も子供も、ショウも私も、嗚咽した。 愛する故郷と決別しなければならない寂しさ。 それでも開発側の誠意にようやく心rがほどけた複雑な感情。 解散式が終わり、誰もいなくなった小学校。 教室の黒板には、チョークで大きくこう書き残されていた。 『さようなら御母衣、さようなら中野』 それはまるで、私の心を映す言葉。 私は翌日、両親とともに、東京へ旅立った。 【シーン4/1960年/荘川村中野】 『この桜をたすけましょう。なんとかしてくれる人をさがします』 『こうして光輪寺と照蓮寺の桜の木のおひっこしがはじまりました』 ▪️SE/虫の声 1960年11月。 光輪寺と照蓮寺の桜が山の上へ引き上げられた。 驚くような大移植が無事完了。 それを指示したのは、開発の責任者、あの老人だった。 え? うそ? あの桜が・・・ 東京へ引っ越したあと、父と母は渋谷で旅館業を始め軌道に乗った。 私には縁談が舞い込み、この年、お見合いをして結婚。 すぐに子供が生まれ、目が回るような毎日。 荘川のことなど、考える余裕すらなかった。 子供たちが成長して巣立つと、代わりに孫を授かる。 孫たちの面倒を見ながら 気がつくと60年以上が経っていた。 知らなかった・・・ 生きていたんだ・・あの桜たち・・・ 『春のようせいと、桜のようせいがお話をはじめました』 『今年はおそかったね。 暖かいところからまわってきたので少しおそくなったけれど、 ちゃんとあたらしい芽をもってきたよ』 『春のようせいのおかげで、桜の木に芽がでました。 桜のようせいも喜びました』 『おおきなさくらのおひっこし』 そういう意味なのね。 最後のページを捲ったとき、一枚の紙が床に落ちた。 きれいに折り畳まれた羊皮紙。そこには簡素な文字でこう書かれていた。『父からこの絵本を咲良さんに送るよう言われました。父の名は・・・』 昭一? ・・・ショウ! 『父は故郷が湖底に沈んだあと、中学校の教師となりました。 中野中学校は統合されて、荘川中学校になり、 定年まで勤め上げたのです。 この本は今年、2024年に4月に完成しました。 作ったのはいまの荘川中学校2年生の生徒たちです。 父は絵本の完成をとても楽しみにしていました。 残念ながら本を目にすることはできませんでしたが、 いつもこう言っていたのを思い出します。 咲良に見せてやりたい。 教えてあげたい。 時代に翻弄されながら、立派に生き抜いている荘川桜のことを。 咲良、というのは咲良さんのことですよね。 集団で東京や千葉へ向かった中野開拓団。 その名簿を調べました。 父と同い歳。 咲良さんが父と一緒に反対運動を続けていたことも知りました。 私が、咲良さんって誰?と聞くと いつも『戦友だ』と言っていました。 本当に『戦友』だったのですね。 この本は父の形見でもあります。 どうか、父の気持ちをくんでいただき、受け取っていただけませんでしょうか』 ああ、よかった。 ショウ、荘川で幸せな人生を全うしたのね。 今度会えたら、荘川桜のこと
ボイスドラマ「天文薄明」
2026/09/25
夕暮れと星空のあいだで、少女は少しだけ大人になる。 昼が終わり、夜が始まるまでのわずかな時間。 まだ空には明るさが残っているのに、少しずつ星が姿を現し始める・・・ そんな「天文薄明」のような時間の中で、16歳の少女・星夜の小さな旅が始まります。 【ペルソナ】※「星の降る里」「卒業旅行」の世界観 ・星夜=せいや(16歳/CV:坂田月菜)=東京・広尾に住むJK。星座ヲタク。久々野は母の実家 ・大空=リク(22歳/CV:田中遼大)=東京の大学4年生/高山出身/清見でキャンプ中 ・聖夜のママ=(42歳/CV:山﨑るい)=東京のヘアデザイナー/パリコレに参加 ・=あさひ(16歳/CV:蓬坂えりか)=朝日村のJK。漢方薬剤師になりたい 【プロローグ】 ▪️SE:小鳥のさえずり〜携帯電話の着信音 「もしもし?星夜?」 ママから国際電話があったのは10月7日の早朝だった。 ママは、フリーのヘアデザイナー。 東京で雑誌の撮影とか、芸能人のヘアメイクとかをやってる。 でもいまは、パリ。 親友からのオファーでパリコレのヘアメイクチームに呼ばれた。 友達ってのは、新進気鋭のファッションデザイナー。 世界最高峰の舞台。 からのー、裏側だもんね。 フツーにすごいと思う。 「パリコレ、さっき終わったわ。もうサイコーよ!」 「おつかれ〜、飛行機のチケットとれた?」 「それがねえ、星夜・・」 「なに?」 「ママのヘアデザインが・・・ 有名なファッション雑誌の編集長の目にとまっちゃったの」 「それで?」 「ショー直後のエディトリアル撮影、参加してほしいって」 「だから?」 「来週まで帰れない」 「えーーーー」 「ごめん、星夜。ほんっとにゴメン! おばあちゃんにはママから連絡しとくから。 ひとりで高山行ける?行けるよね?」 週末、本当はママと一緒に高山へ行くはずだった。 秋の高山祭。 『高山祭はねー、一生に一度は見ておかないと! 言葉なんかじゃ表現できない! とにかくサイコーだから!』 って言ったのママじゃん。 まあ、いいわ。 高山は初めてじゃないし。 1か月前、一緒にトレッキングした朝陽にLINEしてみよっと。 『星夜、ごめんーー! 高山祭の2日間、富山の薬科大学で特別講義入っちゃってる。泊まり込みで。 言ってなかったけど、私、漢方薬剤師になりたいの。 そのためには大学の薬学部へ進学しないとダメなんだ。 だけど、星夜、すごいねー!高山祭くるんだ! 宵祭も楽しんで!』 漢・方・薬・剤・師! ってマ!? ガチですごすぎ。 朝陽って、ただの薬草オタクじゃなかったんだ。 なんか、フツーなのウチだけじゃん。 マジ病むわ〜。 このあと、ママはおばあちゃんにすぐ連絡してくれた。 だ・け・ど。 おばあちゃんちは久々野のりんご農家。 この時期、収穫とか、色づけって作業で、 休む暇もないくらいガチで忙しいらしい。 りんご狩りの対応もするんだって。 ま、ウチは別に全然ヘーキ。 ひとりで高山祭行くから大丈夫だし。 前髪を触りながら、ジルの鏡を見る。 パリ行く前にママがカットしてくれたやつ。 『絶対星夜に似合うから!』 っつって、ママオリジナルのウルフカット。 パツンと切り揃えるんじゃなくて、 ミリ単位でハサミを縦に入れたっつー、束感。 指先で少しクシャッと崩せば、 無造作だけど、カッケー束になって額に落ちてくる。 マジでオシャ。 はぁ〜。 まいっか。 久々野のおばあちゃん、マジで優しいし、高山祭楽しみすぎて無理。 古い町並とかテキトーにぶらついてこっと。 【シーン1/高山濃飛バスセンター】 ▪️SE:高山濃飛バスセンターの雑踏 「あ、すみませーん!乗りまーす!!」 高山濃飛バスセンターから、男の人が息を切らせて乗り込んできた。 大学生、かなあ。 なんか、派手じゃないのにシンプルにレベチで雰囲気ある感じ。 今っぽいきれいめのブルゾンに、白シャツチラ見せのクリーム色ニットとか、マ。 東京っぽい。 ウチはノースリーブの白いティアードワンピース。 肩が大胆に出たオフショル気味のデザイン。 胸元にはネイビーのフリルとリボン。 うーん。季節感バグってるかも。 といいつつ、このビジュで、高山祭の2日間を思いっきり楽しんだ。 いやマジ、すごすぎて語彙力失うレベル。 控えめに言って、最高! おばあちゃんに『屋台見てきな〜』って言われて、 ラーメン屋さんの屋台とか想像してたから、ビビったわー。 でかいし、ゴージャスだし、数多すぎだし。 『屋台曳き廻し』とか、ヤバすぎてフツーに『うわっ』って声出たわ。 『宵祭り』なんて、本当にパねえ通り越してエグい。 提灯の数が100個?100個ってマジ何個? ガチでエモくない? あ、てか、エモいっつったら『宮川の朝市』。 『朝市』って生まれて初めてだったけど。 おばちゃんたちの飛騨弁がチョー可愛くて。 楽しくて、ず〜っとしゃべっちゃった。 橋のところで買ったみたらし団子もガチで美味すぎて飛んだ。 帰る前にはちゃーんと神社もお参りしてきたよ! 『屋台の曳き揃え』やってた、桜山八幡宮?ってとこ。 素敵な彼氏ができますように・・・って。 ガチでご利益エグいパワースポットらしいし。 マジで叶うといいなあ・・・なんて 「あの、ここ、いいですか?」 え? あ、そうか・・・ バス結構混んでて、席あいてないんだ。 ウチのとなりしか・・ 「あの・・」 「あ、どうぞ」 「ありがとうございます」 え。 チラ見したんだけど、フツーに顔面良くない? ワンチャン割とイケメンかも。 「あの・・・」 「え」 「高山祭・・・行かれたんですか?」 「あ、はい」 「昨日も?」 「はい」 「じゃあ、宵祭りも?」 「行きました」 「すごいでしょ。ボク、アレが見たくて毎回帰ってくるんです」 「帰ってくる?」 「ああ、はい。 ボク、東京の大学行ってるんですけど、 実家が清見なもんで、帰省してて」 「そうなんですか」 「知ってますか、秋は『宵祭り』、春は『夜祭』っていうこと」 「へえー、知らなかった。なんで?」 「これ、いろんな説があるんだけど。 神事の呼び方が由来って説が有力かなあ」 「神事?」 「春の高山祭がおこなわれるのは日枝(ひえ)神社でしょ。 日枝神社の伝統的な神事に『夜祭(やさい)』ってのがあるんだ。 『夜祭』って書いて『やさい』って読むんだよ。 だから春は『夜祭』(よまつり)」 「ふうん」 「あ、ごめん。あんまり興味ないよね」 「え、いや、そんなことないけど」 「君は高山の人?」 「ううん。家は東京の広尾。 久々野のおばあちゃんちに泊めてもらってて」 「久々野?」 「うん。 以前JRで帰ろうとしたら、列車の本数がガチでなさすぎて絶望したから、 今回はバスにしたんだよね(笑)」 「あ、ちょっと待って。久々野って・・・?」 「あれ? ひょっとしてウチ、バス間違えた? これ、下呂/バスセンター行きだよね?」 「じゃなくて、間違えたのはオレだ!」(※ここから地が出て「オレ」になる) 「えええええええ」 「うわ!一之宮もとっくに過ぎて、もうすぐ宮峠(みやとうげ)じゃん!」 「え?なに?急に? なに言ってんのかマジわかんないんだけど」 「待て待て待て。落ち着けオレ。 高山濃飛バスセンターから清見方面の終バスって、 確か18時半くらいだから・・・」 「久々野からJRに乗ればワンチャン間に合うんじゃない?」 「え?」 ウチは乗り換えアプリの画面を見せる。 このバスが久々野駅につくのは16時35分。 久々野駅から高山方面の列車が出るのは18時ちょうど。 高山に着くのが18時14分・・・ 「あ、これなら・・・」 「間に合うんじゃね?終バス」 「ホントだ・・・」 「にしても・・終バス早すぎ(笑)」 「だよなー(笑) ありがとう!マジで助かった。 あ、あの・・・オレは大空。オオゾラ、って書いてリク。 キミは?」 「ウチは星夜。星の夜」 「カッケーな」 焦りまくってた表情がホッとした笑顔になった。 バスは、宮峠の急な上り坂をゆっくりと進んでいく。 右手に見えるのは、ごつごつした険しい山肌。 そういえばおばあちゃん、ここ中央分水嶺だって言ってたっけ。 カーブを曲がるたびに、色づき始めた紅葉の枝が通り過ぎる。 トンネルを抜け、宮峠を越えると、久々野へ向かう下り坂。 どこまでも高い秋の空と、山に囲まれた緑豊かな景色。 東京のビル群とは全く違う風景が、急に愛おしく感じてきた。
ボイスドラマ「蛟」
2026/09/18
時代に忘れられた水の女神と、山に生きる青年 時は1912年――明治45年、大正元年。 前年、国鉄中央線が全線開通し、飛騨の工女たちが歩いた過酷な「野麦越え」は、その役目を終えようとしていました。 最後の野麦越え。工女たち。美女峠。そして・・・ 人と神。歴史と伝承。そして、時代が変わっても変わることのない人の想い。 明治から大正へと移り変わる飛騨を舞台に描く、少し不思議で、どこか懐かしい愛の物語です 【ペルソナ】 ※1912年(明治45年/大正元年〜大正三年)の春〜夏・水波=みずは(年齢不詳/CV:蓬坂えりか)=記憶を失った女性。実は水の女神、水龍    の化身 ・惣太=そうた(25歳/CV:日比野正裕)=朝日村で一人炭焼きを営む住む寡黙な青年 ・澪=みお(2歳/CV:坂田月菜)=惣太と水波の娘。半人半妖 【シーン1/美女ケ池行き倒れ】 ・少女の姿をした記憶喪失の龍神・水波が美女ケ池のほとりで倒れている ・冬に備えてナラ材を切り分けた木こりの惣太が運搬路を整えるため通りがかって発見する ◾️創作・糸引き唄(※唄:蓬坂えりか&坂田月菜) ※音声/https://hidaten.com/wp-content/uploads/2026/09/itohikiuta.wav 〽ハァー 野麦(のむぎ)越えるときゃ 雪さえ溶ける 溶けぬ涙が エーヨー 胸を突く 〽糸を引きましょ お国のために 親に仕送り エーヨー 果てるまで 真っ暗な闇の中から『糸引き唄』が聞こえてくる。 『お国のために、家族のために』 吹雪の美女峠。 工女たちの足音と、唄声。 ああ、そうだ。覚えているとも。 粗末な単衣(きもの)を何枚も重ね着して、 三幅前掛け(みはば/まえかけ)を帯代わりに結んだ生娘(むすめ)たち。 頭には手拭いを巻いて、脚には脚絆(きゃはん)。 足袋の上からわらじを履いて、雪の峠を超えていく。 美女峠は、過酷な道行きの入口。 家族と離れ、野麦峠へと向かう『十三見送り(じゅうさんみおくり)』。 『永の別れ』をねぎらうために、私は少女たちに餅をふるまった。 親も子も、泣きそうな顔で『うまい』『うまい』と言うておった。 最後の工女行列を見送った冬。 役目を終えた私はどうなるのだろう? いや、そもそも、『私』とはだれなんだ? 記憶の上に、果てしない忘却の雪が降り積もる。 冬が終わり、春の足音が聞こえてくるまで・・・ 「おい、あんた!大丈夫か?生きてるか!」 底なしの闇の中から、誰かが私を呼び覚ます。 暗い。冷たい。水の底。 ただ揺蕩(たゆた)うだけの深い眠りを覚ます響き。 胸の奥がぎゅっと締め付けられるような・・・ 記憶の彼方から届く声。 私は、閉じていた瞼を、ゆっくりと押し上げる。 「おお、気がついたか」 視界に飛び込んできたのは、眩い木漏れ日。 そして、私の顔を覗き込む一人の男。 荒れた手、煤けた衣服、私を見つめる、強い眼差し。 炭焼きの男。 その口から言葉が漏れる。 「びっくりしたぞ。 あんた、草むらのなか、美女ケ池の水際で倒れとったんや」 「美女が池・・・」 「ああ。 真冬なら今頃生きちゃおらんやろが」 「私は・・・私はだれじゃ・・・」 男は眼を丸くして驚き、そのあと言葉が続かない。 私も男と目が合った瞬間、再び、忘我の眠りに落ちていった。 【シーン2/惣太の炭焼き小屋】 ◾️虫の声 「ああ、よかった。 眼を覚ましたな。生きてたんだ」 「虫の声・・・もう夜か・・」 「ちゃうて。 あんた、3日間眠ってたんや」 「三日・・・ ん?ここは・・・どこじゃ?」 「オレの家や。炭焼き小屋。 美女ケ池からはそう遠くない」 「・・・そうか・・」 「自分のこと、思い出したか?」 「私・・私は・・・」 「まあええわ。 ゆっくり思いだしゃええ」 「ああ・・・」 「腹へったやろう?」 私の返事を聞く前に、男は囲炉裏に向かった。 火吹き竹で消し炭を煽ると、またたく間に赤い火が熾(おこ)る。 煤けた鉄鍋に山の湧き水を注ぎ、自在鉤(じざいかぎ)に掛けた。 「オレは・・・惣太だ」 半身(はんみ)を起こした私に、男が名乗る。 「見ての通り、ここで炭を焼いとる」 話しながら、山菜を豪快につかんで鍋に入れた。 そのまましゃがみ込んで火吹き竹を強く吹く。 すると、眠っていた炭がパッと赤く色づいた。 月明かりだけだった小屋の闇に、ぼおっと赤い炎が灯った。 「いまは辛抱のときやけどな。 冬になれば、高山の町から炭問屋の手代がここまで買い付けにくるんや」 惣太は生簀(いけす)代わりの木桶から、元気のいいヤマメを取り出す。 手早く腹を裂いて塩を振る。 手慣れた仕草で、竹串に刺し灰のなかに勢いよく突き刺した。 「オレの焼くナラ炭は町でも評判がええんや。 火持ちが最高だそうだ。 岡谷にある製紙工場のボイラー係も『オレの炭じゃなきゃ湯の沸きが悪い!』 つって、わざわざ指名してくるんやさ」 惣太の言う通り、炭火は勢いを増していく。 パチパチと爆ぜる炭の音。 脂の乗った魚の香ばしい匂いが煙とともに小屋を満たしていった。 「金儲けだけやないぞ。 美女峠の頂上に休憩小屋があるやろ。 あそこにもオレの炭をおろしとる。こっちは利益なんて度外視や。 峠を越えて野麦へ向かう工女たちのためやから・・・ みんな、この先、地獄のような山越えをするんや。 少しでもぬくとうしてやりたいやないか」 惣太は背中を向けて焼いたヤマメをひっくり返す。 何回か繰り返すと、今度は頭を下にして垂直に立てた。 「そやけどなあ。 それももう終わりや。 去年・・・明治44年の5月に、国鉄の中央線が全線開通したやろ。 これで、工女たちはもう野麦の峠を越えんでもようなった。 中津川の坂下駅まで歩いていって、そこから汽車に乗って岡谷へ一本や。 ほんとうによかったわ・・・ おりゃあ、胸を撫で下ろしてるんやけどな、なんやちょっと寂しゅうて。 工女たちの行列がもう二度と見られんと思うとなあ・・・」 惣太が寂しそうな顔をしながら、焼き上がりを確認する。 ヒレまで綺麗に白く焼き上がったヤマメの塩焼き。 小屋の中にはもう美味しそうな匂いが充満している。 惣太は串を抜くと、私の前へ突き出した。 「さあ、焼けたぞ。食え。 とにかく食って、精をつけろ」 私は串を受け取り、そのままかじりつく。 それを見た惣太は安心したようにまた話しだす。 「このあと、どこへ行くんや?」 私が何も答えず、ひたすらヤマメにしゃぶりついていると・・・ 「まあ、ほんなことええわ。ゆっくりしていけばええ」 そう言って、鍋の中に地味噌をひとつまみ入れる。 木杓子(きじゃくし)で鍋をかき回すと、大きなお椀にすくって私の方へ差し出した。 「これも食べろ」 「惣太の分は?」 「オレは腹が減っとらん」 そう言って背中を向けた。 後ろを向いたまま、ボソっと呟く。 「なあ・・・無理にとは言わんが・・・ もし、行くあてがないなら・・・ ずうっとここにおればええ」 「わかった」 「ほんとうか?」 満面の笑みで振り返る。 それが可笑しくて、可愛くて、私も思わず笑ってしまった。 そのとき・・・ 「あぶない!」 「え?」 「このやろう!」 そう言って、惣太が踏みつけたのは、大きな百足! 私は・・・恐ろしくて、声も出ない。 惣太は震えが止まらない私を抱き寄せる。 「なんや。意外と怖がりなんやな」(※笑いながら) どうしてこんなに恐ろしいのだろう。 意味がわからず震えていると、惣太は、 「なあ、やっぱり・・・ここにいてくれや」 そう言って私を強く抱きしめた。 月明かりに照らされる2つの影。ただ虫の声だけが、賑やかに、激しく、鳴り響いていた・・・ 【シーン3/3年後/惣太の炭焼き小屋】 ◾️野鳥の声 「かあさま、びじょがいけまであそびにいってもいい?」 「気をつけるのよ。水のそばには近寄らないでね」 「はあい!いってきます」 娘の澪が元気よく小屋から飛び出していった。 あれから3年。 私は惣太と夫婦となり、月日を重ねた。 明治から大正へ。 元号が変わって最初の夏。 私は惣太の間に娘をさずかった。 記憶は相変わらず曖昧だったが、 澪が生まれて、名前を決めたとき、 不意に自分の名前が浮かんできた。 水波。 名前を思い出したことを惣太は心から喜んでいた。 「水波。澪。 意味はようわからんけど、どっちもきれいな名前やなあ」 でも、その瞳の奥に見えたのは小さな闇。 きっと私が記憶を取り戻すことを、心のど
ボイスドラマ「奥飛騨百姓座敷湯守」
2026/09/11
昭和の頑固親父 VS 令和のギャル娘 12年前に家を飛び出した娘・凛子が、奥飛騨の老舗温泉旅館「湯守」に突然帰ってきた! 「昭和男児とかマジでサゲ」「ギャル女将とかアゲてこ」 飛騨弁とギャル語が飛び交う、100年続く温泉宿の跡取り騒動。 変えてはいけないもの。変わらなければ、守れないもの。 5代目の父から6代目の娘へ、そしていつか7代目へ――。 笑って、ぶつかって、最後はじんわり。奥飛騨の湯けむりに包まれる、父と娘の物語・・・ 【ペルソナ】※舞台設定は現代/新平湯温泉 ・静馬(しずま/64歳/CV:日比野正裕)=百姓屋敷を改造した老舗旅館湯守の5代目 ・凛子(りんこ/30歳/CV:坂田月菜)=静馬の娘。高卒で東京へ家出したギャル娘 【プロローグ/家出】 ◾️SE:セミの声(ニイニイゼミ) 「ばかやろう! 毎晩毎晩ほっつき歩きやがって! そんなチャラチャラしたやつは、娘でもなんでもない! いますぐこの家から出ていけ!」 「はいはい、お疲れサマンサ〜。 そうやってすぐにブチるの、マジでウケる。 そんだけ激おこぷんぷん丸だと血管切れるよ? ウチの人生ウチが決めるんで。 とりま、あざした〜!」 そう言って、娘の凛子が家を出ていったのが12年前。 世間では『ギャル』というらしいが、下品な化粧と言葉使い。 いったいどこの国の言葉なんだ・・・ 私の名前は静馬。 奥飛騨温泉郷・新平湯温泉にある老舗旅館 『奥飛騨百姓座敷・湯守(ゆもり)』の5代目当主である。 うちは元々、江戸時代から続く豪農の百姓屋敷。 明治の終わり頃、初代がこの場所へ太い梁を移築。 湯守として温泉旅館を始めた。 今年でちょうど100年になる。 じいさんも親父も、絵に描いたような昭和の頑固親父だった。 『男は黙って背中で語れ』 『客には命を削っておもてなしをしろ』 口を開けば飛騨弁の怒声が飛ぶような環境。 当然のように私も、典型的な昭和男子として生きてきた。 最近ではなんだっけ? パワハラ?モラハラ?なんやそれ? ちょっと大きい声を出しゃあ『威圧的』やの、 気合いを入れようと背中を叩けば『暴力』やの。 コンプライアンスだの何だのって横文字にすりゃあいいと思って。 男ってのはなぁ! 健さんも言ってるやないか。 理屈じゃねえ、行動で語れ。 女は一歩引いて、男の背中を支えるもんだ! 汗水垂らして、泥にまみれて、必死こいて働く姿を見せる。 言葉が足りんけりゃあ、愛のムチだって必要だわ。 でなきゃ、奥飛騨の厳しい冬が乗り越えられるかっての! 湯口から吹き出す源泉の熱さに耐えられるかってんだ! 今の若い奴らは、ちょっと怒られたくらいで『心が折れた』だの 『メンタルがどうの』だの、くだらないことばっか言いやがって。 一人前になるまでは、寝る間も惜しんで精進しろ、っつうの。 「はい、今の全部アウト〜。 セクハラ・パワハラ・ジェンハラのトリプル役満やめてもろて?」 「り、凛子!?」 【シーン1/出戻り】 ◾️SE:セミの声(ミンミンゼミ) 「お父ちゃん!声デカすぎだって。 バス停まで余裕で聞こえてるからね? ただでさえ昭和男児とかー、世間的にマジでサゲなのに」 「お前、いつ帰ってきたんだ?」 「新宿を7時に出て、いま新平湯温泉に着いたー。 つか最近の高速バス、ガチでリッチすぎてビビるんだけど! 移動中ずっと爆睡できたし、普通に優勝だわ」 「なんだ、それが12年ぶりに再会した親に言うセリフか?」 「それよりー、お父ちゃん、いまのお客さんに聞かれたらガチで詰むって。 昭和男児って、老害ムーブ全開でマジ公害レベルだから」 「うるさい! それより昼飯は食べたのか? まかないでよかったら食ってけ」 「え、食べる食べる! まかないとかガチで神なんだけど! ぶっちゃけお腹ペコペコすぎてたから、超助かる〜。 とりま秒で荷物置いてくるから、よろしくね!」 12年ぶりに新平湯へ帰ってきた娘。 今年で30になるっていうのに、なんだ、あの化粧に言葉使いは。 出てったときより、酷くなってるんじゃないか。 目の周りは真っ黒、爪に変な飾りまでつけおって。 とてもじゃないが、あれじゃあ、ご近所様や宿のお客様には見せられん。 「ちょっと、お父ちゃん、ウチの部屋まんまにしといてくれたん? マジ感謝!マインド神すぎてアゲ!」 荷物を部屋に置きにいった娘が走って戻ってきた。 なにを言ってるのかよくわからんが・・・ まあ、部屋をそのままにしとくのは当たり前だろう。 一人娘なんだから。大事な跡取りなんだし。 「つかウチさー、これから湯守で働こうと思って」 「なんだと? うちの旅館で働く?」 「いーじゃん、今ってどこも人手不足でマジ詰んでない?明日から手伝うからさー、ギャル女将とかアゲてこ」 言葉がそのあと続かなかった。 娘が帰ってくるのは嬉しいが、いきなり旅館を手伝うと言われても。 喜びよりも不安の方がはるかに大きい。 いつもよりセミの声がうるさく響いていた。 【シーン2/帳場に立つギャル女将】 ◾️SE:セミの声(ヒグラシ) 「いらっしゃいませ〜! 遠くからガチでお疲れサマンサです!湯守へようこそー!」 翌日から凛子は帳場に立った。 どこで見つけてきたのか、ド派手なピンクの浴衣。 帯はリボンのように結び、 髪はきっちりまとめるどころか、ゆるく巻いてアップにしている。 化粧はいわゆるギャルメイク?というのか、見るに耐えない。 その顔を満面の笑みにしてお客さんに話しかける。 「とりま、こちらにお名前とか書いてくださーい!アゲ!」 「ちょっと!凛子!こっちこい!」 「えー、なにー?お父ちゃん!」 「なんだ、いまの接客態度は!?」 「ギャル女将なんだからフツーっしょ!」 「全然普通じゃない! それに、その格好!チンドン屋じゃあるまいし」 「は?それ差別用語!サゲ!」 「だいたい、誰が帳場に立ってもいいと言った? 女の分際で・・・」 「へ? お父ちゃん、いつの時代生きてんの?」 「なことはいいから、ここは中居頭のさくらさんに任せろ。 言いたいことがあったら厨房で聞いてやる」 「はぁ〜、ダルみざわなんだけど〜」 うちの旅館・湯守には女将はいない。 普段は仲居頭がお客様のお出迎えにあがる。 凛子は仲居頭に頭を下げて厨房の方へ向かった。 【シーン3/厨房の静馬と凛子】 ◾️SE:厨房のガヤ 「おっ、カイトっち、おつー!」 凛子は見習いの板前・カイトに声をかける。 「てか昨夜(ゆうべ)、ウチの歓迎会に、最後まで付き合ってくれてありがとね!」 「パワハラ親父に無理やり飲まされてたっぽだけど、体調大丈夫そ?」 「マジ我慢しなくていいからさ、モームリと思ったら休んじゃいな!」 「アホか!凛子! 見習いのカイトにくだらんことを吹き込むな!」 「はぁ?」 「おいカイト!今朝厨房の仕込みに遅れたそうだな! たかが二日酔いくらいでそんな風になってどうする? 人並みに酒も飲めないで一人前の板前になれると思うか? 高卒のお前をわざわざ引き取って一から育ててやったのに、 いつまで半人前でいるつもりだ! やる気ねえなら明日から来なくていいぞ、クビだクビ!」 「ちょっと!なに言ってんの!お父ちゃん! 最初から最後まで全部アウトすぎて、もはやウケるんだけど」 青白い顔をしたカイトに背中を向けて、ものすごい剣幕で凛子が捲し立てる。 「『酒くらい飲めて一人前』とかなにそれ? 昨日無理やり飲ませたのテメェだし完全アルハラだから! てか、そんな二日酔いの状態で早朝から包丁握らせるとか、ありえんわ! 宿の安全管理どうなってんの? カイトっちの学歴出して『高卒の小僧』とか言うのも普通にアウトだし! 『クビ』とか脅すの最悪のパワハラじゃん。マジ大丈夫!?しっかりしてよ!お父ちゃん!」 「ったく、めんどくせえ世の中だな。 ま・・その、なんだ・・・ カイト、お前も、この先いい人見つけて、身を固めることも考えとけよ」 「お父ちゃん! 『身を固めろ』とか、サイテー! 結婚とか恋愛なんて個人の自由だし! マインドが昭和すぎて脳みそ化石レベルなんだけど!」 「ばかやろう!所帯を持ってこその男の甲斐性。家を守る嫁さんがいるから、男は思う存分戦えるんだ!」「はぁ!?なにそれ? 男のために女が犠牲になるのが当たり前とか、 マジで聞いてて虫唾が走るんだけど! 外で戦うとか、カッコつけてんじ
ボイスドラマ「異世界マルス」
2026/09/04
「縄文とか、マジ興味ないんだけど。」 歴史が苦手な久々野中3年生・輝李(エリー)が、学校の倉庫で見つけたのは——どう見ても「スマホスタンド」な縄文土器!? スマホを置いた瞬間、飛ばされたのはエルフと魔王が存在する異世界「マルス」だった! でも、この世界……どこかおかしい。 5000年前の久々野。幼い頃の妄想。八尺川でなくしたスマホケース。そして「創造主」と呼ばれる輝李——。 すべてがつながったとき、異世界マルスの本当の秘密が明らかになる・・・ 異世界×縄文時代×久々野。まさかの組み合わせで贈る、時空を超えたファンタジー! 【ペルソナ】※舞台設定は現代 ・輝李(エリー/15歳/CV:坂田月菜)=久々野中学校3年生 ・静馬(しずま/35歳/CV:日比野正裕)=歴史教師 ・イブ(5015歳/CV:坂田月菜)=縄文時代から存在する異世界マルスに住むエルフ ・アダム(5035歳/CV:日比野正裕)=異世界マルスを破壊しようと企む魔王 【プロローグ/久々野中学校】 ◾️SE:教室のガヤ〜机をバン!と叩く音 「輝李!」 「うわ!びっくりした! あ、先生、ふぁ〜おはようごさいます・・」 「おはようございます、じゃないだろ。 午後イチの授業だっちゅうの。 2学期始まったばかりなのに、よくそんなに居眠りできるな」 「いえ、そんな・・・大したことじゃ・・・」 「誉めとらんわ!」 「あ、サーセン!」 ◾️SE:教室の笑い声 「まあいい。 今学期からは歴史の授業、縄文時代に入るから。 みんな、ちゃんと聞けよ。 ここ、テストに出るぞ。 聞いとるか、輝李」 「縄文とかまじ興味ないんだけど。 同じ時代なら、中世ヨーロッパとか北欧とかの方がよくない? 城とか騎士とか海賊とか、普通にかっこいいし」 「あのなー。 日本の縄文時代と、中世ヨーロッパや北欧バイキングの時代、 一緒だと思ってるみたいだけどな。 それ、時代が数千年もズレているんだよ」 「え?まじ?」 「なんでオレがウソ言うんだ。 おい、輝李。 罰として、お前倉庫までお使いに行け。 授業で使う『縄文土器のレプリカ』を持ってこい!」 はぁ、まじだりぃ。 自分の忘れ物とか押し付けないでほしいんだけど。 てか、まじで眠すぎ・・・ ウチの名前は輝李(エリー)。 久々野中3年。 ガチで好きなのはゲーム・・・あ・・と・・違くて、eスポーツ。 勉強はマジ無理。 つか、ウチに超だるい用事押し付けてきたの、歴史の静馬だし。 歴史ってマジ覚えること多すぎて、疲れるわ。 縄文とか弥生とか言われても、イミフすぎて詰み。 ◾️SE:ひたひたと学校の廊下を上履きで歩く音 え、てか倉庫遠いし暗いしで、マジ怖いんだけど。 縄文、縄文って・・・ 縄文の資料どこにあんの。 あ、これかも・・・ 『堂之上遺跡関係』って書いてあるデカいダンボール・・・ ◾️SE:ダンボールの中をガサゴソまさぐる音 もう〜、土器のレプリカ、ってなんなん? 壺とかお椀とかそういう系? いや、待って。あれじゃね?ゴーグルかけた宇宙人みたいなやつ・・・ そんなん、どこにもないじゃん。 てかそもそも堂之上遺跡とか、保育園のとき以来行ってないし。 そういやあの頃マジで友だちいなくて、いつもひとりぼっちだったわ・・・ 堂之上遺跡の竪穴住居を見ながら、ひとりで一生妄想してたなあ・・・ ん?あれ? ワンチャンこれじゃね?土器のレプリカ。 板みたいなやつ。縄文っぽい模様がついてるし。 でも、なんか違うっぽいっていうか・・・ ほぼスマホスタンドじゃん。サイズ感といい、形といい・・・ それは・・・ 手のひらにすっぽり収まるくらいの、土の塊。 絶妙にコンパクトなサイズ。 グレーというか、ちょっと青みがかった不思議な色をしている。 土器にしてはツルツルしてるし。 形はもうスマホスタンドそのもの。 ウチは、思わず自分のスマホを出して置いてみた。 すると・・・ え・・・? 周りの音が、一瞬で消えた。 グラウンドから聞こえていた体育の授業も、遠くの道路を走る車の音も。 次の瞬間、目の前の景色がグワッと歪んだ。 目眩がして思わず目を閉じる。 そのわずか一秒後。 「え・・・?え・・・?ええええええええ!?」 【異世界召喚シーン/異世界マルス】 ◾️SE:ヨーロッパの街のガヤ 目を開けると、 そこは倉庫の中じゃなかった。 眩しい日差しに赤レンガの屋根。 石畳の道。 太陽が低い! 果物とか雑貨売ってる屋台。 小高い丘の上にそびえるお城。 街を行き交う人々はみんな・・・外・国・人! いやいやいや、待って待って待って! ここって、中世ヨーロッパとか北欧とかの街並みじゃね? てかさ、これ・・・ウチがちっちゃい頃、 妄想してた異世界まんまなんだけど!ヤバい! でも、どっかおかしい。 そうだ。景色がなんかボンヤリしてる。 写真にフィルターかけて滲ませたみたいに。 おもわずスマホを見る。 『圏外』の文字。 そりゃそうでしょ。異世界なんだから。 「・・・ちょっと・・・」 「ちょっと!」 「え?」「ウチ?」 「当たり前じゃん!あんたに決まってるでしょ」 わ! 出た! この人・・・ とんがった耳、鋭い目つき、小ぶりな体・・・ 「エルフだ!」 「みりゃわかるでしょ。 それよりあんた、見ない顔だけど・・・だれ? どっから来たの?」 「っと・・・ウチは・・エリー。 久々野からきたの」 「クグノ? って・・・もしかしてあれ?世界中の商品が集まり、ギルドで栄えているという、あの・・」 「いや違くて。日本の、岐阜の、高山の、久々野」 「ふむ。きいたことのない街だな。 まあいい。 で、なにしにここマルスへきた?」 「マルス?」 「おいおい。街の名も知らずにきたのか?」 「てか、あんたはだれ?マルスってのはなに?」 「私? 私はイブ。 見ての通りエルフだ。魔法使い。 自慢じゃないけど、魔力は多分この世界で一番強いよ。 マルスってのは、この世界で一番交易が盛んな街。ご覧のように商人や旅人でいつも賑わっている」 エルフのイブが胸を張って答えた。なんかよく見ると、整った顔立ち。人気アニメに出てくるエルフと似ているかも。 「あと、あそこの露天で売ってるあれもマルスだ」 「え?あれって・・・リンゴじゃん!」 「リンゴ、ってなんだ?」 やばい。 頭が混乱してきた。 いや。 そもそも、異世界に召喚された時点でもうぶっ飛んでるんだけど。 「お前、エリーからはまだ返事を聞いてないぞ。 マルスへなにしにきた?」 「え〜っと・・・ 来たくてきたわけじゃなくて・・なんかのきっかけで召喚されちゃったみたいで・・・」 「きっかけ?召喚?」 そう、きっかけ・・・ って・・・あ? ウチはあわててポケットを探る。 あった。 縄文土器?みたいな、スマホスタンド?みたいなのと・・スマホ。 なくしたら帰れないよな、きっと。 私は土器をポケットに戻して、スマホを手にした。 『圏外』。 そりゃそうだ。 「それはなんだ?」 「これ?これは、スマホ・・・・・」 「まさか・・・まさか、その形・・・欠片の片割れでは・・・」 「欠片?片割れ?イミフなんだけど」 「世界の欠片だよ」 「よけいわかんないし」 「欠片を集めた者が世界を救う。そういう言い伝えrがあるんだ」 「救わなくたって、みんな平和で幸せそうじゃん」 「いや。この国を滅ぼそうとする者がいる」 「え?そんなんいるの?」 「黄泉の国に住まう、魔王だ」 「でた・・・魔王!黄泉の国! うわ、ゴテゴテの厨二病じゃん」 「なに?」 「なんでもない」 「魔王と言ってもその姿はドラゴンそのもの」 「すご」 「ワイバーンという種類のドラゴンだ。 口から火を吹きながら空を飛ぶ」 「なんで魔王はマルスを滅ぼすの?」 「この世界をなかったことにしたいのさ」 いや理不尽すぎるでしょ・・・ てか、ゲームでも、魔王系ってそんなもんか。 なんかいや〜な予感がする。 この流れだと、きっともうすぐ魔王も出てくるんじゃない? 早よ元の世界、久々野中学校へ帰らんと。 歴史の教師の静馬。 あいつ絶対怒ってるし。 なんて、考えてたとき・・・ 急に空が真っ黒になり、冷たい風が吹きつけた。 「見つけたぞ!イブ!」 「でたな!アダム!」 「え?アダムって?」 「決まってるだろ、ヤツだよ!魔王!」 名前、可愛すぎるだろ。 つか、なんか、どこかで聞いたことのある声・・・ 「みんな! 露店を引け! いますぐ
ボイスドラマ「糸」
2026/08/28
あの日から、私たちの「糸」は紡がれていた――。 1980年、飛騨・六厩。千鳥格子御堂の前で出会った15歳の桜小花と柊壱。 ピアノを夢見る少女。飛騨の匠を夢見る少年。 15歳の夏、22歳の再会、そして30歳――。 別々の人生を歩んだ二人をもう一度結んだのは、故郷の風景と、あの日贈った一台のウォークマン、そして次の世代へと受け継がれた「夢」でした。 「思えば私たちの糸は、あの日から紡ぎはじめていたのだろう・・・」 【ペルソナ】※2人とも1965年生まれ ・桜小花(さやか/15歳/23歳/30歳/CV:岩波あこ)=故郷・荘川で実家はそば農家 ・柊壱(しゅういち/15歳/23歳/30歳/CV:岩波あこ)=清見で飛騨の匠を目指す 【第一章/出会い(1980年8月/15歳)】 ◾️SE:自転車のブレーキの音 「きゃあ〜!」 「どいて!どいてぇ〜!」 「あぶない!」 ◾️SE:自転車の転倒音 「やっちゃったぁ・・・」 「あ〜あ」 「ってててて・・・」 「おい、大丈夫か?」 「う〜、ひざ痛ぁ・・・ あ、ごめんなさい!  急な坂道でブレーキが効かなくなっちゃって・・ 怪我、なかった?」 「オレは平気だけど・・・ お前、血が出てるぞ。膝」 「え? あ、ほんとだ。 またばあちゃんに怒られちゃうな。へへへ・・・ ・・・ってごめん。 うちは桜小花。 あんたは?見ない顔やけど・・・」 「オレ?」 「あたりまえでしょ。あんた以外誰がいるの?」 「オレは・・・柊壱」 「ふうん。 どこの人?六厩じゃないよね」 「森茂(もりも)」 「森茂、って清見村やん」 「そんなこと知らん」 「知らん、ってあんた、住んでんでしょ」 「1週間前からな」 「引っ越してきたってこと?」 「ああ・・・よりによって、こんなど田舎に」 「悪かったわね、ど田舎で。 でも住んでみればいいところよ。 冬はちょ〜っと寒いけど」 「好きで引っ越してきたわけじゃねえし」 「どこから引っ越してきたの?」 「東京だよ、ひばりが丘の団地」 「そんな場所言われてもわからんわ。 ふ〜ん。東京っこかあ・・・」 「ふん」 「で、なんで千鳥格子御堂(ちどりごうし/おみどう)の前にいるの?」 「ん?・・・知らん。これ、そういう名前なんだ」 「すごいでしょ。千鳥格子のその扉、釘を1本も使ってないのよ」 「ええっ?じゃ、どうやって作ったんだ」 「それが匠の技ってもんよ」 「すごいな・・・」 ずうっと苦虫を噛み潰してた柊壱の顔が、はじめてほころぶ。 これが私と柊壱との出会いだった。 2人とも中学三年生。15歳。 荘川に住む私は、村立の荘川中学校。 清見の柊壱は、清見中学校の森茂分校に通っている。 だから学校で顔を合わせることはなかったけど、 夏休みの間、柊壱はいつもここ、千鳥格子御堂にいた。 うちはそば農家だから、種まきが終わったこの時期は大忙し。 間引きに除草、中耕(ちゅうこう)や培土(ばいど)、そして台風対策。 毎日毎日、六厩の家から千鳥格子御堂の前を通って畑へ。 そば畑は、三尾河(みおご)へ向かう新軽岡峠(しんかるおかとうげ)の傾斜地にある。 行きは、上り坂で大変だけど、帰りは下り坂で楽ちん。 この夏、私は理由をつけて、ひとりで帰るようにした。 そうすれば毎日柊壱とお話できたから。 「さやか、ってどう書くの?」 「桜の小さい花、って書くんだ。 私が生まれた年、荘川桜に初めて花が咲いたの」 「荘川桜って?」 「ダムに沈んだ集落で咲いてた、おっきな桜の木。 移植されて初めて花を咲かせたのが1965年」 「そうなんだ」 「ねえ、もうすぐ夏休み終わっちゃうね」 「ああ」 「そしたらもう・・会えないな」 「なんで?土日とかにここくればいいじゃん。家、こっから近いんだろ?」 「荘川中学校って新淵(あらぶち)にあるんよ。 遠くて通えないから寄宿舎に入ってるの」 「そうなのか」 「シュウは中学卒業したらどうするの?」 「オレ・・・高山の工業高校へ行こうと思って」 「工業?」 「うん。こういうのを作ってみたいんだ」 「千鳥格子御堂?」 「だってオレ、桜小花に聞いてから調べたんだ。 了宗寺(りょうしゅうじ)を建てたとき、余った木材で作られたらしいんだけど・・・ これ、いまや誰も再現できないんだってさ」 「よく調べたわね」 「桜小花は? 中学卒業したらどうすんだ?」 「そば畑の手伝いかなあ。 うちはじいちゃんとばあちゃんだけやから、 私がいないと大変でしょ」 「高校、いかないのか・・」 「実は、迷ってるんだ」 「どうして?」 「ホントは、ピアノの勉強、したかったの」 「ピアノ?」 「シュウには言ってなかったけど、 県のピアノコンクールでいいとこまでいったのよ」 「へえ〜」 「でもうちにはピアノないし、いつも学校で弾いてたから」 「音楽学校とかいけばいいじゃねえか」 「無理よ。そんなお金、うちにはないもん」 「お金なんて・・」 「それより、ねえ、お盆はなにか予定ある?」 「ないよ。母ちゃんもずっと仕事でいないし」 「じゃあ、盆踊りいかない?」 「盆踊り?」 「うん。了宗寺でやるの。 農作業もお盆の間は休みだし。 白川郷の『平瀬踊り』とか流すんだって」 「盆踊りとか平瀬踊りとか、だっせえなあ(笑)」 「じゃあいかないのね」 「いくよ」 柊壱は後ろを向いたまま答える。 鷲ヶ岳に沈む夕陽が、そばの花を赤く染めていた。 ◾️SE:盆踊りの音 「ごめん!お待たせ!」 「遅い」 「悪い悪い。了宗寺の場所、よくわかんなくてさ・・でも、あ・・・」 「なに・・・? なに見てんのよ」 「浴衣・・・」 「悪かったわね。どうせ似合ってませんよ〜だ」 「きれいだな・・・」 「え?」 「え? い、いや、浴衣、浴衣が・・・」 「そうだ、柊壱・・・これ・・」 「な、なに・・・それ」 「あけてみて」 ◾️SE:紙包みを開ける音 「これって・・・」 「あんた、欲しいって言ってたじゃない」 「ウォークマンじゃねえか」 「カセットテープに、私の好きな曲いっぱい入れといたから。 高校行っても、少しは私のこと覚えておいてよ」 「桜小花・・・」 柊壱と過ごす夏休みは、こうして終わった。 祭囃子が切ない旋律を響かせる。 私は盆が明けると、そのまま新淵の寄宿舎へと戻っていった。 【第二章/玉響の再会(1987年9月/22歳)】 ◾️SE:蝉の声 「桜小花」 「え? ・・・シュウ・・?」 「いると思ったよ」 1987年9月。 あの日と同じ、千鳥格子御堂。 7年ぶりに耳にする柊壱の声が、私の時間を止めた。 「7年ぶりだね」 「海外にいった、ってきいたけど・・・」 「ああ。イタリアのミラノ工科大学で家具のデザインを学んでる」 「すごい」 「秋になったらデンマークのフォルケホイスコーレへ行く」 「なあに、それ?」 「北欧の市民学校だよ。そこで木工・家具コースに留学するんだ。 卒業したら現地の家具マイスターの元で修行さ」 「シュウ・・すごく遠くにいっちゃったのね・・・」 「直行便で12時間かな」 「そう・・・」 「桜小花は?いまなにしてるの?音楽大学?」 「まさか。ずうっと畑仕事よ。 去年からはおばあちゃんと2人きりになっちゃったから、もう忙しくて・・」 「大変・・だったんだな」 「お母さんは元気?」 「母さんか・・・ 彼女は高校卒業の年に再婚したよ」 「え・・・」 「なんかさ、新婚夫婦のお邪魔虫になりたくなかったし。 ちょうどいいタイミングと思ってミラノに行ったんだ」 「すごいね、ひとりで」 「まあな。 でもさ、オレ、中学卒業するまで、何度もここへ来たんだぜ」 知ってる・・・ そう言おうとしたとき、道に止めた車からクラクションが鳴った。 イタリア製のスポーツカー。 オープンカーの助手席からサングラスをはめた女性が手を振っている。 「あ、ああ。彼女。パートナーなんだ。 ミラノで家具工房をやってるオーナーの娘。 紹介するよ」 「いい。大丈夫。 このあとまだ畑で作業残ってるし」 「桜小花、オレ、夢は捨ててないから」 「え・・・」 「必ずこの千鳥格子御堂を再現してみせる。 そうしたら・・・」 「がんばってね」 「桜小花・・・」 柊壱が次の言葉を口にする前に、私は自転車に乗る。 通りすぎるとき、彼の後ろのポケットからウォークマンが見えた。 首元を見るとシャツと同系色のヘッドフォンがかかっている。 あの日と同じ、夕陽の赤が西の空を染めていった。 【第三章/終章(1995年9月/30歳)】 ◾️SE:
ボイスドラマ「星の降る里/朝日編」
2026/08/21
夕焼けの道の駅を出発し、二人は約19km先の星空を目指した。 秋神川のせせらぎ。 真っ暗な峠道。 足の痛みと、くじけそうになる心。 それでも隣には、出会ったばかりの友達がいた。 星夜が探す「フォーマルハウト」と、朝陽が探す「伊吹麝香草」。 二人が長い夜の果てに見つけたものとは・・・ 【ペルソナ】 ・星夜=せいや(16歳/CV:坂田月菜)=東京・広尾のマンションに住むJK。夏休みを利用して母の実家・久々野へ遊びにきた星空・星座オタクの若干厨二病気味「みなみのうお座」が見たい ・朝陽=あさひ(16歳/CV:蓬坂えりか)=朝日村で生まれ育ったJK。夏休みに自分の住む民家から鈴蘭高原の「星のベンチ」までナイトウォークを計画中。「伊吹麝香草」を採りにいきたい ・星夜のママ=(42歳/CV:山﨑るい)=20歳で久々野を出て東京のヘアデザイナーとして働く 【シーン1/高山線久々野駅ホーム】 ▪️SE:高山線鈍行列車が到着する音 ▪️SE:携帯電話の着信音 「もしもし?あ、おばあちゃん? うん。いま久々野駅。 あ、ちょっとだけ遅くなるかな。 え?うん、ホント。 だ〜いじょうぶだから。心配せんといて。 帰り?ああ、うん。電話するから。 ありがとう。うん、じゃあね』 心配そうな声で、おばあちゃんが電話してくる。 ま、そりゃそうだよね。 夏休みの無謀な計画を、今朝いきなりおばあちゃんに話したんだもん。 私の名前は、朝陽。 16歳。高校生。 朝日町に住んでいて、朝陽。 小さい頃はよくからかわれたけど、いまはすっかりお気に入り。 だって、自分の名前も、朝日町も大好きなんだもん。 1番線に高山行きの下り普通列車が入ってきた。 私はゆっくりと乗り込む。 特急をやり過ごし、上りの列車が入ってくるまでは、しばらく待ち時間。 私は『北天(ほくてん)の星』という本を広げて、読み始める。 こういう、のんびりした時間って大好き。 ▪️SE:ディーゼル列車(キハ)の車内音 【シーン2/高山本線高山行き鈍行列車】 ▪️SE:高山線下り普通列車が到着する音/走り込んでくる音 「はぁっはぁっはぁっ・・・」 美濃太田行き上り普通列車から降りてきた少女。 ってか、私と同じ歳くらい。 向かい側に停まっていた、この車両にすごい勢いで走りこんできた。 そんなに慌てなくても、目の前に停まってるのに。 おっきなスーツケースまで引いて。 列車を乗り間違えたのかしら。 ううん、違う。 ホームのお母さん?に手を振ってる。 列車が動き出すと、少女は振り向いてこちらへ歩いてきた。 「あの、ここ、座っても大丈夫ですか?」 「あ、はい。 どうぞ。空いてますから」 「ありがとうございます〜。よっこらしょっと」 なんか、面白そうな子。 私は本を読むふりをして、ちらちらっと彼女を見る。 すると・・・ 「それ、北天の星?スターアトラス?」 「え?」 びっくりした。 チラ見してたのバレたのかしら。 私は冷静を装って、返事をした。 「この本のこと?」 「あ、うん・・・そうそう。 いや、うちも星座とかガチオタだから」 「すご〜い。 スターアトラスなんて言葉、はじめて聞いた」 「星図のことだよ。ひょっとして星とか好き?」 「星は好き。 今日高山へ行くのも星に関係あるんだ」 「え?なに?なに?」 「あ、そのまえに・・私は朝陽。『朝』の『太陽』って書くの。 16歳、高校生よ。朝陽って呼んでね」 「あ〜ごめんなさい。 うちは、星夜。『星』に『夜』って書くんだ。歳はタメだよ。星夜って呼んで」 「星夜・・・。 かっこいい名前。うらやましいなあ」 「なんで?朝陽の方がいけてるし」 「ありがと」 「で、星に関係することって?」 「うん。『星空ベンチ』」 「”星空ベンチ”!?なにそれ!?」 「去年の11月にできたんだ。 鈴蘭高原ってとこにある、『星を見るためだけのベンチ』」 「え?すごぉい!」 「『バスが停まらない停留所』にあるの」 「やだ、なに?面白〜い!」 「でしょ。 その『星空ベンチ』まで、道の駅から歩いていくことを考えてるの。 ナイトウォーク」 「すごっ。 その道の駅から星空ベンチまではどのくらいあるの?」 「20キロ弱かなあ。 上り坂だから5時間くらいはかかる」 「すごすぎる! でも・・・めっちゃ興味ある!」 「今高山へ向かってるのは、その準備のため」 「どんな準備?」 「山道、夜道を歩くからね。 まずは野生動物対策のアイテム。 熊避けの鈴と爆竹、熊避けスプレー」 「ああ、確かに」 「遠くまで照らすヘッドランプ」 「ヘッドランプ?」 「そ。懐中電灯だと片手が塞がっちゃうでしょ。 行く先と足元を照らす、超強力なライト。 それをゴムバンドで頭に直接巻きつけるの」 「なるほどねー」 「2本バンドだと私みたいなポニーテールや 星夜みたいなツインテールでも髪型崩れにくいから」 「いいねー」 「あとは、簡易的なシュラフと防寒着かな」 「防寒着?高山こんなに暑いのに」 「なに言ってるの。 鈴蘭高原は標高1300メートルよ。 夜の気温は15度以下になるからね」 「そうなんだ。 でも・・・いいなあ・・・」 「え?」 「ねえ、朝陽・・・・うちも一緒に行っちゃだめ?」 「ええ〜っ?」 「うちも、高山にきたらやりたいことがあって」 「なに?」 「見つけたい星があるの」 「星?」 「うん。 フォーマルハウトっていう星」 「フォーマル・・ハウト?」 「夏の終わりの夜遅くから、南の夜空に輝き始める星」 「へえ〜」 「みなみのうお座の一等星だよ。 みなみのうお座って、フォーマルハウト以外はみんな暗い星ばかりなんだ」 「みなみのうお座?初めてきいた。 でもなんでフォーマルハウトが見たいの?」 「あのね・・・フォーマルハウトの別名は、”南の孤独星”。 ひとりだけで輝いてる星」 「ふうん」 「うちみたい」 「どういうこと?」 「うちこう見えて、東京じゃ友だちとか全然いないんだ」 「そうなの・・・?」 「ねえ、朝陽。お願い。 私も『星空ベンチ』へ連れてって!」 「え〜💦ホントに大丈夫? 途中、コンビニも自販機もないんだよ」 「ヘーキ」 「う〜ん・・・ 楽しいことばっかり言っちゃったけど、けっこう危ないよ。 お母さんとか許してくれる?」 「大丈夫。 うちが頼めば、ママ絶対OKだから」 「そっか・・・それなら・・」 なんて言っちゃったけど、大丈夫かなあ・・・ それにこの子、星夜。本気で言ってる? 結局、私と星夜は、市街地で一緒に買い物をした。 シュラフまで買っちゃったけど、本気で行くつもり? 帰りの列車に乗ったのは、夜7時前。 夕陽はもう傾いていた。 『星空ベンチ』ナイトウォークの日程は、聖夜の提案で新月の夜。 星が一番きれいに見えるからだって。確かにそうだ。 久々野駅に着くと、位山の上に宵の明星が輝いていた。 【シーン3/道の駅 ひだ朝日村/ナイトウォーク】 ▪️SE:ヒグラシの声 「星夜〜、こっちこっち」 「朝陽、お待たせ」 「ちゃんとお母さん、許してくれた?」 「うん。 その代わり、スマホのGPS共有させられちゃった。 それに、この前買った充電器だけじゃなくて、 ママのでっかい充電池まで持たされてる。重いのに」 「私もおばあちゃんとGPS共有してきたよ。 位置情報アプリでいつでも居場所を共有してる、ほら」 そう言って、私は朝陽にスマホの画面を見せる。 ダークモードで画面の明るさは最小。 GPS使うとバッテリーの減りが早いから。 よし、ぬかりはない。 「道の駅でよもぎのみたらしだんごか五平餅、食べてからいこうか?」 「わ、やった!食前デザートだね」 午後5時。 道の駅 ひだ朝日村。 建物も駐車場も夕陽がオレンジ色に染めていく。 「よし、いこ!」 「うん! あ、待って。出発の記念写真」 私は自撮り棒で2ショットをパシャ。 ▪️SE:シャッター音 あごピースでポーズをとる2人。 背景は乗鞍岳。 夕陽に照らされてオレンジ色から茜色に変わっていく。 「アーベントロート」のショーが始まっていた。 「めっちゃキレイ。加工いらんやつじゃん」 「ここからしばらくは、民家が続くから大丈夫だよ」 「国道を歩くんだよね」 「そ、秋神ダムまでは361号よ。 車はそこそこ多いから気をつけてね」 私たちは国道を東へ。 少しずつ山沿いの道に入っていく。 「知ってる?この道。別名『ぶり街道』」 「ブリ?なんで?高山って海ないじゃん」 「江戸時代にー、富山で獲
ボイスドラマ「星の降る里/久々野編」
2026/08/14
東京では、友達がいなかった。 だから彼女は、暗い星々の中でひとり輝く「南の孤独星」に、自分を重ねていた。 夏休み、飛騨・久々野へ帰省した星夜が、列車の中で出会ったのは、朝日町に暮らす同い年の少女・朝陽。 二人は約19km先の「星空ベンチ」を目指し、夜の山道へ歩き出します・・・ 【ペルソナ】 ・星夜=せいや(16歳/CV:坂田月菜)=東京・広尾のマンションに住むJK。夏休みを利用して母の実家・久々野へ遊びにきた星空・星座オタクの若干厨二病気味「みなみのうお座」が見たい ・朝陽=あさひ(16歳/CV:蓬坂えりか)=朝日村で生まれ育ったJK。夏休みに自分の住む民家から鈴蘭高原の「星のベンチ」までナイトウォークを計画中。「伊吹麝香草」を採りにいきたい ・聖夜のママ=(42歳/CV:山﨑るい)=20歳で久々野を出て東京のヘアデザイナーとして働く 【資料/映画「朝日町の絶景/星空ベンチ」(飛騨あさひ観光協会)】 https://www.hidaasahi.jp/観るスポット/星空ベンチ 【シーン1/高山線で久々野駅】 ▪️SE:高山線普通列車の車内音/シートに腰掛ける2人 「やばっ、充電器忘れたかも💦』 「なに、聖夜?ま〜た忘れ物?」 「ママ、駅にコンビニあるよね?』 「あるわけないでしょ、久々野駅に」 「ええええええ! 充電マジで終わるんだけどー!」 「行く先々でなんかググってばかりいるからでしょ」 「ググってないし!インスタでディグってるだけだし!」 「一緒じゃん」 「一緒じゃない!」 「とにかく、あんたが使ってるような可愛い充電器は、 高山まで戻んないと売ってないから」 「じゃ、ワンチャン行ってくるわ」 「は?ひとりで?」 「あたり前じゃん、うちのこと、いくつだと思ってんの」 「迷子とかなんないでよ」 「だーかーらー、いくつだと思ってんの?」 「16歳と3か月でしょ」 ママがいじわるそうな顔で笑う。 うちは星夜。 漢字で書くと「星」の「夜」。 渋谷区住みの、マジでイケてる女子高生! 夏休みを利用してママの実家・久々野に帰省してきたんだけど・・・ 高山着いてから鈍行への乗り換え時間が、2時間半って・・・ ガチでやばくない?ってか、うちら異世界転生すんの? やるじゃん、久々野・・・ 「星夜、もう久々野着くわよ。準備しなさい。 あら、反対側のホーム、高山行きがもう停まってるわ。 ちょっと。急がないと・・」 「あーいい。いい。 走るのだるいから次でいいわ」 「なに言ってんの。 山手線じゃないんだからね。 これ逃したら、また1時間以上待たないといけないのよ」 「マジ?」 「マジマジ。 だから、扉が開いたら、ダッシュで下りにかけこんで」 結局、うちらが乗ってきた美濃太田行きが久々野に着いたのは3時13分。 下りの高山行きが発車したのは3時14分だった。 誰がこんな時間割組んだんだよ! っとにもう〜 ▪️SE:全力で走っていく足音 【シーン2/高山本線高山行き普通列車】 ▪️SE:ディーゼル列車(キハ)の車内音 「はぁっはぁっはぁっ・・・」 ひっさしぶりの全力疾走。 しかもスーツケースひいてとか、ありえんし。 疲れたわ〜。 お、席あいてんじゃん。 同い年くらいの女の子の横。 ラッキー、座っちゃおっと。 「あの、ここ、座っても大丈夫ですか?」 「あ、はい。 どうぞ。空いてますから」 「ありがとうございます〜。よっこらしょっと」 「うふふ・・・」 久々野から高山までは、たった20分。 池袋から渋谷くらいじゃん。 なのに、1回乗り遅れたら1時間30分待ちってどういうこと〜。 なんてこと考えながら、ふと隣の席を見ると、 窓際の女子が、なにか本を読んでいる。 え・・・それって・・・ 「それ、北天(ほくてん)の星?スターアトラス?」 「え?」 あ、やば・・・つい心の声が口から出ちゃった・・・ 「この本のこと?」 「あ、うん・・・そうそう。 いや、うちも星座とかガチオタだから」 「すご〜い。 スターアトラスなんて言葉、はじめて聞いた」 「星図のことだよ。ひょっとして星とか好き?」 「星は好き。 今日高山へ行くのも星に関係あるんだ」 「え?なに?なに?」 「あ、そのまえに・・私は朝陽。『朝』の『太陽』って書くの。 16歳、高校生よ。朝陽って呼んでね」 「あ〜ごめんなさい。 うちは、星夜。『星』に『夜』って書くんだ。歳はタメだよ。星夜って呼んで」 「星夜・・・。 かっこいい名前。うらやましいなあ」 「なんで?朝陽の方がいけてるし」 「ありがと」 「で、星に関係することって?」 「うん。『星空ベンチ』」 「”星空ベンチ”!?なにそれ!?」 「去年の11月にできたんだ。 鈴蘭高原ってとこにある、『星を見るためだけのベンチ』」 「え?すごぉい!」 「『バスが停まらない停留所』にあるの」 「やだ、なに?面白〜い!」 「でしょ。 その『星空ベンチ』まで、道の駅から歩いていくことを考えてるの。 ナイトウォーク」 「すごっ。 その道の駅から星空ベンチまではどのくらいあるの?」 「20キロ弱かなあ。 上り坂だから5時間くらいはかかる」 「すごすぎる! でも・・・めっちゃ興味ある!」 「今高山へ向かってるのは、その準備のため」 「どんな準備?」 「山道、夜道を歩くからね。 まずは野生動物対策のアイテム。 熊避けの鈴と爆竹、熊避けスプレー」 「ああ、確かに」 「遠くまで照らすヘッドランプ」 「ヘッドランプ?」 「そ。懐中電灯だと片手が塞がっちゃうでしょ。 行く先と足元を照らす、超強力なライト。 それをゴムバンドで頭に直接巻きつけるの」 「なるほどねー」 「2本バンドだと私みたいなポニーテールや 星夜みたいなツインテールでも髪型崩れにくいから」 「いいねー」 「あとは、簡易的なシュラフと防寒着かな」 「防寒着?高山こんなに暑いのに」 「なに言ってるの。 鈴蘭高原は標高1300メートルよ。 夜の気温は15度以下になるからね」 「そうなんだ。 でも・・・いいなあ・・・」 「え?」 「ねえ、朝陽・・・・うちも一緒に行っちゃだめ?」 「ええ〜っ?」 「うちも、高山にきたらやりたいことがあって」 「なに?」 「見つけたい星があるの」 「星?」 「うん。 フォーマルハウトっていう星」 「フォーマル・・ハウト?」 「夏の終わりの夜遅くから、南の夜空に輝き始める星」 「へえ〜」 「みなみのうお座の一等星だよ。 みなみのうお座って、フォーマルハウト以外はみんな暗い星ばかりなんだ」 「みなみのうお座?初めてきいた。 でもなんでフォーマルハウトが見たいの?」 「あのね・・・フォーマルハウトの別名は、”南の孤独星”。 ひとりだけで輝いてる星」 「ふうん」 「うちみたい」 「どういうこと?」 「うちこう見えて、東京じゃ友だちとか全然いないんだ」 「そうなの・・・?」 「ねえ、朝陽。お願い。 私も『星空ベンチ』へ連れてって!」 「え〜💦ホントに大丈夫? 途中、コンビニも自販機もないんだよ」 「ヘーキ」 「う〜ん・・・ 楽しいことばっかり言っちゃったけど、けっこう危ないよ。 お母さんとか許してくれる?」 「大丈夫。 うちが頼めば、ママ絶対OKだから」 「そっか・・・それなら・・」 とは言ったけど、ママホントに許してくれるかなあ・・・ そのあと、うちと朝陽は、市街地でしっかり買い物をした。 なんか、渋谷でショッピングするより何倍も楽しい。 帰りの列車に乗ったのは、夜7時近く。 夕陽がもう沈みかけていた。 結局、『星空ベンチ』ナイトウォークの日程は、うちの提案で新月の夜。 星が一番きれいに見えるから。 ママは最初大反対してたけど、おばあちゃんが推してくれて、 条件付きでOKになった。 久々野駅に着くと、西の稜線に宵の明星が輝いていた。 【シーン3/聖夜の母の実家/久々野町大西地区】 ▪️SE:ヒグラシの声 「じゃ、行ってきま〜す!」 『星空ベンチ』ナイトウォークの日、 うちは待ち合わせの2時間前、午後3時におばあちゃんちを出た。 おばあちゃんちは、久々野町大西。 待ち合わせの道の駅 ひだ朝日村までは8kmくらいあるんだって。 渋谷から品川くらいか。 まあまああるじゃん。 しかもうちの格好は、ギャル寄りのアウトドア? トップスは、メンズサイズの白いグラフィックTシャツ。 それを、ミントグリーンのナイロン製ショートパンツにタックイン。 ボトムスには、UVカットと吸汗速乾を兼ね備えた、漆黒のコンプレッションレギンス。
ボイスドラマ「根古石」
2026/07/24
悪夢に苦しむ少女。失われた故郷。そして、姿を消した一匹の猫。 恐ろしくも切ない物語を、ぜひ最後までお楽しみください・・・ 【ペルソナ】※舞台は昭和35年春/荘川村中野から高山市(現在の市街地)へ ・さくら(15歳/岩波あこ)=祖父母と暮らす荘川村中野から高山市の親戚の家へ ・こうめ(15歳/坂田月菜)=高山市内にある旅館の娘。実は密かに金森の血統を守ってきた旧家 ・祖母(71歳/山﨑るい)=荘川村中野から親族の住む新淵へ ・七儺(岩波あこ)=さくらの夢に現れて苦しめる 【プロローグ:出会い】 ◾️SE:村の中の環境音 「さくら・・ 高山へ行っても元気でな。 しっかり勉強してこいよ」 祖母が目を潤ませて私を見送る。 祖父は何も言わず、寂しそうな顔をこちらに向けていた。 昭和35年。 1960年の春。 荘川村中野。 御母衣ダムの建設とともに、住人たちは引っ越しを始めた。 ある者は郡上八幡へ あるものは名古屋へ またあるものは東京へ・・ 荘川や白川村へ残る者はごくわずかだった。 私はさくら。 ここ荘川村中野で、祖父母との3人暮らし。 祖父母は高齢を理由に遠くへは行かず、荘川村に残る決断をした。 今後は新淵にある親戚の家で世話になる。 本来なら私も一緒に新淵へ行くはずだった。 だが今年はちょうど、中学卒業。高校進学の年。 高山にある名門の進学校・神山高校へ行く。 入学試験はこの春。3月。 受験したときは、まさか受かるなんて思ってもみなかった。 何も考えずに受験したので、合格してからは大変。 祖父母は私のために、親戚中へ掛け合った。 結局決まったのは、高山の叔父の家。 県事務所近くの古民家に居候。 通学は自転車。 雪が降ったら大変そう。 そして、今日が入学式。 祖父母が見送る中野のバス停。 祖父は必死で泣くのを我慢してる。 潤んだ瞳を見ていると 嬉しさよりも寂しさが募る。 私にも、心配事がひとつ。 新しい生活のことじゃない。 実は引っ越しが決まってから、サクラの姿が見えなくなっちゃったんだ。 サクラ、っていうのは、うちで飼っている三毛猫。 私と同じ名前。 私が生まれる前からいたから、もうかなりおばあちゃんのはず。 祖父母は、新淵への引っ越しが決まった日、 ”サクラをどうしよう?”ってすごく悩んでた。 聞くでもなく、私に抱かれたサクラは耳をそばだてていたけど・・ え? まさか・・心配かけないために、自分で姿を消したの? 翌日から祖父母と私・3人で、必死にサクラを探しまわる。 でも結局、入学式の今日まで、その姿を目にすることはなかった。 時間になり、遠くからバスがやってくる。 そのとき・・・ ◾️SE:ネコの鳴き声(ニャー) 「さくら?」 振り返ってもなにもない。 祖父も祖母も聞こえていないようだ。 やがて、乗合バスがバス停に到着。 私は後ろ髪を引かれながら、ステップを上がる。 庄川(しょうがわ)のせせらぎが雪解け水を運んでいた。 【シーン1:根古石】 ◾️SE:高山陣屋の環境音 「じいちゃん、ばあちゃんがいつまでも元気でいられますように」 桜山八幡宮。 秋の高山祭の舞台。 神山高校からの帰り道、 私は宮川沿いの参道から、八幡さまへ。 祖父母のことを思って真剣にお祈りした。 私の大切な家族。 見送りのときの顔が頭から離れない。 私は、まるで神様に呼ばれるように、毎日参道脇に自転車を停める。 でも、お参りする理由はそれだけじゃない。 「サクラが無事でいますように」 私が生まれたときから一緒の猫、 サクラのことも、ずうっと心に引っかかっていた。 八幡さまでは本殿に参拝。 そのあとは江名子川(えなこがわ)のほとりへ。 秋葉さまの前で自転車を停め、小さく頭を下げる。 初夏の遊歩道は風が気持ちいい。 安川通(やすがわどおり)から上三之町を通って市役所へ。 中橋を渡れば飛騨県事務所。 ここから叔父さんの家までは自転車で5分もかからない。 このコース、ちょっと遠回りだけど、私のお気に入り。 どうして県事務所の前を通るかというと・・・ 裏手に、『旧陣屋稲荷宮』っていうお稲荷さんがあるの。 そこで、ちょっとかわったものを発見したんだ。 『根古石』。 『根っこ』に『古い』に『石』と書く。 最初はなんなのかわからなかったけど。 先生に聞いたら、とっても悲しい伝説を教えてくれた。 それは江戸時代のお話。   郡代の娘が池のほとりで佇んでいると・・・ 可愛がっていた猫が唸りながら着物の裾をくわえて離さない。 まるでその場から娘を引き離そうとするように。 それを見ていた郡代は、 「畜生の分際で無礼な!」 と、腰にさした刀を脱いて一刀両断。 一太刀で猫の首を撥ねてしまった。 猫の首はそのまま池のほとりの松の木へ。 必死の形相で、そこにいた大蛇に噛みつく。 娘を狙っていた大蛇は、喉を噛まれて息絶えていた。 郡代は自分の早とちりを悔やんで、手厚く供養。 稲荷宮(いなりのみや)を建て、その傍らに大きな石を据えて祀った。 そう。これは、命をかけてお姫様を守った飼い猫の話。 その猫を祀った石が『根古石』。 私はひどく感動した。 だから毎日ここへきて手を合わせている。 忠義ある猫の供養と同時に、 『サクラ、お願い。元気でいて!』 猫の話を聞くと、どうしてもサクラと重なっちゃう。 もしかしてサクラ、 引っ越しする私たちのお荷物にならないように 姿を消したんじゃ・・・ サクラ・・・ 声が聞きたいよ・・サクラ・・・ 【シーン2:悪夢】 ◾️SE:高山陣屋の環境音 「おのれ〜! よくもわしの命を奪ったな〜! 許さんぞ〜!」 「ハッ!」 また、あの夢だ。 このところ、毎晩見る悪夢。 恐ろしいもののけの夢。 大蛇のような体。 頭には大きなツノ。 耳まで裂けた口。 猫のようにギラギラ光る目・・・ 猫・・・!? まさか・・・まさか・・・ サクラ? いや、そんなことはない。 絶対にありえない。 だけど、高山へ来てから、毎日この夢。 どうして・・・? 睡眠不足で勉強にも身が入らない。 明日から期末考査だというのに・・・。 【シーン3:ともだち】 ◾️SE:教室のチャイム(No.261849) 「ねえ、ひょっとして徹夜〜? 目の下のクマ〜 勉強が好きなんだね」 「え・・あ・・・えっと・・・」 「こうめ。 私の名前よ」 「あ・・・こ、こうめさん・・・私は・・」 「さくらさん、でしょ?」 「あ・・・うん」 「よろしくね。 どうやって話しかけようかと思ってたの」 「・・・どうして?」 「あなた、帰るとき、いつも上三之町、通っていくでしょ」 「なんで知ってるの?」 「私の家も、そっちだから」 「そうなんだ」 「上三之町で旅館をやってるの。 江戸時代から続いてる、古〜い旅館」 「へえ〜」 「さくらさんも上三之町に住んでるの?」 「ううん。うちは県事務所からずっと南へ下ったとこ」 「え〜。じゃなんで?」 「あのへんの雰囲気が好きなんだ」 「そうなのね」 初めて言葉を交わしたのに、 私とこうめは旧友のように喋り続けた。 私が荘川出身だということ。 住んでいた村がダムに沈むこと。 私は高山へ来て初めて、自分のことを他人に話した。 こうめも自分のことを、あっけらかんと話してくれる。 こうめの家は、古くからの女系家族らしい。 代々婿養子を迎えて、血筋を絶やさないようにしていた。 「それから・・・これはあまり大きな声で言えないけど」 もったいぶって話しだしたのは・・・ 「実はうち・・・陰陽師の血統なの」 「え・・・陰陽師って・・」   「そう・・・この世の闇と光、陰と陽のバランスを司る存在。 結界を張り、式神を使役し、牙をむく妖魔をあの世へ送り返す。 陰と陽、どちらにも属しながら、その境界を守り抜くのが私たち・陰陽師の宿命よ」 「す・・・すごい・・」 「うちは代々女系家族だって言ったじゃない」 「うん」 「穢れ(けがれ)を浄化する能力は、一族の女性にしか遺伝しないの。 うちがやってる『おもてなしの心』そのものが式神や結界を動かすエネルギー。 代々の女将はそれを仕切っているんだ」 「そ、そうなんだ・・・ でも、どうしてそれを私に話すの」 「ふふ・・・ あなたもう気づいてるんでしょ?」 「え・・・なに?」 「最近、あなたの周りで変なことが起きていること」 「あ・・・」 「さあ、今度はあなたの番よ。私、自分のこと打ち明けたんだから」 「う・・」 「その目
ボイスドラマ「覚醒」
2026/07/17
80年前の朝日村。 戦争孤児の少女と、正体を隠して生きる少女。 二人の出会いが、現代へ続く「覚醒」の物語を動かし始めます。 飛騨に伝わる八百比丘尼伝説を描いた和風ホラーボイスドラマです・・・ 【プロローグ:出会い】 ◾️SE:村はずれの辻の環境音/〜駆けつける足音 八夜の泣き声「お願いです、通してください。私はただこの村に用があって」 「おまえら!なにしとるんや!」 「なんじゃあ?伽耶! 邪魔するなて」 「大人がよってたかって、女子(おなご)をいじめるとはなにごとや!」 「女子 って、お前も同じくらいの歳やろうに」 そうだ。わしと同じくらい。 十六か十七くらいの女の子が、目の前で泣いている。 「それにいじめとるんやないぞ。 このガキが、村に入ろうとするからじゃ」 「ええやないか。入れてやれば」 「あほか。 ただでさえ、食糧難やっちゅうのに、 これ以上よそもんに食い扶持減らされてたまるか」 「おまえらだって、 名古屋とか大阪から疎開してきた、よそもんだろ」 「うるせえ。 つべこべ言うと、お前も村から叩き出すぞ、伽耶!」 怖い顔して私を睨みつける疎開者たち。 1946年。益田郡(ましたぐん)朝日村。 終戦からまもなく1年が経とうという頃。 朝日には名古屋や大阪から、疎開者がぞくぞくとつめかけた。 なかでも多かったのは引揚兵や復員兵たち。 小さな村はよそものでごった返していた。 ただでさえ平地が少なく、米の収穫量が限られている朝日村。 急激な人口流入は激しい食糧難をもたらした。 配給や耕作地をめぐる諍いも毎日絶えない。 疎開者たちは森を切り拓いて自分たちのために畑と住処(すみか)を作った。 林業に関わっていく者も多い。 彼らはいつも数人で村の辻に立ち、入ってくる者を見張っていた。 「ええか。ガキ。 十(とお)数えるうちに出ていかんと、痛い目を見るぞ! いち!」 「待て! この子はわしが面倒みる。連れてくぞ」 「おいおい。 ガキがガキの面倒みるってか」 「うるさい。 そんなこと言っとってええのか。 今度腹痛(はらいた)になっても薬草を煎じてやらんぞ」 「う・・なんだと・・」 わしは、少女の手をとり、うちへ向かって歩いていく。 疎開者の男は恨めしそうな顔でわしを睨んでいた。 【シーン1:ともだち】 ◾️SE:朝日川のせせらぎ/小さな足音 「ありがとう」 消え入りそうな声で少女が呟く。 「助けてくれて」 「ええんやよ。 わしだって、もともとよそもんやし」 「どういうこと?」 「戦時中はわしも疎開者やったんだて」 「え・・」 「実家は名古屋や。 戦況が悪化した去年の正月。 とうさまとかあさまは、わしをひとりでここ、朝日村へ行かせたんや。 「そうなの・・」 「そのすぐあとで名古屋の大空襲や。 B29が、とうさまとかあさまと家を焼き尽くした」 「そんな!」 「新聞もなんも教えてくれんからな。 わしが知ったのは、5月になってから。 名古屋城が焼け落ちた、ってみんな騒いどった頃や。 ちょうどそのころ、 疎開先のここへとうさまとかあさまのお骨が届いた」 「やだ・・」 「お骨ったって、骨なのかどうかもようわからん。 砂みたいな焦げカスだけや。 その中に手紙がねじこまれとったわ」 「手紙・・?」 「親戚のおじさんからでな。 みんな、家も焼けてしもうたで、帰ってくるな。 お骨はそっちで弔ってくれ、って」 「ひどい・・」 「ああ。でも戦争なんて、そんなもんやろ。 そういうわけでわしは戦災孤児になった」 「そう・・」 「今からいくんは、わしのうちや。 炭焼き小屋だけどな。 杣衆(そましゅう)の面倒みてやるかわりに、住まわせてもろうとるんじゃ」 「面倒・・?」 「うん。わしには薬草の知識があるからな」 「薬草?」 「ああ。よもぎとかクロモジとか。 朝日には掃いて捨てるほどあるじゃろ。 わしが疎開する前、かあさまが薬草のこといろいろ教えてくれてな。 これは食べれる。 これは食べたらあかん。 ゲンノショウコってやつは腹の具合がわるいときに煎じて飲む。 ドクダミは便秘に効く。 ヨモギは風呂に入れて疲れをとれ。 怪我したら、クロモジの葉を粉末にして止血しろ・・・」 「すごい・・」 「なんか感じるものがあったんじゃろなあ。 かあさまは一生懸命わしに知識を詰め込んだわ。 結局、その知識を活かして、 杣衆たちの体調管理と、薬膳料理を作ってやっとるんや」 「素敵なおかあさま・・」 「そうやな。 こうして生きていられるのも、かあさまのおかげやな」 「いいお話・・・ ねえ、おうちはもうすぐ?」 「まだまだ先や。 あと1時間以上は歩くぞ。大丈夫か?」 「平気よ」 「秋神川を上っていくで。 小瀬ヶ洞(おぜがほら)って集落から山の中へ入る」 「あなた、名前は? さっき、伽耶って呼ばれてたけど」 「そう。伽耶。 御伽噺(おとぎばなし)の『とぎ』という字に、有耶無耶(うやむや)の『や』。 まるで御伽噺みたいに、戦争で人生有耶無耶にされとるから。はは。 そうそう。萱(かや)って薬草もあるんだ。 心を穏やかにする作用があってね」 「へえ〜。 ・・・あ、私は八夜。八夜って呼ばれてる。 八つの夜。 でも本名は八百代姫(やおよひめ)」 「八百代姫?お姫様なの!?」 「違うよ。 私の生まれた時代、女の子にはみんな姫ってつけてたの」 「時代って。 私とそんなに変わんないでしょ。 まだ16よ、私」 「そうだね・・・」 「八夜はどこからきたの?」 「小浜」 「小浜ってどこ?」 「若狭よ。遠敷郡(おにゅうぐん)小浜町」 「北国(ほっこく)の方?」 「そう。海がきれいなまちよ」 「海!いいなあ。 戦争が始まる前に、行ったっきり」 「今度、おいでよ」 「うん、いきたい!」 「約束ね」 指切りをする八夜の手はすごく冷たかった。 驚きを気取られないようにして、 私は、秋神川のほとりを足早に歩く。 渓谷に沿ったひたすら一本道。 秋神川には、御嶽山からの雪解け水が激しく流れる。 やがて、見えてきたのは小瀬ヶ洞の集落。 そのまま蜘蛛だ淵を通り過ぎる。 淵は川底が見えないほど、深い闇の中。 私はいつもここを通るとき、目を閉じて通り過ぎる。 蜘蛛の糸に引きずり込まれないように。 集落を抜けて森の中へ入れば、炭焼き小屋までは20分くらい。 森へ入るには、小さな吊り橋を渡らなければならない。 「吊り橋を渡るんだ。すてき」 「ねえ、ついさっき・・・ 1時間くらい前に会ったばっかりなのに、私たち、もうともだちみたいだね」 「ともだち・・・?」 「うん。 私、里にはあんまり行かないから、ともだちなんていないんだ」 「そうなの?」 「さっきはたまたま、久々野に薬草売りにいくところだったの」 「ああ、ごめんね。邪魔しちゃって」 「いい、いい。 だって、ともだちができたんだもん。 お金には換えられないよ」 「ホントに・・私のともだちになってくれるの?」 「やだなあ。もうともだちじゃない」 「ありがとう・・・」 え・・・ 八夜・・泣いてるの? 心配して顔を覗き込もうとすると・・ 「あのね、伽耶」 そう言うと、懐から小さな包みを取り出した。 「これ、あげる」 それは、片手よりも小さな桐の箱。 中からとり出したのは・・ 「干し肉よ」 「干し肉?」 「とっても貴重な干し肉」 「え・・・そんな大事なものなんて、もらえないわ」 「初めてできたともだちにもらってほしいの」 「そんな・・・」 「なにか大きな病にかかったり、大怪我をしたときに食べて」 「くすり?」 「まあ・・・くすりみたいなもの」 そう言って、八夜は私に桐の箱を手渡す。 森の奥深く、木々の向こうに、粗末な炭焼き小屋が見えてきた。 ◾️SE:犬の声 「あ、クコだ」 「クコって?」 「犬よ。 野犬だけど私になついていて、飼ってるみたいなもん」 「犬・・・」 あれ?なんかいつもと違う。 クコは凶暴に吠えたてながら私たちのもとへ走ってくる。 私はとっさに八夜をかばって、前に出た。 「いや・・」 「クコ!どうしたの!? そんなに吠えて。 やめて。 私の大事なおともだちなのよ」 「伽耶・・」 クコは唸り声をあげて私たちに飛びかかる。 私は顔を背けた。 その瞬間・・・ 「あっ!」 手に持っていた桐箱をくわえて、そのまま森の中へ走り去った。 「ああ!」 「クコ!返して!戻ってきなさい!」 「そんな・・そんな・・・」 私は、炭焼き小屋
ボイスドラマ「スイートラディッシュ」
2026/07/10
高校では目立たない存在。 だけどネットの世界では、何万人ものファンに愛される人気VTuber。 そんな二つの顔を持つ女子高生・ナヴィが主人公の物語です。 【ペルソナ】※ナヴィはフランス語で「赤かぶ」 ・ナヴィ(17歳JK)=高山市内の高校2年生。陰キャでコミュ症。対人恐怖症。だが裏の顔は・・ ・スウィートラディッシュ=全国的に大人気のVtuber。通称『スイラジ』すべてが謎 ・ジン(17歳)=高山市内の高校2年生。祭り屋台に命をかける祭り男子。だが裏の顔は・・ ・フェニックス=スウィートラディッシュと人気を二分するイケメンVTuber。通称『ホウ』 ・イチゴ(17歳/CV=岩波あこ)=スイラジガチ推しの同級生。別に友達ではない ・ナヴィのママ(CV=山﨑るい)=Vtuberのことはよくわからないけど薄々気づいている 【プロローグ:LIVE配信】 ◾️SE:アニソンのアウトロ〜 「みんな〜!おつラディ〜!スイートラディッシュの”歌ってみたライブ”、最後の曲は 『アイニキテ』でした〜! アンコールのコメントもたくさんありがとう〜! ア〜シの想い、”ラジ部”のみんなに届いたかな?っ。 次の配信は来週! スケジュールはXに載せるから、ちゃんとチェックして待っててね? 遅刻は厳禁だよ〜! 忘れたらおこだからね〜 ハッシュタグはいつもの『スイラジ』〜 そしゃ、バイバイ!」 「あれ・・、いまアタシ、なんてった? あ〜、まいっか」 ◾️SE:LIVE終了の音「ピ」 ア〜シはスイートラディッシュ。 通称”スイラジ”。 みんな知ってる、人気ナンバーワンのアイドルVtuber。 今夜のライブ配信も、10,000人以上のファンが参加してくれた。 バーチャルスタジオをレンタルして、 3曲もうたっちゃったからねー。 スイラジのビジュは、王道のアイドル系。​​ ゆるふわに巻いた高めのツインテール。 赤かぶをモチーフにしたリボン付きの結び目。 ラディッシュのしずくをイメージしたチョーカー。 トップスは赤白のギンガムチェックのビスチェ。 デコルテがきれいに見えるハートネック。 肩口はシースルー素材のパフスリーブ。 ボトムスはボリュームたっぷりの3段フリルミニスカート。 腰の後ろには、赤かぶの葉をイメージしたオーガンジーリボン。 ダンスするたびにひらひらと揺れる。 スイラジは、大手事務所に所属せず、フリーで活動中。 ゲーム実況とかはやらずに、フリートークと歌がメイン。 アイドルVtuberの世界では、イケメンVのフェニックスと人気を二分してる。 ・・・っと あ、あか〜ん。もうこんな時間やん。 勉強やんなきゃ。 明日期末なのに〜 そう。 スイートラディッシュの中の人は、 ア・タ・シ・・現役JKのナヴィ。 市街地の高校に通う二年生なんだ。 仮想世界ではバリバリのアイドル。 1万人の前でも余裕で歌えんのに、リアル出ると・・・ マジ無理。詰む。 だってアタシ、陰キャ、コミュ症なんだも〜ん! 【シーン1:期末1日目】 ◾️SE:教室のチャイム やっぱりだめだったぁ。終わった〜。 英語も歴史も数学も全滅。まじで1ミリも分かんなかった〜。 余裕で赤点だ〜。 期末前日にライブ配信やるなんて・・・ バカじゃん、アタシ。 「ねえ、昨日のスイラジ見た?」 え? 「そうそう、あの最後の・・」 昨日のアタシのライブのこと? 「だよね!言ったよね。 『そしゃ』って」 あ・・・ 「うんうん。やっぱそうじゃない。 スイラジってさ・・」 やばっ。 「高山住み〜!?」 やらかした〜。 やっぱバレてたか〜。 「ひょっとして私たちの周りにいたりして〜? きゃ〜!」 期末1日目終わったあと、みんな教室に残ってだべってる。 ってか、みんな昨日ライブ見てたの? 期末前日に。 でもでも。 どうする? 「ほ〜んとにいるかもよ〜」 さっきからずっとマウントとってるイチゴと・・ 目が合った・・・ え? 一瞬の沈黙。 そして・・・ 「ないない!」 はぁ〜っ。 よかった、アタシ。陰キャで。 と思ったそのとき・・・ 「ちげーよ」 ジン・・・ 「スイラジがこんなとこにいるわけないだろ」 いるけど・・・ 「それに『そしゃ』なんて言ってない。 『そいじゃ』の聞き間違いだよ」 「え〜そうかな〜。 『そしゃ』って言ったじゃん」 うん。言った。たぶん・・・ 「なコトより、明日の試験、いいのかよ。 早く帰らなくても・・」 「あ、やばっ。 帰るわ。 ばいちゃ」 「昭和かよ。ったく。 じゃ、オレも帰るわ。 お前も早く帰れよ、ナヴィ」 「あ・・・うん・・・」 「じゃあな」 アニメの主人公みたく爽やかに、ジンが教室を出ていった。 そういえば、子どもの頃はよくジンと遊んだな・・・ コミュ症のアタシをいつも外に連れ出してくれたジン。 毎日のように遊んでたのに・・・ 中学の門をくぐり、高校に入ると、まったく会話はなくなった。 みんな慌てて帰り、たった一人残った教室。 夕陽がアタシを赤く染めていった。 【シーン3:期末が終わって】 ◾️SE:教室のチャイム 「終わったぁ〜。期末ぅ〜。 おつラディ〜!」 教室のあちこちから『おつラディ』という通称『ラジ語』が飛び交う。 結局、アタシの高2・二学期の期末は、史上最悪の点数で幕を閉じた。 「ねえちょっと、みんな。知ってる?」 アタシに背中を向けたイチゴが、陽キャ一軍界隈のメンツを集める。 なんで、いつもアタシのすぐ横なの? 知らんけど。 「スイラジの中の人・・梨柿(リカ)らしいよ」 ▪️クラス中にどよめきがおこる「ええ〜っ」 リカ、というのはクラスでいっちゃん可愛い、って自分で言ってる女子。 今までも、原宿行ったらスカウトされた、とか、 人気インフルエンサーとつながってる、とか、アピってたっけ。 「この前もリカ、帰るとき『そしゃバイバイ』って言うからさ。 こっちが『えっ?』ってなったら、 『やばいやばい!』ってガチ焦りで帰ってったわ」 ふう〜ん。 ま、いいんじゃない。 これで、誰もアタシに疑惑の目は向けないだろうし。 ん? なことしなくても、そもそも誰もアタシのことなんて気にもしてないか。 へへっ。 ニヤけた顔で黒板の方を向くと、怖〜い顔でジンがアタシを睨んでた。 え?なんで?アタシ、なんか、悪いことした? アタシが悲しそうな顔になると、ジンは無視して教室を出ていく。 なんかアイツ、最近やなやつ。 【シーン4:食卓にて】 ◾️SE:食事中のガヤ 「ちょっと〜、ナヴィ。 食事中にスマホさわんないで」 「え〜。だってママ〜。 この前のライブの再生数、あんまし伸びないんだもん」 「くだらないこと言ってないで、ちゃんと味わって食べなさい。 あげづけの冷や奴と、あげづけの挟み焼きよ。 あんたの大好物でしょ」 「え? やった!いっただきま〜す!」 「はぁ〜。さっきから目の前に置いてあるのに・・・っとにもう」 さっと炙って細かく切ったあげづけに、旬のみょうがをどっさりのせた冷や奴。 醤油ベースの旨味と、みょうがの爽やかさが絶妙。喉越しもう神!って感じ。 あげづけの間に大葉ととろけるチーズを挟んだ、挟み焼き。 トースターでカリッと焼いたこの食感。 もうマジ、やばみ〜! 「あんた、ライバーだかワイパーとか知んないけど、 次のテストで赤点とったら、パソコン没収するからねー」 「え〜〜〜〜!?」 「ったりまえじゃない。 学生の本分は、勉強なのよ、わかってる」 「わかってま〜す」 「じゃ、しっかりやんなさい」 やっぱり、今回の期末で過去最低スコアだったからな〜。 ママもパパも相当ビビってたし。 配信の回数、少し減らそうかな・・・ そんな後ろ向きのことを真剣に考えているとき・・・ ◾️SE:DMの着信音 SNSのDMが届いた。 『よぉ、スイラジ。 最近配信が止まってるやん。 ひょっとして俺にビビり散らかして逃げた説ある?』 フェ、フェニックスぅ〜!? 『そうじゃないなら、 今週末”タイマン・コラボ生配信”で白黒つけようぜ』 この〜! クソイケVが〜 『今週の日曜、21時。 枠はこっちのチャンネル。 内容は”歌とセリフ対決”。 リスナーのリアルタイム投票で勝敗を決める。 言い訳なし。 負けた方は、次回の配信から、ずうっと飛騨弁で雑談すること」 な、なんだとぉ〜!? こいつ、なにか知ってるのか〜! 『ま、スイラジがガチでビビってんなら、そのままバックれてもいいけど?笑 逃げないなら、日曜の夜、画面の裏で待ってる。そしゃ』 くっそ〜。
ボイスドラマ「クロモジ」(後編:朝日町編)
2026/07/03
飛騨の山々に自生する薬木「クロモジ」。 その爽やかな香りは、人の心をほっと落ち着かせてくれます。 福地山の山中で出会ったひとつの出来事。何気ない日常の中で見失いかけていた想い。そして、誰かを思う気持ち。 自然の恵みと人とのつながりを描いた、心温まる物語・・・ 【ペルソナ】 ・よもぎ(26歳/CV:蓬坂えりか)=カフェ「よもぎ」オーナー。漢方薬剤師。薬草を求めて奥飛騨温泉郷福地温泉の山へ入ったとき道に迷ってしまう→冷静なよもぎは薬草掘り用のスコップを岩にうちつけて、国際基準となっている山の遭難信号のリズムを鳴らす ・シズル=シュウ(38歳/CV:日比野正裕)=東京で働いていたマーケティング会社を辞め、地域おこし協力隊として奥飛騨温泉郷福地温泉に移住。福地温泉を選んだのは元々化石に興味があったから。現在は信飛トレイルの活動に関わり、福地温泉の旅館を手伝いながら平湯のカフェにも集まる 【シーン1:再会/カフェよもぎ】 ◾️SE:カフェの雑踏 「よもぎちゃん、そのヘンテコな置物はなんだい? こないだから気になっとったんやけど」 「これ? 三葉虫のペーパーウェイトよ。レプリカだけど」 「へえ〜 なんか形とか大きさとかアレみたいやな。 あの、ほれ、ゴキ・・」 「やめてよ、マサさん。 これ、オリジナルで作ってもらったのよ。世界でひとつだけのウェイトなのに」 「作ってもらった?だれに?」 「ないしょ」 「おお、おお、すみにおけんな、よもぎちゃんも」 常連客のマサさんが、三葉虫を指差してからかう。 1週間前に、シズルさんが作ってくれた、ちょっぴり歪なペーパーウェィト。 彼が持っている化石で型をとって作ってくれた。 ここは朝日町の薬膳カフェ『よもぎ』。 私はオーナーのよもぎ。 今日もたくさんのお客さんで賑わっている。 ◾️SE:カフェの雑踏〜お客さんの来店を告げるカフェベル 「いらっしゃいませ・・・あ・・ シズルさん・・」 「よもぎさん・・きちゃった・・・ すみません・・連絡もせずにいきなり」 「いえ、そんな・・大歓迎よ」 「おお〜。 王子様の登場やな」 「もう〜。マサさん! こんど言ったらもう漢方の処方してあげないから」 「あはは・・・」 「さ、すわって」 「はい、ありがとうございます」 「まずはこれ、どうぞ」 「あ・・」 「トウキとクロモジの『巡り(めぐり)アロマ茶』よ」 「ああ、この前の・・」 「トウキは冷え性の改善、クロモジは胃腸を整えるの」 「へえ〜」 「クロモジっていうのは、よもぎと並ぶ朝日の至宝。 このお茶は、奥飛騨と朝日のイイトコどり」 「そうなんだ」 「食前茶よ、召しあがって」 「食前茶?」 「そ。ランチ、食べていけるんでしょ」 「うん! ひょっとして薬膳ランチ?」 「そうよ、召しあがって」 「楽しみだな〜」 私がその日、シズルに出したのは、薬膳参鶏湯(サムゲタン)。 レシピはもちろん、この前福地で採取した薬草たち。 トウキの根、ナツメ、クコの実に、もち米を入れてトロトロに煮込む。 臭み消しと香り付けにもクロモジの枝を入れてある。 薬膳参鶏湯、実はあれから毎日準備してたんだ。 シズルさんがいつきてもいいように、って。 我ながら私って、ピュア。ふふ・・ 「すっごく美味しい! 体中がポカポカしてくる」 「そおかぁ、こんところ毎日ランチがサムゲタンだったのは こういうことかぁ」 「マサさん、うるさい。 ヘンなこと言ってると、蜘蛛だ淵へ引きずり込むわよ〜」 「お〜こわ〜。女郎蜘蛛よもぎかぁ」 「もう〜」 「ねえ、よもぎさん」 「なあに?」 「クモダブチってなに?」 「ああ、蜘蛛だ淵? そうねえ・・・ よかったらランチのあと行ってみましょうか」 「あ、はい」 好奇心満開で私たちを見るマサさん。 それを横目に、私たちはお店を出た。 留守番を頼んだおばあちゃんは、何も言わずにニコニコしている。 シズルのSUVで秋神ダムへ。 真上から照りつける太陽は、もう夏の準備を始めていた。 【シーン2:仄暗い水底より/秋神ダム・蜘蛛だ淵】 ◾️SE:ダム周辺のざわめき〜野鳥の鳴き声 「これが秋神ダムかぁ」 「蜘蛛だ淵はあのあたりかな」 「ダムの底?」 「メンテナンスで水抜きするときか、 夏に渇水になるときじゃないと見えないわ」 「水位が下がると見えたりするの?」 「そうねえ。 谷筋(たにすじ)って言って、秋神川の元のルートがうっすらと見えることがあるの」 「見てみたいなあ」 「ひかれるわよ〜」 「どういうこと?」 私はシズルさんに蜘蛛だ淵の伝説を語る。 むか〜しむかし。秋神川の奥深く。 小瀬ヶ洞(おぜがほら)っていう小さな集落があったの。 川の中には、深くて、吸い込まれそうなほど大〜きな淵。 それが『蜘蛛だ淵』。 『蜘蛛だ淵』には、恐ろしいほど大きな蜘蛛のヌシが住んでいた。 ある日、一人の木こりが、淵のそばで一休みしていたとき。 細くて白い糸が、どこからともなく、すうっと伸びてきて、木こりの足首に巻き付いた。 糸の先を見ると、深い深い水底へと繋がっている。 『まずい!』 そう思った木こりは、足首の糸をそっと外して、 すぐそばにあった大きな切り株に巻き付けた。 すると、淵の底から地響きがして、切り株が、根っこごと引き抜かれる。 そのまま凄まじい水しぶきを上げて淵の底へ沈んでいった・・・ おしまい。 「こっわ〜っ」 「そう?」 「え、なんで? だって、それって、恐ろしい化け物だろ、蜘蛛の」 「どうして? 木こりは助かったのよ」 「え・・」 「切り株を水底へ引きずり込んだ蜘蛛のヌシは、すぐに気づいたと思う。 自分が命がけで引っ張ったものが、ただの冷たい切り株だったって。 ヌシはね、人を襲いたかったんじゃないのよ。 深い深い、誰も光を届けてくれない冷たい水の底。 何百年も、たった一人で寂しかったんじゃないかな。 ただ、誰かに触れてほしくて、誰かと繋がりたくて・・・ 精一杯糸を伸ばしただけだったのかも。 だから、だまされたと知った蜘蛛のヌシは、 それから二度と、水面に糸を伸ばすことはなかったの。今、『蜘蛛だ淵』はダムの底に沈んで、もう誰も見ることはできないでしょ。 あの冷たい水の、さらにその底。 誰も来ない暗闇で、ヌシは今でも静かに、誰かを待っているのかもしれない・・・ 「そっか・・・ 伝記や伝説って、そういう見方もあるんだね」 「そうよ。 両面宿儺だってそうじゃない。 日本書紀であんな風に書かれて。 本当は七儺(しちな)っていう鬼や災害から飛騨を守ったのに」 「よもぎさんがそんな風に考えるなんて意外だな」 「そう? 実は私、シズルさんには言ってないけど・・」 「なに?」 「待っている人がいるの・・・いや、いたの。・・・過去形かな」 「え・・」 「シズルさんが以前住んでた東京に」 「そうなんだ・・」 「でも、その人、帰ってくるかどうかも、わかんない」 「どういうこと・・・?」 「繋がってると思ってた糸は・・切れちゃったみたいだから」 「よもぎさん・・・」 「ごめんね、変な話して」 「いや、そうじゃなくて・・・実は私も話があるんだ」 「話・・?」 「私は、来週から東京へ行く」 「え・・東京?」 「東京・丸の内の大手企業にプレゼンしてくるんです。 福利厚生として、朝日のクロモジを使った薬草プログラムと、 信飛トレイルでのリトリートツアーを導入する、ウェルネスビジネス。 起業したばかりの私の会社と東京の大手企業との、公式な提携合意書。 それを手土産にして戻ってくる」 「すごっ」 「契約の手続きやユーザー研修があるからしばらく帰れないけど」 「そうなの・・・」 「待っていてくれませんか?」 「え・・・」 「展開早すぎかもですが・・・」 「そんなことないわ」 「え?」 「じゃあ、東京へ行く前に糸をしばっておかないと」 「よもぎさん・・」 そう言って私は、背中からシズルを抱きしめた。 シズルは何も言わず、胸の前で私の手を優しく包み込む。 秋神ダム・蜘蛛だ淵から伸びる透明な蜘蛛の糸。 それは私たちの心を静かに、しっかりと結んでいった。 【シーン3:帰還/カフェよもぎ】 ◾️SE:カフェのざわめき あれから半月。 たった2週間が1年にも10年にも感じられた。 シズルが東京へ発った日から作り始めた、クロモジの薬草エキス。 乾燥させたクロモジの枝と葉を、ウォッカ
ボイスドラマ「トウキ」(前編:奥飛騨温泉郷編)
2026/06/26
飛騨の山で受け継がれてきた薬草「トウキ」。 古くから女性の健康を支える薬草として知られ、人々の暮らしとともに歩んできました。 福地山で起きた予期せぬ出来事。山の厳しさと優しさ。そして、人を信じる心。 飛騨の自然と薬草文化を背景に描く感動の物語・・・ 【ペルソナ】 ・シズル=シュウ(38歳/CV:日比野正裕)=東京で働いていたマーケティング会社を辞め、地域おこし協力隊として奥飛騨温泉郷福地温泉に移住。福地温泉を選んだのは元々化石に興味があったから。現在は信飛トレイルの活動に関わり、福地温泉の旅館を手伝いながら平湯のカフェにも集まる ・よもぎ(26歳/CV:蓬坂えりか)=カフェ「よもぎ」オーナー。漢方薬剤師。薬草を求めて奥飛騨温泉郷福地温泉の山へ入ったとき道に迷ってしまう→冷静なよもぎは薬草掘り用のスコップを岩にうちつけて、国際基準となっている山の遭難信号のリズムを鳴らす 【シーン1:遭難信号】 ◾️SE:森の中の野鳥 =スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る 「え? いまの音・・・」 ◾️もう一度スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る 「7、8、9・・・ まさか・・・」 ◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(以降等間隔で合計6回鳴る) 「1分間に6回・・ 間違いない、救難信号だ」 山岳遭難信号。 これを使うということは、熟練のハイカーか・・ とにかく、音のする方向を見定めよう。 ◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(合計6回まで) 雨上がりの奥飛騨温泉郷・福地温泉(ふくじおんせん)。 立ち込める霧の彼方から、かすかな遭難信号が響いてくる。 私の名前はシズル。 福地温泉を拠点とする地域おこし協力隊だ。 かつては、東京・丸の内で働くAI分析アナリスト。 その仕事を辞めて、福地に移住してきたのが3年前。 移住の目的は、地域おこし協力隊。 福地温泉の旅館を手伝いながら、奥飛騨温泉郷の魅力を発信している。 もともと子どもの頃から、筋金入りの化石オタクだった。 部屋にはアンモナイトの置物が鎮座している。 福地温泉に移住したのも、日本最古の化石が発見された場所だから。 とはいえ、化石発見エリアの一の谷(いちのたに)へは、立ち入りが厳しく禁じられている。 私は午後から、『福地化石遊歩道』の安全点検をしていた。 ◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(以降60秒おきに6回鳴る) 「1分間の静寂のあと・・・再度発信」 国際基準通りだ。 あの音・・・ 高く澄んだ、小さな鐘のような音・・・ 岩に打ちつけている・・ でもペグやサバイバルナイフじゃない。 鉄製のハンマー? いや、もっと薄い・・・スコップかな。 なんとか日が暮れる前に見つけてあげないと・・ ◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(以降60秒おきに6回鳴る) 遊歩道から見て、上の方の斜面。 福地山(ふくじやま)の深い森の奥から音が響いてくる。 1メートル先も見えないような深い霧。 私は音のする方へ、急ぎ足で向かった。 と、霧の中から現れたのは、剥き出しになった石灰岩の岩盤。 音はこの岩に反響している。 そのまま歩くと、すぐに見えてきたのは、登山道の入口。 それは毎日のように歩いている道。 私は一気に坂を駆け上がった。 はあっ、はあっ。 ◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(以降60秒おきに6回鳴る) 音が徐々に大きく、クリアになってくる。 テンポは・・少し不規則になってきたかな。 疲れてきているんだろう・・・ 急ごう。 と、リズムが乱れ始める。 もう少しだ。がんばれ。 ん? 音が真横になった・・ あそこだ。 あの枯れ沢の斜面。 誤って足を踏み入れたか、滑り落ちたのかも。 私は、登山道から離れた斜面を駆け降りる。 音はどんどん近くなる。よし、そろそろいいだろう。 『おお〜い!聞こえるか〜!』 『こっちよ〜!』 間髪入れずに明るい声が帰ってくる。 女性? 私の頭の中には、自撮り棒を持つ山ガールの姿が浮かんでいた。 【シーン2:発見】 ◾️SE:日が落ちかけた森のざわめき 『ありがとうございます』 ベンチほどの小さな岩。体を斜めにして腰掛ける女性。 この岩に・・打ちつけていたのは・・・ やっぱりスコップだ。 服装はちゃんとした山歩きスタイル。 実用的な防虫ネット付きの帽子。 首元に巻いているのは、パステルグリーンのタオル。 オリーブグリーンのレインウェア。たぶんゴアテックスかな。 泥除けの頑丈なスパッツ。 登山靴の先には湿った黒土がべっとりと付いている。 彼女がレインウェアを脱ぐと、中はチェック柄のトレッキングシャツ。 腕には緑色の腕章。(※福地温泉観光協会の腕章のこと) リュックにはラミネート加工された許可証らしきものがぶら下がっている。 『本当に助かりました』 「驚いたなあ」 『え?どういうこと?』 「第一声を聞いたときは、もっと、こう・・・ ギャルっぽい人かと思って・・」 『なに、その表現? そんな軽い感じに聞こえました?』 「いや、そうじゃないんだけど・・声から、カラフルなウインドブレーカーを着た山ガール、ってのを想像しちゃったんです」 『それ褒め言葉ですか〜?声、勉強して声優にでもなろうかしら』 「あ、ご、ごめんなさい! そ、それより、大丈夫ですか? お怪我とかはありませんか?」 『大丈夫。この格好ですから』 「どうして登山道からはずれちゃったんですか?」 『ごめんなさい。 トウキを探して奥へ入ってったら迷っちゃって』 「トウキ?」 『薬草です。 別名”婦人病の万能薬”』 ああ、そうか。だから・・・ さっきのは薬草採取の許可証か・・ 『ほら。 嗅いでみて』 彼女はリュックから薬草を取り出し、私の顔に近づける。 『セロリに似て、爽やかで強い、独特の香りなの』 「ホントだ・・・ 薬草のこと、詳しいんですね」 『はい。 朝日町で”よもぎ”って薬膳カフェをやってるんです。 よかったら一度いらっしゃいませんか』 「よもぎ・・」 『ええ。 あ、ちなみに私の名前もよもぎ、です』 「そうでしたか・・・ おっと・・・いかん!」 『どうしました?』 「ほら、日が沈んでしまう」 『ほんとだ・・・』 「急ぎましょう」 『はい』 少し申し訳なさそうな顔をして、彼女=よもぎは立ち上がった。 私は、LEDライトのスイッチを入れる。 夕陽が笠ヶ岳(かさがたけ)の向こうへ吸い込まれていく。 グラデーションは一段と濃くなり、シルエットの稜線が闇に浮かび上がっていた。 【シーン3:下山】※この状況ではビバークの方が圧倒的に危険なので夜道を2人で下山します ◾️SE:森の中を歩く足音〜夜の森のざわめき〜フクロウの鳴き声 『すみません、荷物まで持ってもらって』 「いえいえ、薬草なんて軽いから全然!」 『あの・・・ひとつ伺ってもいいですか?』 「はい」 「さっき、どうしてビバークしなかったんですか? ああいうときって、ビバークするものだと思ってました』 「夜の山道を歩くのは危険だから、ですよね」 『ええ』 「実は今日みたいな状況のときは、留まる方が圧倒的にリスクが高いんです」 『そうなんですか?』 「はい。 最初のリスクは『低体温症』。 今日は雨でしたよね。 レインウェアを着てても内側は汗で濡れてる。 奥飛騨の夜はこの時期でもかなり冷えますから」 『なるほど』 「2つ目のリスクは『野生動物』。 このあたりはツキノワグマの生息地ですからね。よもぎさんの持っている薬草の香りが クマを引き寄せます」 『そっか〜』 「さっきの枯れ沢から登山口までは1時間ちょっとの距離。 ここは私が毎日歩いている、ホームグラウンドなんです。 心配しなくても、間違いなく無事に帰れますよ」 『わかりました』 「説教っぽいこといってすみません」 『とんでもない。 あ、もうひとついいですか?』 「どうぞどうぞ」 『まだ、お名前聞いてないなって・・』 「あ〜!そうでした!失礼しました!」 『ふふふ・・』 「シズルです!シズル。ごめんなさい」 『シズルさん・・・いいお名前』 「あ、ありがとうございます」 『奥飛騨温泉郷に住んでいるんですか?』 「はい、そうなんです。 ここ、福地に住んでます」 『福地温泉って確か、日本最古の化石が発見されたんでしたっけ?』 「よくご存知ですね」 「なに

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