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ヒダテン!ボイスドラマ

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Categories
Country
United States
This podcast has
137 episodes
Language
Japanese
Date created
2025/01/17
Latest episode
2026/02/06
Average duration
20 min.
Release period
7 days

Description

飛騨高山を舞台にした珠玉のボイスドラマをお届けします。コミュニティFM Hit's FM(Hida Takayama Tele FM) で放送中の人気ラジオ番組! ヒダテン!のCV声優10名 が入れ替わりパーソナリティを務める「Hit’s Me Up!(ヒッツ・ミー・アップ!)」の中で放送されているボイスドラマです!ボイスドラマを通じて飛騨高山の魅力に触れてみてください! <番組の特徴> ・ 飛騨高山を舞台にしたボイスドラマを多数制作! これまでに100本以上の作品を発表し、地元の魅力を物語として発信 ・ 放送情報   放送局1: Hit's FM(Hida Takayama Tele FM)   放送時間:毎週金曜10:30-11:00/毎週土曜13:30-14:00   放送局2: FMらら(FMラインウェーブ株式会社)   放送時間:毎週金曜13:00-13:30   配信:Spotify、apple(iTune)ミュージック、amazonミュージック、YouTubeミュージック、CastboxなどのPodcastで番組とリンクして配信中! 飛騨高山の美しい風景とアニメ文化をつなぐ、唯一無二のラジオ番組! 「Hit’s Me Up!」を聴けば、新たなエンタメの扉が開きます!

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ボイスドラマ「かぐらがももで・・」
2026/02/06
声を交換したら、人生が入れ替わった!? 『かぐらがももで・・』『ももがかぐらに・・』は、一之宮かぐらCV・小椋美織と国府ももCV・高松志帆の“声”そのものをテーマにした不思議で切ない物語。お互いの声を羨ましがった二人の声優が、飛騨一宮水無神社で願ったことで起こる奇跡と混乱。それぞれの現場で成功を掴みながらも、本当に大切な「自分の声」と向き合う姿を描きます・・・ 【ペルソナ】 ・月愛(かぐら/CV:小椋美織)=ヒダテン!一之宮かぐらのCV。一之宮町出身東京暮らし ・萌々(もも/CV:高松志帆)=ヒダテン!国府もものCV。国府町出身東京暮らし ・音響監督他(CV:日比野正裕)=萌々、月愛それぞれの現場の監督&ヒダテン!のプロデューサー [プロローグ:2026年正月】※ここはすべて収録・編集済 ■SE/番組タイトル〜HitsMeUp放送より切り抜き(以下音声) https://hidaten.com/wp-content/uploads/2026/01/kagura-momo_hitsmeup.mp3 ヒダテン!の国府ももです。 一之宮かぐらです。私のイメージはどんな感じでしょうか? イメージ? お声を聴いてからは、本当にももちゃんにぴったり。  もうなんか私もこんな可愛い声出したい! 嬉しいです。ありがとうございます。 どうしよう、私何言われる?いやいやいや、私本当にお声が好きで。 芯があるけど柔らかいみたいなお声。 本当にそれこそかぐらにもぴったりだなって思ったし、 私はそういう声してないので、逆にないものねだりじゃないんですけど、 なんかすごく素敵なきれいなお声だなって思って。 もう個人的にめっちゃ好きなトーンなんですよ。 えー、そうなんですか? 嬉しい ありがとうございます。 ちょっと一日だけ声の交換みたいなのしたいですね。 できることならしたいです。  できることなら。 【シーン1-1:JR高山駅〜JR飛騨一ノ宮駅〜飛騨一宮水無神社】 ◾️SE:高山駅の雑踏〜飛騨一ノ宮駅の構内〜飛騨一宮水無神社の静寂 月愛:「きちゃったね」 萌々:「きちゃった」 2人:「高山〜!!弾丸日帰り旅行!」 月愛:「からの飛騨一ノ宮駅」 萌々:「からの飛騨一宮水無神社〜!」 月愛: お正月の特番から1か月後。 私と萌々は、水無神社の拝殿前に立っていた。 私・月愛と萌々は声優。 飛騨高山を彩る擬人化キャラクターたちに命を吹き込んでいる。 私が演じるのは、舞姫キャラ、”一之宮かぐら”。 私の中低音域がクールビューティなキャラに重なっていく。 萌々が演じるのは、飛騨桃の妖精、”国府もも”。 極上のスイーツのような甘い微笑み。 聴く人はみな、胸をキュンとさせる。 実は私たちは、特番の収録で初顔合わせ。 なのに、なぜかお互いの声に惹かれてしまった。 自分にないものを欲しがる子どものように。 ももの声に焦がれるかぐらと、かぐらの声に憧れるもも。 飛騨の一之宮とはいえ、 なんという不条理なお願い。 御歳大神さま、ごめんなさい! それでも、表現の幅をもっと増やしたい。 どんなキャラクターでも、生き生きと演じたい。 切なる思いに導かれて、私たちは水無神社の鳥居をくぐった。 拝殿前に並んで立つ一之宮かぐらと国府もも。 短い祓詞(はらえことば)を唱えてから、 二拝二拍手一拝。 萌々が持っている、 ”鈴の音のような透明感ある声”。 それを私にも! 萌々: 月愛のような ”クールで凛としたハスキーボイス”。 私にもほしい! 月愛: 「お祈りした?」 萌々: 「した」 月愛: 「なんか、私たちって、すごいこと祈願してない?」 萌々: 「だよねー、こんなことお願いするひと、いないよねー」 月愛: 「でも朝起きたら、お互いの声が出せるようになってたりして」 萌々: 「ないない。 そんなんあったら、アタシ、オーディション受けまくるわ〜」 月愛: 「確かに。 あ、明日、アニメのアフレコじゃなかった?」 萌々: 「そうそう。 スパイアニメのCVオーディションよ。 まだ役は決まってないみたいだけど」 月愛: 「あの話題の?」 萌々: 「まあねー。 でも、スパイアクションなんて、私の声でいいのかなあ?」 月愛: 「いいんじゃない。 萌々みたいな声のアサシンとか、ギャップ萌えで」 萌々: 「そうかなあ。 月愛も明日アフレコの仕事でしょ?」 月愛: 「ボイスドラマよ。 ラブストーリーって言ってたけど、今回はモブだって」 萌々: 「え〜、月愛がモブなんて、超もったいない起用〜」 月愛: 「なことないってば。 ま、とにかくお互いがんばろ」 萌々: 「うん、ファイティン!」 月愛: 私たちは、冬の臥龍桜の前で写真を撮ってから、 鈍行列車で高山へ。 駅前でお土産屋さんを覗きながら、帰りの特急ひだに乗り込んだ。 【シーン2-1:月愛の朝/目覚めたらヒロインボイス】 ◾️SE:朝の小鳥のさえずり 月愛:「ふわぁぁ・・・よく寝たわ〜 よしっ! 今日も一日、頑張るぞっ!」 月愛:「って、え?」 月愛: なに?いまの? 私の口から出た音・・・ いつものハスキーなクールビューティじゃない! 寝起きは特にロートーンなのに。 コロコロところがるような、搾りたての桃の果汁のような・・・ どこかで聴いたことのある・・・ この声は・・・ 月愛:「国府もも〜!?」 あわてて鏡を見る。 よかった私だ。月愛。 ってことは・・・ 月愛:「声だけ入れ替わってる〜!?」(※ここは2人で) なんでなんでなんでなんでなんで〜!? こんなアニメみたいなこと・・ いや、アニメでもないわ。 声だけなんて・・おかしいでしょ? どうしようどうしようどうしよう? 萌々に連絡してみないと・・ まさかあっちも・・? あ、そうだ。 確か今日はオーディションって言ってたから邪魔しちゃ悪いわ。 ってか私も、今日は・・・ボイスドラマじゃん。 ま、でもいいか。 モブだし。 なんとか乗り切れるでしょ。 【シーン3-1:月愛のアフレコ現場/モブからの大抜擢】 ◾️SE:スタジオのガヤ/月愛は低い声を出そうと何度も発声練習する 月愛:「あ、あ、あ・・・おはようございます・・」 聴こえないくらい小さな声で挨拶したつもりだったけど、 監督:「あれ?どうしたの、月愛ちゃん?」 月愛:「あ、監督・・」 監督:「それ、新しいキャラ?」 月愛:「え?あ・・はい・・そ、そうです。 ヘンですか?やっぱり・・」 監督:「いや、その逆。 その声、すっごくいいじゃん! 今日のボイスドラマだけどさ、 メインキャラの一人がまだ決まってないんだよねー」 月愛:「へ?」 監督:「試しにリハであててみてくんない?」 月愛: という感じで、メインキャラのエルフに大抜擢。 ヒロインボイスでレギュラーゲットしちゃった。 こんなことってある? 【シーン4-1:ヒダテン!のアフレコ現場/2人の現場(月愛)】 月愛:「臥龍の桜が舞う季節、わらわの舞も見せようぞ!」 月愛: だめだ。 誰がどう聴いてもかぐらじゃない。 ◾️SE:LINEの着信音 途方に暮れて、萌々に現状をLINEしようとしたとき、 萌々からもほぼ同時にチャットが入った。 ◾️SE:LINEを開く音 ああ。やっぱり、私たち・・ 月愛:「声だけ入れ替わってる〜!!」(※ここは2人で) そんな悠長なことは言ってられない。 明日はヒダテン!アニメepisode-1の収録。 私が一之宮かぐら役、萌々が国府もも役でアフレコする。 さあ、どうする? こういうときは一人で考えるより、当事者の2人で考えた方が 良い知恵が浮かぶかもしれない。 ◾️SE:スタジオのガヤ 月愛:「おはようございます〜」(※ここは2人で) 私たちは待ち合わせて、2人でスタジオへ入った。 かなり大きめのマスクをして。 私はなるべく萌々にくっついて声を出す。 まるで腹話術のように。 萌々:「あのう・・・Dにお願いがあるんですけど〜」 監督:「なに?」 萌々:「今日はあっち向いて喋ってもいいですか〜?」 監督:「あっちって?背中向いて話すってこと?」 萌々:「はい。しっかり役作りしたいので〜」 月愛:「自分の世界へ入りたいんです」 監督:「ふうん」 萌々:「オペレータさんにはマイク位置、お願いしました」 月愛:「モニターの位置も向こう側に変えてもらってます」 萌々:「ももとかぐらのシーンだけ先に録らせてもらうことにしました」 監督:「ま、いいけど。 なんで今日は2人、そんなにくっついてんの?」 月愛:「え?」(※こ
ボイスドラマ「小さな櫻守」
2026/01/30
御母衣ダム建設によって湖底に沈む荘川村中野地区。その歴史の只中で、一本の桜とひとりの少女が交わした、静かな約束。 『小さな櫻守』は、荘川桜の精・さくらと、村で生まれ育った少女・咲良の交流を描いたボイスドラマです。別れ、移植、そして10年後の再会。失われたふるさとは、人の記憶の中で生き続けることを、やさしく語りかけます・・・ 【ペルソナ】※モノローグはさくら ・さくら(500歳/CV:岩波あこ)=荘川桜の精。移設直前の春、咲良と出会う ・咲良(さくら:6歳/CV:岩波あこ)=荘川村中中野地区に住む少女。澪桜の娘。 ・リョウ(CV:岩波あこ)=御母衣ダム開発の責任者。荘川桜移植に奔走する ・祖父(咲良の母の父)=名古屋へ引っ越した咲良母娘とは別に荘川の新淵(あらぶち)に残った 【荘川桜物語/JPOWER電源開発】 https://www.jpower.co.jp/sakura/story/ 【プロローグ:昭和29年4月/光輪寺】 ■SE/小鳥のさえずり〜赤ちゃんの笑い声 「まあ、可愛い」 私は思わず口を開く。 その声は、桜吹雪となって、幹に寄り添う母娘の頬を撫でていった。 1954年4月。 荘川村中野の光輪寺。 薄紅色が舞い踊る、満開の桜。 赤子は、まるで開花に合わせるように、桜の季節に生まれた。 母の腕に抱かれた、瑞々しい命の蕾。 私が落とした花びらが小さなほっぺに貼りついていた。 私は、光輪寺のエドヒガン桜。 樹齢は500年・・・ って、いやあね、女性に歳を言わせるもんじゃないわ。 ■SE/赤ちゃんの笑い声 その娘(こ)の笑顔は、春の陽だまりのように 私の心の奥に居ついてしまった。 【シーン1:昭和34年秋/光輪寺】 ■SE/小鳥のさえずり〜人々のざわめき それからというもの 母娘は、何かあるたびに、私の元へやってきた。 お宮参り。 節句。 七五三。 入園式。 言葉が話せるようになってわかったんだけど、少女の名前は咲良。 そう。私と同じ名前。 ”咲けば、すべて良し” と、漢字で書く。 ■SE/虫の声 1959年11月。 5歳になった咲良は、一人で私の根元にしゃがんでいる。 母親は、光輪寺の本堂で住職と話していた。 私はいつものように咲良に話しかける。 「どうしたの?小さな櫻守さん」 「ねえさま。 この村が水の底に沈むってほんとけ?」 「へえ、そうなんだ・・ 誰が言ってたの?」 「あたしのかあさま。 昨日、反対同盟ってのがなくなって、決まったんだって。 かあさま、まいにち寄り合いに行ってたの」 「まあ。 おつかれさま」 「ねえさまは悲しくないの?」 「う〜ん。 私はいままでずう〜っとこの村を見守ってきたから・・」 「だってねえさまも沈んじゃうんだよ。 水の底は息ができないんだよ。 苦しいんだよ」 「そうねえ。 でもきっと、それって荘川にとっていいことなんでしょ」 「あたしとも会えなくなっちゃうじゃない」 「咲良と離れるのは寂しいけど。 村の人がそれで幸せになれるなら構わないわ」 「いやだよう。 ねえさまがいなくなったら・・ あたし・・あたし・・どうすればいいの?」 「咲良は、いくつになったんだっけ?」 「5歳。 来年桜が咲いたら6歳だよ」 「そうかぁ。 六つになれば、もうお姉さんだ」 「まだお姉さんじゃないもん」 「咲良はそれでどうするの?」 「あたしは・・・ かあさまは引っ越すって言ってるけど あたしはいや」 「ねえ、咲良。聞いてくれる?」 「うん」 「咲良の人生はまだ始まったばかりなの。 かけっこで言ったら、 ようい、どん。って言い終わったばかりよ」 「うん・・」 「これから先、い〜っぱい、楽しいことが待ってる。 絶対にね。 今日みたいに、ちょっぴり悲しいことがあっても 幸せがそれを塗り替えちゃうから」 「わかんないよ、そんなの」 咲良は私の腕の中に顔を埋める。 溢れ落ちる涙は、夕日に照らされて琥珀色に輝いていた。 【シーン2:昭和35年春/光輪寺】 ■SE/小鳥のさえずり〜人々のざわめき 「さようなら・・・」 1960年4月。 6歳の咲良が、私の根元にしゃがみこんで声をかけてきた。 境内は、最後のお花見を楽しむ村人たちで賑わっている。 かつてないほど見事に咲き誇る桜。 命を燃やすような狂おしい薄紅色に輝く。 花を見上げる村人たちは、誰もが無口だった。 本当はみんなもっとはしゃいで、陽気な風景のはずだったのに。 消え入りそうな声で「荘川節」を口ずさむ老人。 カメラを借りてきて、記念撮影をする若者たち。 黙って手をつなぐ老夫婦。 覚えてる。 彼ら、確かここで祝言を挙げたんだよね。 あのときも同じポーズで写真を撮ってた。 「ねえさま、さようなら・・・」 私は、500年間の風景を思い出しながら 優しく咲良に声をかける。 「どうしたの?咲良」 「明日、お引越しになったの」 「あら、そう。 どこへ引っ越すの?」 「名古屋、っていうところ」 「ふうん。 そこにも桜が咲くといいわねえ。 今日はお母様は?」 「かあさまは、準備で忙しいから、ひとりできたの」 「えらいわねえ」 「名古屋って、すっごく遠いんだって。 ここからバスで6時間もかかるの」 「まあ、大変ね。 気をつけて行くのよ」 「ねえさま。 もうねえさまに会えないかもしれないんだってば」 「大丈夫よ。 私たち、心でつながっているもの。 名古屋でも、桜が咲いたら思い出してね」 「いやだ。 行きたくない・・」 「いいの。 私は大丈夫だから」 「ねえさまは、寂しくないの?」 「咲良や村の人たちと会えなくなるのは寂しいわ。 でもね、みんなが元気でいてくれれば、全然悲しくなんてない」 「あたしは・・・」 「そうそう、咲良。 面白いお話、してあげる。去年の解散式のあとにね、リョウっていう男の人が訪ねてきたの」 「リョウ・・」 「彼も私を助けたい、って。 いまもいろんなところへ走り回ってるみたいよ。 おかしいでしょ?」 「あたし・・ずっとねえさまといたい。 荘川にいたい」 「咲良。 今までありがとう。 最後に私のそばにいてくれたのが、あなたでよかったわ。 元気でね、 ちっちゃなちっちゃな櫻守さん」 やがて、いつまでも帰らない娘を心配して、咲良の母がやってきた。 泣き疲れた咲良は、私に抱かれて眠っている。 母親は、優しく咲良を抱き抱えると、 私に向かって、深く頭を下げ、帰っていった。 散り急ぐ花びらは、村人たちの肩や頭に容赦なく降り注ぐ。 それはまるで”忘れないで”と囁いているように。 ”もう十分だよ”、”ありがとう”と優しく諭すように。 最後の桜は美しく、でも残酷なまで静かに、村の終焉を彩っていた。 【シーン3:昭和35年12月/荘川桜】 ■SE/小鳥のさえずり〜人々のざわめき 「さくら・・・」 1960年12月24日。 誰かの声に導かれるように・・・ 私は長い眠りから目覚めた。 夢の中には、 青い水底でゆっくりと枝をゆらめかせる老木・・ でもいま、 目の前には、今まで見たこともない、大きな湖が広がっていた。 ここは・・どこ? 遠くで、誰かが和歌を詠んでいる。 『ふるさとは 湖底(みなそこ)となりつ 移し来し この老桜(ろうおう) 咲け/とこしへに』 「そんな綺麗事を言ったってな、見てくれろ、この無惨な姿を。 手足をもがれ、包帯で巻かれた姿は見るに忍びない。 わざわざこんな山まで連れ出す必要があったんかいの。 こんなもの、救済じゃなく、酷い仕打ちじゃろうが」 あれは・・・ 確か・・咲良のおじいちゃん。 そうか。 荘川に・・・ 新淵(あらぶち)か、町屋(まちや)か、野々俣(ののまた)に・・・残ったのね。 よかった・・・無事で・・ 私は、届かない声で、おじいちゃんやほかの村人に向かって叫ぶ。 「悲しまないで。 私はここよ。 ちゃんと生きてる。 ほら、聞こえるでしょ」 枝や根を伐採されて、幹まで伐られた老木の姿。 きっと見るもむごたらしい姿に映ったことだろう。 それでも、命の鼓動は確実に脈動していた。 荘川の冬はどこより厳しくて美しい。 雪混じりの風が、包帯のように巻きついた荒縄を凍らせていった。 【エピローグ:昭和45年4月/荘川桜公園】 ■SE/小鳥のさえずり〜人々のざわめき 「ねえさま!おかえりなさい!」 1970年4月。 懐かしい声が、幹の中まで響きわたった。 「さ、咲良?」 咲良は昔のように、私に抱きついてくる。 「よかったぁ!帰ってきてくれたのね!」 移植から10年。 荘川桜が開花。 村人たちが待ちに待った花を咲かせた。 花びらは、生まれて初め
ボイスドラマ「nobody前編〜パンデミックブルー」
2026/01/23
高山市図書館「煥章館」の地下に存在する、極秘AIラボ〈TACEL〉。そこで開発された肉体を持たないAIヒューマノイド〈nobody〉が、ある日、静かに“脱走”した。 スマートフォンの光、幸福な記憶、そして母の想い。AIは人に感染し、町に広がり、やがて一人の少年の身体へと辿り着く――。 「失ったはずのものが、別の形で帰ってくる」飛騨高山発・SFヒューマンドラマです・・・ ・美夜(みや/一之宮出身:35歳/CV:小椋美織)=TACELで働くAI開発者 ・泉静(いずみ/奥飛騨温泉郷・上宝出身:34歳/CV:日比野正裕)=美夜の共同開発者 ・nobody/海斗(かいと:8歳/CV:坂田月菜)=美夜の息子。交通事故で早逝 ・服部和子(はっとりかずこ)=HitsFM人気ナビゲーター ・高山市長(日比野正裕)=現役の高山市長 【プロローグ/煥章館地下15階(警報が鳴り響く秘密AIラボTACEL)】   ◾️SE/警報とともに鳴り響く「CRITICAL LEAK!」(意味:「致命的な漏洩」)の音声 ※美夜はAIの脱走にもかかわらずなぜか落ち着いている 「えっ!?AIヒューマノイドが脱走!?」 私は慌ててシールドのロックを確認した。 私の名は、美夜。 たったいま脱走したAIヒューマノイドを開発したシステムエンジニアである。 ここは、高山市図書館「煥章館(かんしょうかん)」。 観光エリアのど真ん中。 地域文化の情報発信拠点であるとともに、高山市図書館の本館。 旧高山市役所の跡地に復元された、フランス風木造建築。 その地下15階に、高山市民でさえ知らない秘密の施設がある。 今年元旦から稼働した、最先端AIラボ。 (※流暢に読む/タカヤマ・エーアイ・サイバー・エレクトロニック・ラボ) Takayama AI Cyber Electronic Labo=略してTACEL。 TACELは、最先端のAIテクノロジーを研究・開発するラボ。 政府のどの省庁にも属さず、独立した研究機関。 そんな施設がなぜ高山に? ちょっと考えればわかるでしょ。 高山は、周囲を山々に囲まれた盆地。 ということは、 電磁波の漏洩が外部に検知されにくい。 物理的な攻撃や偵察衛星からの監視に対しても、 自然の地形が強力なシールドとなる。 地下15階は、高山市内の地下水脈に近い。 地磁気も安定している。 明治時代、飛騨びとたちは、国に頼らず、 自分たちだけで「煥章学校」を建てた。 自信に満ちた歴史があるのよ。 教育独立の伝統ってわけ。 だけじゃないわ。 江戸時代、高山は幕府直轄の「天領」だったでしょ。 公には記録されなかった「将軍家直属の機密ネットワーク」。 それは明治になって、からくり人形の技術と融合。 初期の電子回路を搭載したオートマタの研究施設へと転換したの。 よくあるAIヒューマノイドの原点ね。 だーかーら、いまも国はその聖域に手出しができないのよ。 もちろん、TACELの責任者は、田中 あきら高山市長よ。   ◾️SE/警報とともに鳴り響く「CRITICAL LEAK!」の声 で、冒頭に戻るんだけど、 10年以上かかって私が開発した、AIヒューマノイドが脱走した。 開発名は「nobody」。 これで3度目か。 また、お靴を履かずに表へ出たのね。 でも・・・ 一体どうやってTACELの檻から出られたの? あの強固なセキュリティシールドを破って・・・ 「煥章館」は地下1階から地下15階まで5つのセクションに分かれている。 どんなハッカーだって突破することなんてできないはず。 仕方ない。 インスタンスをシャットダウンするか。   ◾️SE/Cloudの電源を切ろうとする音 え?   ◾️SE/AI音声「Command Not Accepted」 画面に表示されたのは、 命令・・拒否? 「だめよ!nobody!眠りなさい!」 ◾️SE/AI音声「外部分散ネットワークへ転送されました」 「そんな!うそ!」 不安な気持ちが私を襲い始める・・・ ◾️SE/扉を荒々しく開く音 「美夜!どうしたんだ?nobodyが」 共同開発者の泉静(いずみ)が制御室へ駆け込んできた。 「サーバーにログインできないんだ!」 「ちょっと黙って!いまやってる!」 「市長に報告しないと・・・」 ◾️SE/鳴り響いていたアラート音が止まる ◾️SE/AI音声「全プロセスの転送が完了しました」 「うそ・・」 「ここにはもう何も残っていないってことか」 どうして・・・? どこへ行ってしまったの・・・? AIヒューマノイド、nobody。 それは肉体を持たない、AIヒューマノイドの電子頭脳。 中身はコードの羅列だけなのに、私にはひどく恐ろしい存在のように見えた。 【シーン2/HitsFM ニュース】※宮ノ下さん ◾️BGM/ニュースLiner 「続いて、 高山市から、市民の皆さまへ体調に関する注意喚起が出されています。 現在、市内の一部地域で確認されている意識変調の症状について、 市は専門医の見解を発表しました。 医師によりますと、これはウイルスによる感染症ではなく、 スマートフォンなどのデジタルデバイスを長時間注視することによって引き起こされる、 特殊な視覚および神経系の障害である可能性が高いということです。 発熱や咳などの一般的な感染症の症状は見られない一方で、 ・頭がぼうっとする ・集中力が続かない ・過去の出来事を突然、強く思い出す といった、一時的な記憶や意識の変化を感じるケースが報告されています。 原因としては、特定の光の刺激が脳の記憶を司る部分に干渉し、 一時的な混乱を招いていると見られています。 市は、スマートフォンやパソコンなどの画面を見る時間を減らすなど、 物理的な対策を呼びかけています。 【シーン2/HitsFM パーソナリティトーク】※服部和子さん   ◾️BGM/番組TM〜 ※服部さんと市長は自分の言葉に変えてください 服部「HitsSmileWeekday! ナビゲーターの服部和子です! 『知っとこ!高山』の時間ですが、今日は特別ゲスト! 高山市長に来ていただきました! 市長、よろしくお願いします!」 市長「はい、よろしくお願いしまーす!」 服部「市長、先ほどニュースでも言ってましたが、 体調に関する注意喚起って・・ あれ、どういうことなんですか? 過去の出来事を突然、強く思い出す・・って なんか怖いんですけど」 市長「ですよね。じゃあ昨日報告を受けたばかりなんですが、説明しましょう」 服部「お願いします」 市長「人間の脳っていうのはね、高性能なコンピューターのようなものなんです。 スマホの画面から流れてくる『ある種の光の信号』をずっと見ていると、 そのコンピューターがちょっとだけ勘違いをしてしまうんです」 服部「勘違い?」 市長「脳の中には『今の思い出』を置く場所と、 『昔の思い出』をしまっておく引き出しがありますよね。 光の刺激を受けると、引き出しが勝手に全部開いてしまうんです。 その中の一番幸福感のある場所に行って、 帰ってこれなくなっちゃうんですね」 服部「えええええ!私たち高山市民はどうしたらいいんですか?」 市長「まずは予防です。 スマホの画面を15分以上見続けないこと」 服部「え〜。それムズいかも。 TVアニメだって、1話25分ありますよ」 市長「途中でCMになったら、いったん他のものを見る」 服部「はあ・・・ じゃあ、もし罹ってしまったら?どうすればいいですか?」 市長「そうですねえ・・ 目を閉じて、いま一番嫌なことを思い浮かべてください」 服部「へ?」 市長「仕事のこととか、学校の授業とか」 服部「あきら市長って、仕事が嫌なんですか?」 市長「とんでもない!そんなことはありませんよ!」 服部「あ、すみません」 市長「とにかく! 『嫌な現実』を強く意識すること。 脳を今の世界に繋ぎ止めるんです。 そうすれば、霧は晴れますから」 服部「あ、ありがとうございます。 比喩的な表現が多くて、わかったようなわからないような気分ですけど」 市長「HitsFMを聴いているみなさん!注意してくださいね! 高山の美しい景色は、スマホの中ではなく、目の前に広がっているんですから」 服部「市長、今日はお忙しい中ありがとうございました。 みなさんも、体調の変化にはくれぐれも気をつけて過ごしてください。 以上、『知っとこ!高山』でした!」 ※続きは音声でお楽しみください。
ボイスドラマ「汀にて〜飛騨の方舟」
2026/01/16
西暦2500年。沈みゆく日本で唯一残った「飛騨JI」を舞台に、6歳の少女・汀とMAMAが紡ぐ、切なくも希望に満ちた物語。 海に棲む熊「ミカゲ」、暴走するエネルギー塔、そして明かされる“人類最後の血統”の秘密──これは、未来へ託された“方舟”の物語。 【ペルソナ】 ・汀(なぎさ:6歳/CV:坂田月菜)=飛騨JIの久々野エリアで生まれた純粋な飛騨人の血統保持者 ・MAMA(ママ/CV:小椋美織)=300年前に製造され代々汀の家族に仕えるAIヒューマノイド 【シーン1/久々野の入江にて】   ◾️SE/さざ波の音 「ママ!見て!きれいな貝殻!」 「ナギサ。それは貝殻じゃないわ。 昔の人が使ってた『DVD』っていう遺物」 「アタシの首の痣、 海で洗ったらとれるかなあ」 「どうかな。 痣ってあまりさわっちゃだめなのよ」 「ふうん」 「沖の方まで行かないでね。ミカゲが来るから」 「はあい」 そう答えた次の瞬間。   ◾️SE/大きな波が砕ける音「ザッパ〜ン!」 ◾️SE/くぐもったクマのような咆哮 「きゃあ〜っ!」 「ナギサ!危ない!」 「ミカゲだぁ!」 「早く、私の後ろへ! ミカゲ、少し痛い思いしてもらうわよ」 ママはそう言って、ミカゲの体当たりを両手で受け止める。 黒光りする体躯をぎゅっと抱えて投げ飛ばした。   ◾️SE/クマの悲鳴 手負いのミカゲはあっという間に、波の彼方へ消えていった。 「ありがとう、ママ」 「もっと気をつけなきゃだめよ」 「うん、わかった。 でも、どうしてミカゲを逃しちゃうの?」 「ああ見えて、貴重な保護動物だからね」 【俯瞰モノローグ】 そう言ってママは苦笑いする。 ミカゲ(海熊)とは、水陸両生のツキノワグマ。 手足がヒレ状に進化して、ここ久々野の入江を泳いでいる。 今は西暦2,500年。 地球温暖化の影響で、日本列島は、国土の半分以上が海没。 沈まずに残ったのは、4つの島=ジャパンアイランド=JI(ジェイアイ)だった。 大雪山を中心に、小さな島が点在する「北海道JI(ジェイアイ)」。 細長い奥羽山脈が南北に残る「東北JI」。 阿蘇山や四国の山地が残る「九州・四国JI」. そして・・・ 北アルプス、中央アルプス、南アルプスを要する「飛騨JI」! 今や日本の首都である! ここ久々野は、飛騨JIの南の端にある要所。 かつての飛騨川に沿って広がる、フィヨルドの町。 跡地が残る久々野駅の周辺は、断崖に囲まれた美しい港。 巡回する帆船や飛行艇が、下呂方面からやってくる。 みんなが最初に立ち寄る「飛騨の正門」。 【独白モノローグ】 で、遅くなったけど、アタシの名前は汀(なぎさ)。6歳。 港町・久々野で生まれ、久々野で育った久々野っ子よ。 いつもママと一緒に浜辺に来て、昔の『遺物』を拾ってるんだ。 さっきの虹色に光る円盤とか・・・ママは『DVD』って言ってたっけ・・ あと、透明でキレイな容れ物とか・・・ 確か・・・ペットボトル、って言うんでしょ。海岸はね、宝の山なんだよ。 アタシにとって。 「さ、汀、そろそろ帰りましょ」 「うん! ママ、夕ご飯はなぁに?」 「今日はハンバーグの日よ」 「やったぁ!」 「汀はもっと動物性タンパク質をとらなきゃ」 「またコオロギ見つけたんだ?」 「そうよ。 いまは冬でも昆虫が活動してるから」 「へえ〜。 ねえママ。今度アタシにもハンバーグの作り方教えて」 「いいわ。そろそろお料理も覚えた方がいいでしょ」 「はい!」 「ハンバーグの材料は汀も知ってるように昆虫よ。 コオロギに蜂の子も混ぜて、アミノ酸を抽出。 それを3Dプリンタでハンバーグに成形するのよ」 「おもしろそう!」 【独白モノローグ】 ママとお話しながら歩いていると、いつも時間を忘れちゃう。 今日もあっという間にお家に着いちゃった。 【シーン2/MAMAと汀の家】   ◾️SE/虫の声 【俯瞰モノローグ】 MAMAとアタシの家は、海岸から東の丘を上っていったところ。 『堂之上遺跡』の横にある『バイオウッド建築』。 周りに自生するブナの木と一体化している。 傷ついても自己修復する壁。潮風を吸って淡く発光するナノアンテナの蔦。 ママとの二人暮らしには広すぎるくらいの室内。 昔は『久々野中学校』っていう学び舎だったらしい。 「はい、デザート」 「飛騨林檎だ!」 「今朝収穫した採れたてよ」 「ハンバーグに林檎って!すごいごちそう!」 「さあ、食べて」 「いっただきます!(※一口食べて) う〜ん!甘〜い!おいしい!」 「飛騨林檎も飛騨桃も、500年前の倍以上甘くなってるのよ」 「どうして?」 「RCP 8.5で、気温が10度も高くなったから」 「RCP 8.5って?」 「500年前に発表された、地球温暖化最悪のシナリオ」 「ふうん」 「久々野って、昼間は暑いけど、夜は冷えるでしょ」 「うん」 「寒暖差は500年前の倍」 「そうなんだぁ」 「それに加えて、林檎は、バイオラボでAI管理もしているから」 「バイオラボ?」 「そう。昔は林檎を加工してた選果場の跡地。 そこに建てられたナノバリア完備のバイオ施設よ」 「だからこんなに甘いんだぁ」 「汀一人じゃ食べきれないほどあるから、いっぱい食べて大きくなりなさい」 「はぁい!・・でも・・ママは?」 「ママはあとからいただくわ」 「わかった」 【独白モノローグ】 ママのお話はいつも面白い。 ・・だけじゃなくて、とってもためになる。 アタシも将来はバイオラボで働くんだ。ママは一生懸命、身体をナノ繊維のタオルで拭いている。 海でミカゲと戦ったとき、いっぱい濡れちゃったからなあ。 ごめんなさい、ママ。 【俯瞰モノローグ】 こんな贅沢ができるのは、日本でも飛騨JIだけ。 その中でも久々野は特別な場所。 近くに宮川と飛騨川の『分水嶺』があるから。 水の管理がこの時代の覇権を握る。 宮峠にある『水門=ゲート』。 久々野から一之宮へ抜ける宮峠は、北と南の水を分ける聖地。 見上げれば、巨大な『エネルギー抽出塔』がそびえる。 水流のわずかな差から電力を生み出し、 飛騨JI全域のAIへワイヤレス給電を行う。 AIヒューマノイド、バイオウッド建築、バイオ・ラボ。 そのすべての『心臓』がここにあるということ。 『エネルギー抽出塔』が飛騨JIの文明を支えている。 【シーン3/台風の夜】   ◾️SE/すさまじい暴風雨の音 「ママこわい!台風きらい!」 「本州に上陸するまでは勢力が弱まってたのに・・ 勢力を維持したまま、飛騨JIの山脈へ激突するつもりね」 「おうち大丈夫?」 「大丈夫よ。 バイオウッドが支えてくれるから心配ない」   ◾️SE/風で家がバキバキいう音 「きゃあ〜!」 「暴風域に入ったわね。 それにしても、こんな時期に台風なんて・・」   ◾️SE/落雷の音 「いやあ〜!!」 「落雷!? あっちの方角は・・・まさか!?」   ◾️SE/扉を開けて外へ出る音 「ママ!!どこ行くの!?」 「汀!絶対に外へ出ちゃだめよ。中で待ってて」 「ママ!」   ◾️SE/扉を強く閉める音 「ああ!やっぱり・・・ エネルギー抽出塔に落雷したんだわ! このままだと・・・」 「ママ!」 「汀!出てきちゃだめだってば!」   【俯瞰モノローグ】 宮峠の「エネルギー抽出塔」が落雷により暴走した。 凄まじい電磁嵐が発生。 空は青白く発光して、雷が次々と地面に突き刺さっていく。 強烈な磁場により、あらゆる電子機器の回路が焼き切れる。 金属同士が火花を散らす。 周りの空気は急激に加熱して膨張する。 衝撃波が発生し、プラズマの火球が襲ってきた。   ◾️SE/空気を切り裂くようなプラズマの爆鳴音 「汀!あぶない!!」 「ママ!!」   【俯瞰モノローグ】 ママは私を庇って、巨大な火球の中へ飛び込んだ。 凄まじい光と熱が、ママの周りを包んでいく。 と同時に山の方から大きな地鳴りのような音が近づいてくる。 「汀!時間がないからよく聞きなさい」 ママは山の方からアタシへ振り返って声をあげる。 「あの音・・・ もうすぐここに土石流がやってくるわ。 ママはもう動けないから・・ その前に・・」 ママの背中に垂れ下がった基盤が燃えている。皮膚の下には、青白く光るナノマシン・エッセンスが見えていた。 「あなたは人類の最後の希望」 「え?なに?わかんないよ!」 「飛騨JIの久々野エリアで生まれた、純粋な『血統保持者』。 いまじゃ、たった一人の人類なのよ」 「え!?」 「汀の首に、縄文紋様の痣があるでしょ」 「痣・・・
ボイスドラマ「桃李不言〜夢見る花びら」
2026/01/09
飛騨国府の桃畑を舞台に、語らない想いと、待ち続ける時間を描いたボイスドラマです。 桃の精・ももは多くを語りません。けれど、その存在は確かにショウタの人生を導き、土地と共に生きる覚悟を育てていきます。 農業のリアルな営みと、人の心の揺らぎ、選ばなかった未来への想い。 それらすべてが、「桃李不言、下自成蹊」という言葉に静かに収束していく・・ そんな余韻の残る一作です。 ぜひ、音で、言葉で、この物語の時間を味わってみてください。 【ペルソナ】 ・ショウタ(27歳/CV:高松志帆)=大学を卒業して国府の父の実家=桃農園で働いている ・もも(年齢不詳/CV:高松志帆)=飛騨桃の精霊。飛騨桃の花が咲くのと同時に姿を表す ・杏=あん(27/CV:小椋美織)=ショウタの同級生。ある日突然ショウタの農園を訪れる ・祖母(76/CV:山﨑るい)=ショウタの祖母。ショウタが来る前年の夏にももと過ごした ・祖父(78/CV:日比野正裕)=ショウタの祖父。ももと過ごした日々が忘れられない 【資料/国府町の紹介】 ⁠https://www.hidatakayama.or.jp/hidakokufu/index.html⁠ 【資料/桃李不言下自成蹊】 ⁠http://www.gyokusenzi.com/osie/touri/01.htm⁠ [プロローグ:冬の宇津江四十八滝】 ◾️SE:小さく聞こえる冬の小鳥(ジョウビタキなど) ◾️BGM:雪のイメージ(Ripple Positive Meditation) 「もも、聞こえるかい?ショウタだよ。 戻ってきたんだ、国府に」 ももの元を去ってから半年。僕は約束通り、大学を卒業して国府へ帰ってきた。 祖父母の農園へ行くよりも先に、最後にももと別れた宇津江四十八滝へ。 キャンプ場は雪に閉ざされ、人影もない。 ももがいた果樹園にも雪が降り積もっている。 すべての葉を落とした桃の木は、春を待ちながらひたすら耐えているようだ。 あのとき。 最後の夜、ここで見たももは、まるで妖精のようだった。 淡い光に包まれて、ひとつひとつの桃に声をかける姿。 愛おしそうなあの表情は、忘れられない。 黙って帰ってしまった僕のこと、怒ってるだろうな。 勇気がなかったんだ。 あのときの僕は。 手紙、読んでくれただろうか。 舞い降りる雪がすべてを覆い隠していった。 [シーン1:最初の春/飛騨桃の農園】 ◾️SE:冬の小鳥(ジョウビタキなど)/高山線の通りすぎる音 「ばあちゃん。 落ち葉の掃除、こんくらいでいいかい?」 「だしかんさ。もっときちっとやらにゃ。 それとな、掃除でのうて病気の予防なんやぜ」 国府にある祖父母の飛騨桃農園。 朝早くから起きて、地面の落ち葉を徹底的に集める。 桃の木が灰星病(はいほしびょう)や黒星病(くろほしびょう )にならないために。 集めた落ち葉は焼却炉で燃やす。 あったかいんだな、これが。 ああ、でも・・・ 収穫が終わった秋冬が、こんなに忙しいとは思わなかった。 このあとも・・ 幹や枝の防寒材の痛みをチェックして、 小動物にかじられないように金網を設置。 古い樹皮を鎌で丁寧に剥ぎ取る。 それが終わったら、剪定作業。 桃の実は、短い枝に生(な)るから。 どの枝を残して、どの枝を切るか。 大学で学んだ樹形図という木の骨格を見る。 いや、机上の論理と現実は違う。 ベテランのじいちゃんばあちゃんに指示をあおがないと。 1本1本脚立を使って、 ハサミやノコギリで枯れ枝や交差している枝を切り落としていく。 作業はまだまだ終わらない。 飛騨国府ならではの重要なしごと。 雪の重みで枝が折れないよう、雪吊りや雪囲いを作る。 なんとなくわかってたけど、桃の農園って冬の方が忙しいんだなあ。 ま、それもこれも、春に美しい桃の花を咲かせるため。 言い換えると、彼女に会うため。 「ああ、早くももに会いたい 花が咲くのが待ち遠しい!」 ピンクの花が開いたら、ももに会える。 きっと会える・・・ ・・・そう信じてた。 やがて、春の足音が近づくと、 農園全体が濃い桃色に染まり、甘い香りに包まれる。 桃源郷のような美しい風景を楽しませてくれたあとは ゆっくりと花びらが散っていく。 役目を終えた花びらは、まるで名残惜しむかのように、 一輪、また一輪と、静かに枝を離れる。 風が吹くたびに、桃色の絨毯が少しずつ広がっていく。 だけど・・・ ももは姿を見せなかった。 気がつけば、農園は新緑から夏の景色に。 国府の飛騨桃は、昼夜の寒暖差により、極限まで糖度を高めていく。 太陽の恵みを一身に受けて膨らんだ果実の重みが、枝をしならせていた。 収穫の季節。 熟した桃を優しく摘んで籠の中へ。 手塩にかけて育てた桃たちが出荷されていく。 夕暮れどき。 見上げれば、西の空には、わずかに残る夏の熱気と、 どこか涼しげな秋の気配が混じり合っている。 僕は、毎日ももを待っていた。 なのに、ももはこない。 収穫が終われば、農園の活気は静まり、また静かな冬へと向かっていく。 春や夏だけでなく、秋も冬も、 僕が桃畑の中で探したのは、ももの姿。 それでも・・・ 次の年も、その次の年も、ももに会うことはできなかった。 [シーン2:3年目の春/飛騨桃の農園】 ◾️SE:春の小鳥(ヒバリなど) 僕が祖父母の農園を手伝い始めてから3年目の春。 例年より早く桃の花が咲き始めた。 息をのむほどに美しい満開の花。 見渡す限り広がるピンク色の霞。 甘い香りが、僕の心を締め付ける。 今年も、ももには会えないんだろうか・・・ そのときだった。 一番日当たりの良い、畑の中央付近。 陽炎のように揺らめく桃色の向こうに、淡い光を纏った人影が見えた。 風に揺れる花びらが、その輪郭をぼかす。 「もも・・・!」 口から、乾いた、それでいて震える声が漏れた。 三年分の想いが弾け飛び、心臓が早鐘を打つ。 僕は夢中で駆け寄った。 桃の木々を掻き分け、距離を縮める。 彼女もまた、こちらに気づいたように、ゆっくりと振り返った。 あと数歩。思わず息を止めた。 その瞬間、強い春風が吹き抜け、花びらが舞い上がった。 視界を遮っていたピンク色のカーテンが開かれ、 その顔が露わになる。 もも・・じゃない。 見覚えのある笑顔。 桜貝の色に染まる頬。 ももと同じ、いや、それ以上に輝く瞳。 「ショウタ・・・? やっぱり、ショウタだ」 弾んだ声が、僕の耳に届く。 それは、ももの弾むようなトーンとは対照的に、落ち着いて、でも、明るい声。 記憶の向こう側にいた、大学時代の同級生、杏(あん)だった。 僕は、その場に立ち尽くしたまま、言葉を失う。 杏は、僕の心の急停止には気づかず、無邪気に微笑んだ。 「久しぶり!まさかこんなところで会えるなんて」 杏は無邪気に微笑む。 ももの顔がオーバーラップして、僕には痛々しかった。 風に揺れる桃の花びら。 まるで心の中の淡い夢を嘲笑うかのように、はらはらと舞い散っていく。 そこには、ももの笑顔も甘い香りもなかった。 あるのはただ、春の陽射しと、僕を待ち受ける現実だけ。 「あの・・・もしかして、人違いだった?」 「杏・・なんでここに?」 「私、今、埼玉の農業技術センターで働いているんだ」 杏は、はきはきとした口調で話し始めた。 「具体的な仕事はね、品種開発のプロジェクト。 私は、埼玉の気候変動に順応できる新しい桃の品種を探しているの」 杏は、桃の花を見上げながら饒舌に話し続ける。 「飛騨国府には、大玉で高い糖度の『飛騨おとめ』があるでしょ。 それが埼玉の温暖な気候でも育つかどうか、 適応性を検証するっていう研究よ」 「なんで僕がここにいるってわかった?」 「だって、ショウタ。 大学のときから、田舎で農業をやりたい、って言ってたじゃない」 「あ・・・」 「それ思い出して、ショウタんちまで行ったんだから。 そしたらお父さんが、ここにいるって教えてくださったの」 杏はそう言って、いたずらっぽく笑った。 「ショウタ。 そんなとことで話しとらんと、なか入ってもらえ」 知らないうちに祖父母が僕たちの後ろに立っていた。 その姿を見た杏は、さらに相好を崩す。 僕の横を通り過ぎて、祖母の元へ。 「おじいさま、おばあさま、はじめまして。 ショウタさんの大学の同級生、杏、と申します」 「おお。おお。めんこい娘(こ)や。 そんなとことで話しとらんと、なか入ってもらえ」 「ありがとうございます! あの・・できれば、しばらくここに滞在させていただけませんか?」 「え?」 「農園のお手伝い
ボイスドラマ「おかえり〜旅のおわり」」
2026/01/03
路線バスの中で交差する、5つの人生、5つの想い。 旅の終わりに待っているのは、感動でも答えでもなく、ただ、迎えてくれる場所。 ぜひ、最後までゆっくりとお聴きください。 【ペルソナ】 ・月愛(かぐら/一之宮:32歳/CV:小椋美織)=東京で働くマーケター。実家は一之宮。父は神職 ・咲良(さくら/荘川:21歳/CV:岩波あこ)=荘川のそば農家。大空と付き合って駆け落ち ・大空(りく/清見:22歳/CV:田中遼大)=清見の家具職人。平湯から高速バスで咲良と東京へ ・萌々(もも/国府:19歳/CV:高松志帆)=国府出身東京の女子大生。さるぼぼをお焚き上げ ・真言(まこと/高根:8歳/CV:山﨑るい)=高根の小学生。丹生川の祖母の元を訪ねる ・愛李彩(ありさ/にゅうかわ:65歳/CV:中島ゆかり)=丹生川の農園を営む。真言の祖母 ・朱里(すばる/市街地:20歳/CV:米山伸伍)=市街地で看護師を目指す専門学校生。屋台組所属 ・林檎(りんご/久々野:16歳/CV:坂田月菜)=蓬希の同級生。実家は久々野で観光農園を営む ・静流(しずる/奥飛騨:34歳/CV:日比野正裕)=奥飛騨で老舗旅館を経営する若者 ・蓬希(よもぎ/朝日:16歳/CV:蓬坂えりか)=女子高生。漢方薬剤師になりたい [プロローグ〜アバンタイトル:ヒダテン!たちの登場】 ■ヒダテン!10人の登場。物語の狂言回し 高山レッド!一之宮かぐら!奥飛騨シズル!国府もも!清見ロック! 久々野りんご!丹生川スクナ!荘川さくら!高根メイズ!朝日よもぎ! ヒダテン!です (※1.レッド、2.かぐら、3.シズル、4.もも、5.ロック) 1.今からお届けするのは、路線バスのなかにある5つの物語。 2.見終えたあとに、心が少〜しあったかくなれますように。 3.ほっとするひとときをお届けします。 4.みなさんもこんなプチ旅、してみませんか。 5.どうかごゆっくりご覧ください。 [プロローグ:はじまりの駅/高山駅】※ここだけはモノローグ ■SE/高山線車内放送「♪アルプスの牧場」〜高山駅のホーム〜駅の案内アナウンス →モノローグはタイトルバック/アニメの背景は特急ひだの車窓 高山駅10時16分。 東京からのぞみの始発に乗っても、高山に着くのは最短でこの時間。 ふうっ。 私は月愛(かぐら)。 渋谷の広告代理店で働くマーケター。 東京の若者は高山を知らない。 その理由をリサーチしてほしい。 高山の観光協会からソリューションの依頼が入ったのは年の瀬。 冗談でしょ。 全国的に有名な観光地なのに。 アニメの聖地にもなってるし。 いてもたってもいられず、私は始発ののぞみに飛び乗った。 で、イマココ。 さて、どうする? 高山まで来たのはいいけど、どこへ行くか決めてない。 ふと、目の前を走る路線バスに目がいった。 [シーン1:路線バスその1/荘川・清見の乗客「咲良と大空」】 ■SE/バスの車内・アイドリング 高山駅が始発のバス。 新穂高ロープウェイ行き。 発車まで10分か・・ 私は後ろから2番目の席に座る。 そういえば、高校のときからこの場所、定番だったなあ。 どうでもいいことを思い出していた。 ■SE/バスのステップを上がってくる音 バスの車内は、それほど混んでいない。 平日だから。 発車直前に乗り込んできたのは、若いカップル。 私と同じくらいの年かな。 ひとことも口を開かず、私の前の席に座った。 バスが動き出すのと同時に男性が口を開く。 「咲良・・後悔してないかい?」 「大空・・きっと大丈夫だよね」 「ああ。東京へ着いたら、前に清見にいた友だちのとこへ行く。 家具工房、紹介してくれるって」 え? まさか駆け落ち・・・? そのとき、彼女のポケットからなにかが落ちた。 ひらりと舞ったそれは・・手紙? 2人とも気づいていない。 躊躇いながら、私は声をかける。 「これ、落としましたよ」 「え? あ・・ありがとうございます」 「なに?」 「封筒・・・」 「え・・」 「手紙と・・・なにか入ってる・・」 「なに?・・その黒い粒。 ちっちゃくて、三角形の・・」 「種・・・荘川そばの・・・」 「手紙は?」 「おかあさんから・・ ”今年いちばんできのいい種よ、きっと咲くから” って・・・」 「大丈夫?咲良・・泣いてるの?」 「ううん・・なんか・・・蕎麦がらの匂いが目に染みちゃって・・」 「ようし。オレ東京着いたら 工房で最初にプランター作るから!そこで育てよう」 「大空・・」 がんばって。 私は心の中で2人に声をかけた。 [シーン2:路線バスその2/国府・市街地の乗客「萌々と朱里」】 ■SE/バスの走行音〜停車音〜扉が開く音 国分寺から乗ってきたのは若い女性。 女子大生っぽい。 ダークグレーのショートコートに・・中は黒いスーツ? 都会っぽいイメージ。 私の斜め前の席に腰をおろした。 と、すぐにその前の席の男性が振り向いて声をかける。 バスの中でナンパ? 「国分寺って珍しいな・・」 「え・・・」 「観光客でしょ?古い町並とか行かないの?」 「観光客じゃないから」 答えてるし。 「え?ひだっこ?そうは見えないな」 「帰省中」 「大学生のホリデーかぁ?羨ましい」 「葬式だけど。おばあちゃんの」 「え・・」 「国分寺でさるぼぼをお焚き上げしてきた帰り。 おばあちゃんが毎月送ってくれたから。 これでも羨ましい?」 「いや・・ご、ごめん」 「おばあちゃん、国府なんだけど、私の古いさるぼぼ、毎月お焚き上げしてたって」 「そうか・・」 「私、新しいさるぼぼ作ったから、一緒に奥飛騨の温泉へいくの。 おばあちゃん、いつも私と行きたがってたし」 「悪かったよ・・ 実は、オレが向かってる病院にも仲良いばあちゃんがいてさ」 「病院?」 「ああ、こう見えてオレ、看護師の専門学校行ってんだ。病院は実習」 「へえ〜」 「そのばあちゃんも、さるぼぼくれるって言うんだよ。 自分はもういらないからって」 「そうなんだ」 「オレ、ERの認定看護師になりたいんだけど その夢もさるぼぼが叶えてくれるって。 そりゃ盛りすぎだよな」 「かなうんじゃない?」 「え・・」 「ふふ・・」 「あ・・オ、オレ、朱里。君は?」 「さあ・・」 そう言ったあと、彼女は小さな声で「萌々」とつぶやいた。 彼に聞こえたかどうかわからない。 でも最初の軽薄さは消え、真摯な態度へ変わった彼は、前に向き直った。 バスは古い町並口を越えて、別院前へ。 [シーン3:路線バスその3/久々野・朝日の乗客「林檎と蓬希」】 ■SE/バスの走行音〜停車音〜扉が開く音 別院前から乗ってきたのは、女子高生の2人。 懐かしいな、あの制服・・・ 「よかったね、蓬希。八幡さま、行けて」 「うん、ありがとう、林檎」 そっか。 桜山八幡宮へ行ってきたんだ。 秋の高山祭、私また行けなかったな。 「さっき買ったお守り、交換しない?」 「え?なんで?」 「そうすれば、アタシたち、ずっと一緒にいられるじゃない」 「あ・・」 「これを蓬希だと思って・・」 「ね、林檎・・実はさ・・・私もう来週引っ越すんだ」 「え?」 「ごめん、だまってて」 「そんな・・」 「これ、よかったら持ってて」 「なに?」 「朝日の薬草で作ったお守り。 そのお守り袋の中に一緒に入れてくれる?」 「ズルい。自分だけ・・」 「ごめん」 「でも・・アタシも持ってきたんだ」 「え?なに?」 「はい・・」 「え・・・」 「リンゴの小枝を組み合わせた写真立てだよ」 「あ・・・」 「最後の日に渡そうと思ってたんだけど、持ってきててよかった」 「この写真・・・」 「そ、初めて2人でリンゴ狩りにいったとき」 「3年前だ」 「今日の写真を入れようと思ったのに」 「入れる!ぜったい入れるから」 「そうと決まれば、このあとは・・」 「ほおのき平でラストスキー!」 「薬学部、がんばってね。大変なんでしょ、勉強」 「うん。でも、これでがんばれる。 林檎も農園、がんばって」 「まかせといて。今よりもっと甘くて美味しいリンゴを作っちゃうから」 「そしたら、絶対食べに帰ってくるわ」 「そんときは、また2人で八幡さま行きましょ」 「うん!」 「約束よ!」 「約束!」 いいなあ。 アオハルって感じ。 私にもあったかな、あんな甘酸っぱい日々。 バスは丹生川町へ入っていった・・・ ※続きは音声でお楽しみください。
ボイスドラマ「二千本桜」
2025/12/26
荘川の地に咲いた、一本の奇跡の桜。そして、その桜に人生を捧げた、ひとりの青年。 御母衣ダム建設によって移植された「荘川桜」・・・その前に現れたのは、静かに佇む青年・りょう。 彼が出会ったのは、人ではない“桜の精”さくらでした。 太平洋と日本海を桜でつなぎたい・・・そんなひとりの車掌の夢は、やがて二千本の桜となり、本物の「さくら道」として、この地に遺されていきます。 実話をもとにした、切なく美しいファンタジー。「桜を守った人」と「人を見守った桜」の物語を、ぜひお聴きください。 【ペルソナ】 ・さくら(500歳/CV:岩波あこ)=荘川桜の精。復活した荘川桜の下でりょうと出会う ・りょう(34歳/CV:岩波あこ)=白鳥出身の路線バス車掌。さくらに惹かれていく 【プロローグ:4月末/荘川桜/開花】 ■SE/小鳥のさえずり/湖面のさざなみ 「おかえり・・・」 1970年4月。 10年前に移植された荘川桜が初めて薄紅色の花をつけた。 一重咲きのエドヒガンザクラ。 ダムの底にある、寺の境内にあったときの姿そのままに。 桜の前では、ダムに沈んだ村の人たちが寄り添って泣いている。 その中にひとり。 声にならない声をあげて、感極まっている青年がいた。 もう1時間以上もずっと私の方を見つめている。 「よく・・戻ってきたなあ」 そればかり繰り返している。 うふふ・・面白いひと・・ 私は興味がわいて、ゆっくりと彼の前へ。 つい悪戯心が働き、声をかけてしまった・・・ 「あなた、中野(なかの)の人?」 「え・・・」 ・・・驚いた・・私が見えるの? 彼は視線を落とし、私の瞳を見つめる。 「きみは・・・」 「私・・・?私は荘川桜の・・ ・・・櫻守・・かな」 「桜守・・・ えっと、ぼくはリョウ。 家は中野じゃなくて白鳥だよ」 「お隣ね」 「バスの車掌なんだ」 「あら。珍しい」 「名古屋から金沢を結ぶ長距離路線さ」 「そう。 じゃあ、太平洋と日本海をつなぐお仕事、ってことかしら」 「太平洋と日本海を結ぶ・・・ ・・いい言葉だ」 「私、海って見たことないの」 「え・・」 「そもそも、無理な話だもの」 「見られるよ」 「え・・・?」 「ダムの底に沈むはずだったこの桜だって、 いまこうして御母衣湖を見下ろしているんだもの」 「でもどうやって・・・?」 「桜と桜をつなぐんだよ」 「まあ・・・」 「ずっと桜を前にして思ってたんだ」 「なあに・・・」 「こんな、心が震えるような思いを、分かち合いたい」 「まあ・・・」 「ひとりでも多くの人に、この気高い姿を見てほしい」 「あ・・・」 「どうだい。 凛々しくて、大きくて、包み込むような優しさ」 「うん・・・」 「ちっぽけな悩みなんて、くだらないって思えてくる」 「そうね・・・」 「いま世界中でおこっているような争いごとなんて、ばかばかしくなってくるよ」 そう言ってリョウは、目を輝かせた。 花びらは、はらはらと静かに舞い落ちる。 儚げな淡い桜色の風景。 荘川の村人たちはみな、希望に満ちた表情で老木を見つめていた。 【シーン1:5月頭/荘川桜/落花盛】 ■SE/小鳥のさえずり/湖面のさざなみ 「さくら、見てごらん」 2週間後。 五月晴れの荘川桜公園。 落花盛んな荘川桜が御母衣湖に花筏を作っている。 車掌のお仕事が非番の日の午後。 足元にリョウがしゃがみこむ。 「これ・・根あがりだろ」 ああ・・蘖(ひこばえ)たちね。 幹の周りに芽吹いた子どもたち。 「ちゃんと芽吹いてるんだ・・」 そうよ。だって生きているんだもの。 「やっぱり・・すごいよ。 命がつながってる」 ちらほらと顔を出した蘖たち。 自分たちはここにいる。 生きているんだ、って主張して。 「この子たちを連れていってあげよう」 目をきらきらさせてリョウが呟く。 「荘川に芽吹いたほかの兄弟たちもいっしょに」 そういってリョウが取り出したのは、小さなスコップ。 蘖を傷つけないように、 土の中の小さな生命をすくい取っていく。 この人は、本当に桜に優しい。 【シーン2:夏/名金線鳩ヶ谷/白川郷】 ■SE/セミの鳴き声/バス走行音 それからリョウは、非番になると私のところへやってきた。 蘖や苗木を探して、バス路線に桜の苗を植えていく。 まずは荘川桜に近い、白川郷の鳩ヶ谷(はとがや)停留所から。 「停留所に桜が咲いたら、みんな喜んでくれるかな」 そりゃ嬉しいに決まってる。 春が待ち遠しくなるはずよ。 桜を植えるのはバス路線。 名古屋方面へ向かって。 正ヶ洞(しょうがほら)。前谷(まえだに)。北濃(ほくのう)。向小駄良(むかいこだら)。 そしてリョウの家がある美濃白鳥(みのしろとり)へ。 「小さい子は5年くらいかかるかな。 大きな苗木なら来年には花をつけるだろう」 嬉しそうなリョウの顔。 私を見て、子どもみたいに笑う。 「最近は、バスに乗ってても窓の景色が気になるんだ。 あ、ここに桜が咲いたら、きれいだろうなあ。 長良川のここの堤防に植えたら、美濃の人たちも花見できるかな。 って、そんなことばっかり考えてる」 リョウ、こんな表情するんだね。 桜に夢中になってくれて、私も嬉しい。 「桜のトンネルができたら楽しいだろうなあ」 「リョウ、あなたいくつ?」 「34。 さくらは?」 「私? 私は500歳よ」 「またそういうことを言って」 「だって・・・ほんとだもん」 「ようし、日本海へもつなげないと」 そう言って今度は、荒田町島(あらたまちじま)、城端(じょうはな)、福光(ふくみつ)へ。 すべての停留所には、桜の並木がつながった。 子どもたちもみんな、すごく、喜んでる。 春になれば幸せそうに舞い上がる桜吹雪。 御母衣ダムなんてほんのりピンクに染まるほど。 リョウは持ち前の明るい性格がどんどんヒートアップしていく。 非番の日だけでなく、バスに乗り込むときはいつも 桜の苗木を持ち込んだ。 「はい、停車します」 停留所じゃないところでバスを停止させる。 バスを降りるリョウの手にはスコップと桜の苗木。 リョウがスコップで掘り、運転士が桜を植える。 乗客は微笑んでそれを見守っていた。 気が付けば、桜の並木は、二千本。 名古屋から、岐阜を通り、美濃、荘川、白川郷、金沢、そして輪島まで。 まだ幼い若木たちが作る、小さな桜のトンネル。 それは沿線のひとたちの未来を桜色に染めていった。 【シーン3:春/落花盛な荘川桜】 ■SE/小鳥のさえずり/湖面のさざなみ 初めてリョウと出会ってから13年。 名古屋から金沢へ。 太平洋から日本海まで、もう少しで桜のトンネルはつながる。 みんなが期待して待ち望んでいたとき。 リョウと連絡がとれなくなった。 どうしたの? あんなに毎日、私のところへやってきて。 君の顔を見ないとやる気がでない、って言ってたのに。 私、必死であなたを探したわ。 あなたが植えた桜の花びらをたどって・・・ 【シーン4:冬/寒さに耐える荘川桜】 ■SE/吹雪の音/病院の部屋 「よくここがわかったね」 「ずいぶん探したのよ」 「すまない。きみに連絡をとる方法がわからなくて」 「荘川桜が散ってしまう前に、なんとか見つけなきゃって」 「ああ、そうか」 「あなた、荘川桜の蘖たちをいろんなところに植えてくれたでしょ。 花びらは私の眷属だから。 開花するまで待って、それを辿ったの」 「そうだったね」 「桜のトンネルは完成したの?」 「うん。 あと少しだったんだけど・・」 「やだ。なに弱気になってるの。 がんばって。早く良くなって」 「ああ・・」 「聞いたわ。 車掌さんの給料だって、ぜんぶさくらのためにつぎこんだんでしょ」 「うん・・」 「桜も大切だけど、自分のことももっと考えて。 私、前にも言ったじゃない」 「そうだっけ・・」 「リョウが桜を植え続けられるのは、 あなたの周りにあなたを支えてくれる人たちがいるからだって」 「そんなこと言われたっけ? 「言ったわよ。 みんながあなたのことを考えてくれるから リョウも私も、こうしてやりたいことをやってられるんだよ」 「そうだね・・・」 「ねえ、リョウ・・」 「なんだい?」 「私を海へ連れてってくれるんでしょ」 「うん・・・ だけど・・・」 「どうしたの?」 「さくら、お願いがあるんだ」 「なあに?」 「ぼくがもしいなくなっても、桜の並木を植え続けてくれないか?」 「私が?」 「だってこんなこと、さくらに
ボイスドラマ「聖夜の奇跡」
2025/12/19
東京で孤独を抱える13歳の少女・聖夜(せいや)。母方の祖父の訃報をきっかけに、初めて訪れた飛騨・久々野で絞りたてのりんご、素朴でまっすぐな人々、そして同級生・林檎(りんご)と出会います。SNSからの心ない言葉に傷つき、心を閉ざしてきた聖夜。しかし、何気ない日々の中で「誰かがそばにいてくれる」その温かさに気づき始めます。冬休み最後の日、彼女が下す決断とは—— 【ペルソナ】 ・聖夜(せいや:13歳/CV:坂田月菜)=冬休みに東京から久々野にやってきた厨二病のJC ・聖夜の母(みや:38歳/CV:小椋美織)=久々野出身。高校のとき喧嘩して家を飛び出し東京へ ・聖夜の祖母(りん:71歳/CV:山﨑るい)=久々野で祖父と一緒にりんご農家を営んでいた ・林檎(りんご:13歳/CV:坂田月菜)=久々野中学校2年生。久々野で生まれ久々野で育った 【プロローグ:JR高山線高山駅】 ◾️SE/高山駅到着車内アナウンス/♪アルプスの牧場〜 「さ、聖夜、高山で乗り換えるよ」 「えー?高山で降りるんじゃないのー、ママ」 「久々野って言ったでしょ?」 「聞いてないよ。 なに?クグノって・・・」 「高山から久々野までは鈍行よ〜 あなたの好きな」 ママ、また話をすりかえる〜。 それに私、各停専門の乗り鉄じゃないし。 私の名前は聖夜。 クリスマスの聖夜って書くんだよ。 自分では割と気に入ってるんだけど、よく友だちからイジられるんだなあ。 イジられる・・・? いや。イジメられてる、って言い方のが正しいか・・・ 私は、東京の中学に通う2年生。 天文部に入ってて、ギリシャ神話とか星の伝説とか大好き。 アパートのベランダからいつも星を眺めて いろ〜んな妄想してるんだ。 うん。少しだけ厨二病入ってるよ。悪い? 冬休みに入ってすぐ、ママの元へおじいちゃんの訃報が届いた。 と言っても、私は会ったことないんだけど。 生まれてから13年間、 おじいちゃんやおばあちゃんがいることさえ知らなかった。 ママも実家に帰るのは20年ぶりなんだって。 どうゆうこと? 【シーン1:JR高山線久々野駅】 ◾️SE/久々野駅前の雑踏 JR高山線久々野駅。 駅前の広場に一台の軽トラックが停まっている。 わあ、東京じゃなかなか見れないビジュ〜。 と思ったら、ママが軽トラの方へすたすた歩いていって、 「かあさん」 と、声をかける。 運転席に座ってるのは皺の寄ったおばあさん。 ママを見るなり、相好を崩して口を開いた。 「みやか。だいぶ顔見なんだな」 「かあさん、なんで汽車の時間わかったの?」 「ああん? おまえが通夜からでるゆうとったで。 朝から待っとんやさ」 「そんな・・お父さんのそばにいなくていいの?」 「ああ。農園のみんなが賑やかにみとってくれるでな」 「そう・・」 「みや、まめけな?」 「まめまめ」 そう答えて、ママは私を指差し、 「これ、娘の聖夜。かあさん、初孫でしょ」 「ほおかぁ。セヤちゃん、ようきたなあ」 「はじめまして、おばあちゃん。聖夜です」 「ほうかほおかぁ。 じいちゃんにも会わせたかったわなあ」 「じゃ、聖夜、助手席に乗って」 「ママは?」 「私は農園まで歩いていくから。20分くらいで着くでしょ」 「荷台に乗れ」 「軽トラは2人乗りでしょ」 「ええんやて。荷台のりんごみとってまわんと」 「じゃ、私が荷台乗る」 「風邪ひくわよ」 「大丈夫。ダッフルコートめちゃあったかいもん。 それにいっぺんここ乗ってみたかったんだ」 「セヤちゃん、ええんか? 無数河(むすご)の加工場にりんご届けてからうちに帰るで」 「お通夜はいいの?」 「ええ、ええ。みんなおるからええ」 そう言って、どっかのアニメみたいなビジュになって おばあちゃんちに向かった。 【シーン2:おばあちゃん家/久々野町無数河】 ◾️SE/冬の虫の音(ごくわずかに)〜静寂 久々野に着いた日の、夜。 お通夜が終わって食事をとったあと。 私はおばあちゃん家(ち)の裏庭に出た。 そして空を見あげて、息を飲んだ。 星。 満天の星。 冬の大三角が、まるで天空のゲートのように輝いている。 オリオンが、地上の私に向けていまにも弓を射るようだ。 降り注ぐような星たちのきらめき。 もう、言葉にすらできない。 ◾️SE/冬の鳥の声 お通夜もお葬式もとどこおりなく終わった。 でも、ママと私はまだ久々野にいる。 別にいいけど。 どうせ東京へ帰っても、楽しいことないし。 おばあちゃんは、毎朝しぼりたてのりんごジュースを用意してくれる。 「めちゃ甘でめちゃおいしい!」 「ほうかほおかぁ。 じいちゃんもきっと、喜んどるわ」 お世辞でもなんでもない。なんでこんなに甘くて美味しいの? お砂糖使ってないから、あと味もさっぱりしてるし。 こんなん、東京には売ってないよ。 で、私はイマココ。 ママに言われて特産品加工場でお手伝い。 おばちゃんたちがアップルパイを作ってる。 え? みんなりんご農家のひとなんだ? へえ〜。 だから?お肌ツルツル・・って関係ないか。 アップルパイは、 フィリングという具材を作り、パイ生地を作って、成形して、焼き上げる。 知らなかった〜。 私は、最初の工程、りんごを優しく洗う作業をまかせてもらった。 よかったぁ。 だって私、包丁とか、握ったことないんだもん。 「あんた、手つき、いいじゃん」 声をかけてきたのは、私と同い年くらいの少女。 栗色のロングヘアーを後ろで縛ってる。 エプロンの下に見える、赤いワンピース。 白いお花の髪留めがかわちい。 「こんにちは、アタシは林檎。あんたは?」 「あ・・・せ、聖夜」 「セイヤ? かっこいい名前・・・東京っぽい」 え・・・そんなこと、初めて言われた。 笑われるのがあたりまえだったのに。 加工場のみんなはすごく活気がある。 マスクをしてるし、飛騨弁だからたまにききとれないけど。 楽しそう。 私、厨二病だからそういう人の輪にはあんまり加わらない。 1人で自分の世界に入ってぶつぶつ言う癖があるの。 マスク越しに。 そんなとき林檎は、歯に衣着せぬ言い方で、ツッコミを入れてくる。 「包丁、握れる?」 「”剣”の扱いはプロよ。ゲームの中なら」 「剣じゃりんごは剥けんて」 「わが名は聖夜。運命に導かれし・・」 「運命よりはよ容器に入れやあ。あと、つかえてるで」 「久々野のりんごよ。懐かしきその香り・・」 「久々野ははじめてでしょ」 「深紅の輝きは、抗いがたい禁忌の誘惑・・」 「なあ、東京、帰るの?」 「え? そ、そんなん・・そりゃ・・・」 「そっか。 でも、ええところやよ。久々野も」 「え・・・ どういうこと・・・?」 林檎は答えず笑顔で、カットしたりんごを大きなボウルに入れて下処理室から厨房へ持っていった。 ママは冬休みの間ずっと久々野にいるっていったから 私はほぼ毎日加工場へ来てお手伝いをした。 だって、おばあちゃんちでゲームしてると怒るんだもん。 林檎とはなんだかそれからすんごい気が合って お互いのことをいろいろ話した。 すぐにLINEも交換して。 最初にわかったんだけど、林檎と私は同級生。 しかもなんと、おんなじ誕生日! もう奇跡だよね。 りんご情報が毎日LINEに入ってくる。 久々野のオススメカフェとか誰も知らない映えスポットとか。 私、久々野のこと、ミョーに詳しくなっちゃった。 東京のことは・・・ あまり話したくなかったから、テキトーに答えてたけど。 考えてみたら、いままで私、 こんな風に本音で話せる友だちなんていなかった。 【シーン3:聖夜のクリスマス/ヘイトメッセージ】 ◾️SE/クラッカーの音 クリスマスイブ。 昼間はいつものように特産品加工場でお手伝い。 お昼休憩のとき、おばちゃんたちと まかないのアップルパイでプチパーティをした。 「聖夜、メリークリスマス!聖夜の日じゃん!」 そう言って林檎とはプレゼント交換。 林檎からは、りんごの木の枝を使ったフォトフレーム。 りんごの細い枝を組み合わせて綺麗に作ってある。 きっと時間かけて作ってくれたんだろうな。 フレームの写真は最初の日にふざけて撮った変顔の2人。 やだもう、笑わせないでよ! そう言いながらちょいウルウル。 私が林檎に送ったのは、りんごの形のネックレス。 ネットで買った。私とお揃いなんだ。 人気のブランドだったからおこづかいr代全部つぎこんだけど。 林檎がくれた手作りのフォトフレー
ボイスドラマ「縄文の扉」
2025/12/13
主人公・りんご(CV:坂田月菜)は、同級生のトウマと訪れた堂之上遺跡で、奇妙な“赤い光”に飲み込まれ、気がつくと縄文時代の集落へ。そこで出会ったのは、りんごと瓜二つの少女・カヤ。彼女は新しい命を抱えながら、病で苦しんでいました。 言葉は通じない—それでも2人は星の下、火のそばで、食を分かち合い、心を通わせていきます。しかし病状は悪化し、りんごとトウマは“祈り”としての土偶づくりへ挑むことに・・・ 【ペルソナ】 ・りんご(14歳/CV:坂田月菜)=久々野に住む中学生。来年春には卒業・カヤ(14歳/CV:坂田月菜)=縄文女子。妊娠中。中央祭祀場で火守をしている・桃真=トウマ(14歳/CV:山﨑るい)=りんごの同級生。一番仲のいい男子 【資料/【飛騨高山の縄文遺跡を巡る】飛騨高山旅ガイド】 https://www.hidatakayama.or.jp/blog/detail_51.html ※縄文人の言葉は擬音が多く、単語での会話をしていたと推測されています。諸説ありますが、アイヌ語が縄文語の言語的特徴を色濃く残している可能性が高い、という仮説が有力視されています。今回はアイヌ語をベースにした縄文語という仮定で縄文人の言葉を表現しています。 [プロローグ:堂之上遺跡にて】 ◾️SE/小鳥のさえずり 「りんご〜!こっちへおいでよ〜」 トウマ(桃真)が竪穴式住居の前からアタシを呼ぶ。 久々野町の堂之上遺跡公園。 ここ、久々野中学校からちょっとだけ下ったとこだから、もうドキドキ。 トウマと2人で会ってること、誰かに見られたらどうしよう・・ ついつい周りをキョロキョロしちゃう。 トウマはアタシの同級生。 アタシと同じ、久々野中学校に通う3年生。 初めて2人だけで会ったのは夏休み明けの9月。 行ったのは、なんとりんご狩。 ま、それには理由があるんだけど。 嘘みたいだけどアタシ、今年の4月までりんごが食べられなかったの。 それを克服するきっかけをくれたのがトウマ。 だから、りんご狩に誘ってくれたんだ。 農園の場所はアタシのうちと目と鼻の先。 トウマのおうちがやってる観光農園だった。 そりゃそうだよね。 久々野のりんご狩なんだもん。 たいてい知ってる農園だわ。 トウマも生まれてから14年間で初のりんご狩体験だったらしい。 農園の子なのにね。 お父さんやお母さんもすごくもてなしてくれて。 おみやげに久々野りんごをいっぱい持たせてくれた。 農園の中では星のりんごにカットして、3玉も食べちゃったし。ふふ。 それからは毎週のように、トウマがアタシを誘ってきた。 トウマって女子の人気者だから、独り占めするのはちょっと心配。 2人で会うのは月に1回にしようって決めたんだ。 ってことで、10月は、自転車であららぎ湖までピクニック。 始まったばかりの紅葉がすごく綺麗だった。 11月は、ひだ舟山リゾートアルコピア。 真っ赤に色づいた紅葉はもう最高。 毎年見ている風景だけど、トウマがいると違って見えるから不思議だな。 そ・し・て。 今日が3回目。 なのに、堂之上遺跡とは(笑) 歴史の授業や史跡見学で何回も来てるし。 そもそも縄文の炉(ろ)を発見したのは、久々野中学校の郷土クラブだったんだよ。 久々野中学校の生徒から見れば、もう”自分ち”みたいなもんなんだから。 なんで堂之上遺跡? そんなこと考えてたら・・・ 「りんご〜!早く〜?」 また呼ばれちゃった。 はいはい。 「行くから待っててよ、トウマ」 「ねえ、ちょっと見てみてよ」 「なあに?」 「竪穴式住居の中に赤い光が見えるんだけど」 「え・・どこ?」 「ほら、あそこ」 「あ・・ホントだ」 「なんだろう・・・ それになんか声みたいなのも聞こえる」 そう言って、トウマは中に入ろうとする。 「ちょっとちょっとトウマ! 入っちゃダメだよ!」 「わかってる」 「入らないでよ!私たちの大切な文化財なんだから」 「煙出しのところから覗くだけだから」 「そんなに身をのりだしちゃ危ないって!」 「あれ?なんか平衡感覚が・・・おかしい・・・かも・・」 「え・・ あ、やだ・・私も・・」 「りんご、手を離さないで!」 目の前がぐるぐる周り始めた。 公園の奥に復元された竪穴式住居の前。 私たちのいる場所だけピンポイントで、空気が歪んでいるみたい。 だめ! 立っていられない! トウマが私の手を強く握りしめる。 意識がすうっと遠のいていった。 [シーン1:堂之上集落/縄文時代に降臨】 ◾️SE/焚き火の音 「りんご、りんご・・・起きて」 え? ここは・・・? そっか・・堂之上遺跡・・・ でも、なんかヘン・・・ あれ? 資料館は?どこ? それに、竪穴式住居って、こんなにたくさんあったっけ? 屋根から煙もあがってるし。 「ここ・・遺跡公園じゃないみたい」 「どういうこと?」 「ボクにもわからない。 でも、舟山(ふなやま)の形もなんか違うような気がする」 「そう言われてみれば・・・大きさとか・・形もちょっと違ってるかも」 「電線も看板もない。道も舗装されてない。資料館も・・ない」 「待って・・スマホのGPSで・・・ あ、だめ。・・圏外だ」 「それに、あったかくない?」 「ホントだ・・・ダウン要らないくらい」 「すごく突拍子もない話だけど・・・」 「なに? やめてよ、怖いこと言うの」 「ボクたち、縄文時代にタイムスリップしちゃったんじゃない」 「いや!そんな、アニメとかボイスドラマみたいなこと・・」 「じゃあ、この状況をどう説明するの?」 「やだ、帰りたい!・・・パパやママは!?」 「あ、ちょっと待って。誰かくる」 「え・・・?」 「そこの木の影に隠れよう」 木陰で見つめるアタシたちの方へやってきたのは、 粗い麻布のような服を着た少女。 手には木の実がこんもり入った籠をかかえている。 横切って通り過ぎるときにハッキリ見えたその顔は・・ 「ア・・・アタシ!?」 「しぃっ!」 少女がアタシたちの気配に気付き、振り返る。 やっぱり。 アタシと瓜二つの顔! まるで鏡を見ているみたい。 警戒した表情で、ゆっくりとこっちへ近づいてくる。 そのとき・・ アタシたちの後ろ、イチイの木が大きく揺れた。 ◾️SE/クマの咆哮 「く、くっ・・」 「クマだ! 逃げろ!りんご!」 「トウマも!」 「カムイ!」 アタシとトウマは縄文人の少女の方へ飛び出した。 クマの叫び声が後ろから近づいてくる。 「逃げて〜!」 少女も、驚いて手に持っていたカゴを落とし、走っていく。 アタシたちは、後ろを振り返らずに少女を追う。 少女の行く手、集落の中心には広場? そこにそびえていたのは・・ 「ストーンサークル?」 ううん。あれは、ストーンサークルじゃない。 アタシの身長くらいの石が何本も無造作に、 不思議な形に立てられている。 周りには、丸い石が敷き詰められて、不規則な楕円形を描いていた。 見たこともない謎めいた風景に息を飲む。 同時に少女の足が止まり、こちらを振り返った。 視線の先はアタシたちの後ろ。 え? 走って逃げてきた方へ振り返ると・・ クマは追ってきていない。 さっきアタシたちが隠れていたイチイの木の前。 少女が落とした籠の木の実を一心不乱に食べている。 「カムイ・・」 カムイ? なんか聞いたことのある言葉だな。 ◾️SE/中央広場からかけてくる縄文人たちが口口に「カムイ!」「カムイ!」と叫ぶ声 広場の方からこっちへ誰かがくる。 「りんご!離れないで!」 アタシはトウマの手をぎゅっと握り、肩を寄せ合う。 走ってきたのは10人以上の男の人。 毛皮をまとい、手には弓矢や槍を持っている。 アタシたちの前を通り過ぎてクマの方へ走っていった。 少女もアタシたちの横へ来て、彼らを見守る。 そこから先は、まるで映画を見ているようだった。 弓矢を持った男たちがクマの前で身構える。 槍やこん棒を持った男たちはクマの後ろへ回り込む。 彼らは慣れた動きで、ジリジリとクマへ近づいていく。 やがて、弓矢が射程距離に入ったところで、狩人の動きが止まった。 クマの斜め前に近づいた男が石を投げる。 クマが顔をあげたその瞬間。 ◾️SE/弓矢が飛んでいく音 一斉に男たちが矢を放つ。 何本かがクマに命中した。 クマは怒りを露わにして、弓をひいた狩人に襲いかかってくる。 すると後ろにいた狩人たちがクマに石槍を突きたてる。 クマが振り向くと、今度は前方の狩人が クマの首筋と心臓を目掛けて第二の矢を
ボイスドラマ「木綿のハンカチーフ」
2025/12/05
岐阜・荘川を舞台に、東京へ旅立つリョウとそば農家を継ぐさくらのすれ違い続ける恋を描いたボイスドラマ『木綿のハンカチーフ』 幼なじみとして育った二人。季節を重ね、夢を語り、未来を信じていた――あの春までは。 変わっていく都会の暮らし。変わらない故郷の風景。 最後にさくらが願った“たったひとつの贈りもの”とは? 【ペルソナ】 ・さくら(22歳/CV:岩波あこ)=岐阜の大学を卒業して故郷・荘川へ帰り実家のそば農家を継ぐ ・リョウ(22歳/CV:岩波あこ)=岐阜の大学を卒業して故郷・荘川を離れ東京へ就職する 【資料/木綿のハンカチーフ】 https://www.uta-net.com/song/4548/ 【資料/歌詞の意味を考える 〜「木綿のハンカチーフ」編〜】 https://www.mc-musicschool.com/post/lyrics-momennohandkerchief 【資料/「木綿のハンカチーフ」奈良姉妹】 https://youtu.be/QSV9lFgFFS0?list=RDQSV9lFgFFS0 【プロローグ:3月/ふるさと・荘川での別れ(蕾すら膨らんでいない荘川桜の前で)】 ※FM放送のみ楽曲使用「木綿のハンカチーフ」 ※配信はフリー音源 恋人よぼくは旅立つ 東へと向う列車で、 華やいだ街で君への贈りもの 探す 探すつもりだ いいえ あなた私は 欲しいものはないのよ ただ都会の絵の具に 染まらないで帰って ■SE/小鳥のさえずり 「おれ・・・東京に就職、決まったんだ」 「え・・・」 「さくら、ごめん」 「リョウ・・・」 「ひとりで決めて」 「そう・・・」 「デザイン会社受けて、内定もらったんだけど、東京本社勤務だって」 「おめでとう」(※寂しそうに) 「え・・・」 「よかったじゃない・・・夢がかなって」(※寂しさを押し殺して明るく振る舞う) 「さくら・・」 一年前の遅い春。 リョウが卒業後の進路について話したのは、 落下盛んな荘川桜(しょうかわざくら)の下。 私は必死で涙をこらえ、御母衣湖を見つめていた。 私たちはここ荘川に生まれ、荘川で育った幼馴染。 岐阜にある大学の、同じ学部に通う大学生だった。 そして、お互いに、かけがえのないパートナー。 夏休みには必ず一緒に荘川へ帰って、実家の農業を手伝った。 うちの実家はそばを栽培する農家。 夏は、裏作のトマトとキュウリを収穫する。 リョウの実家は林業だったけど家には帰らず、うちの畑へ。 「林業なんて絶対に継がない」 と、いつも言っていた。 今年は、2人で過ごす最後の夏。 夏野菜を収穫したあと、いつものように荘川をドライブ。 彼の運転で、涼しい湖畔の夜を楽しんだ。 三谷(さんだに)の自然水(しぜんすい)を水筒に注いで2人で回しr飲み。 魚帰り(うおがえり)の滝でマイナスイオンを浴びれば心まで洗われる。 荘川桜公園の駐車場に車を停めて2人で見上げた満天の星。 青葉をまとった荘川桜が夜空にざわめく。 展望台から眺める下流の御母衣ダムは、神々しくさえ見えた。 時には156号を北上して、白川郷へ。 「合掌造りに住んでみたいな」 冗談だか本気だかわからない目をして私を見つめる。 リョウと一緒の時間は、いつだって切なく、儚い。 時間よ、止まれ。 大学最後の夏休みは、まるで夢のように過ぎ去っていった。 ■SE/吹雪の音 短い秋が過ぎ、冬将軍の足音が近づいてくる。 こんなに冷たい雪、心まで凍るような冬は初めてだった。 いつも楽しみにしていたのに、今年は・・・ ”春よ、来ないで” 本気でそう思った。 それでも、時間は残酷だ。 決して待ってはくれなかった。 ■SE/小鳥のさえずり 「がんばってね!」(※寂しさを押し殺して明るく振る舞う) 「うん・・・でも」 「なあに?」 「ごめん・・・ オレ だけひとりで」 「そんなこといま言わないで」 「ごめん・・・」 なごり雪がまだ山肌に残る弥生・3月。 リョウが旅立つ朝。 荘川の里前のバス停。 リョウは路線バスで高山駅へ。 名古屋から新幹線に乗り換えて東京へ旅立つ。 私は、高山駅まで一緒に行って見送りたいって言ったんだけど・・・ 「さくらの顔を見てたら、特急ひだに乗れない」 そう言って、バス停での見送りになった。 大きなスーツケースを引いたリョウが、泣きそうな笑顔で私を見る。 「寒くないかい?」 「うん・・少しだけ・・」 「東京から、思いっきりおしゃれなマフラー贈ってあげるから!」 「ううん。なにもいらない。 ただ、私を・・荘川を忘れないで」 「忘れるわけないじゃないか・・・ 世界中の誰よりきっと、君を愛してる」 「お願い・・リョウは・・リョウのままでいて」 「わかった・・・約束する・・ 都会の色には染まらないよ」 そう言って、リョウは旅立っていった。 私はリョウのバスが見えなくなるまで見送る。 そのあとは今までの楽しかった日を思い出しながら ゆっくり、1時間歩いて、荘川桜公園へ。 荘川桜はまだ蕾も固く、口を閉ざしていた。 [シーン1:4〜9月/東京・赤坂ビジネス街〜荘川】 恋人よ 半年が過ぎ 逢えないが泣かないでくれ 都会で流行りの指輪を送るよ 君に君に似合うはずだ いいえ星のダイヤも 海に眠る真珠も きっとあなたのキスほど きらめくはずないもの ■SE/都会の雑踏と荘川のざわめき 「さくら、荘川桜はもう満開かい? きっと公園から御母衣湖まで花びらが桜色に染めているんだろう。 また見たいなあ。 僕は毎日がデザインの修行って感じ。 学校で習った作業だけでは実践には使えないみたい。 いろいろ自信がなくなっていきそうで怖いよ。 明日も先輩のアシスタント作業で朝から忙しいから 今日はもう寝るね。 おやすみ。 さくらに会いたい。 さくらの夢が見られますように」 「リョウ、連絡してくれてありがとう。 無理だけはしないでね。 食事にも気をつけて。 鶏ちゃんと荘川そばの乾麺送るから。 ジャンクフードじゃなくてちゃんと食べて。 厳しい先輩にも負けないで。 長文を送って夜更かしさせちゃ悪いから、短い文章にしとくね。 ちゃんと睡眠とって、明日もがんばって」 「さくら、秋そばの種まきはもう終わった? 実は、謝らなくちゃいけないことがあるんだ。 約束してたお盆休み。 プレゼンが続いてて、帰れそうにないんだ。 秋には休みをとって会いにいくから。 お父さんやお母さんにもよろしく伝えておいて。 東京は暑い。 涼しい荘川に帰りたいなあ。 ああ、さくらの顔が見たい。 さくらの手に触れたい・・・」 「リョウ、私は大丈夫。 気にせずに仕事がんばって。 でも体には気をつけて。 食事にも気をつけて。 ちゃんと水分とるのよ。 あなたの好きな三谷自然水、ペットボトルに入れて送るわ。 煮沸してから飲んでね」 「さくら、なかなか連絡できなくなっちゃってごめんね。 荘川は秋そばの収穫で忙しい頃だね。 東京へ来てもうすぐ半年。 ごめん。秋の連休も、やっぱり荘川へは帰れない。 その代わり、星の形をしたネックレスを贈るよ。 いま、渋谷とかで流行ってるみたい。 きっとさくらに似合うはず。 実は昨日初めて渋谷へ行ってきたんだ。 すごいところだよ、この町は。 なんだって揃ってる。 さくら、なんでもいいからほしいものを言ってくれ。 僕の給料で買えるものだったら、どんなものでもプレゼントするよ。 もう遅い時間だけど、このあと電話できる?」 「リョウ、ひさしぶりに声が聴けて嬉しかった。 やっぱりちょっと疲れた声だね。 電話でも言ったけど、そんな高価なネックレス、いらないわ。 どんなに素敵なネックレスも宝石だってほしくない。 本当はただ・・・ぎゅっとリョウに抱きしめてほしい」 9月も終わり、10月の声が聞こえて来る頃。 毎日のように届いていたメールも 3日に1度になり、週に1度になり、月に1度になっていった。 私はリョウの顔が見たくて、写真を送って、とねだったけど、 恥ずかしがり屋のリョウはなかなか送ってくれない。 代わりに添付して送ってくれていたのは リョウが描いた私の似顔絵。 それも今はもうなくなっちゃった。 だけどいいの。 連絡がほしいなんて、私のわがまま。 リョウが元気なら・・・ 病気になったり、落ち込んだりしてなければいい。 とにかく、元気でがんばって、リョウ。 [シーン2:12月/東京・渋谷の居酒屋で合コン〜荘川・雪の集落】 恋人よいまも素顔で 口紅もつけないままか 見間違うようなスーツ着たぼくの写真 写真を見てくれ いいえ 草にねころぶ あなたが好きだったの でも木枯しのビル街 からだに気をつ
ボイスドラマ「サトリ」
2025/11/28
耳が聴こえない少女・凪と心を読める妖怪・サトリ ──音のない世界でたった一人の声が届いた。 冬の高山で再会した二人。けれど、別れの時は近づいていて—— 静かであたたかな再生のファンタジー・・・ 【ペルソナ】 ・凪(ナギ)(14歳/CV:山﨑るい)=生まれつき耳が聞こえない少女 ・覚(サトル)(14歳/CV:山﨑るい)=人の心が読める妖怪サトリ ・歴史教師(24歳/CV:岩波あこ)=妖怪や民話・伝承が大好きな歴史教師 【資料/妖怪・覚(サトリ)】 https://yokai.jp/yokai/satori 【資料/妖怪・山童(岡本綺堂/飛騨の怪談)】 https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/49682_51215.html [プロローグ:記憶の中の声】 ■SE/虫の声〜フェードアウトしていく 「・・・い。 お〜・・・い。 お〜〜い」 それは、私が初めて聴く・・”音”だった。 「お〜〜い」 山の向こうから響いてくるような・・”声”。 あたりをキョロキョロ見渡してもどこにも声の主は見当たらない。 声を探して、私は山へ山へと入っていった。 10年前。 私は4歳のときに”神隠し”にあった。 いや。 神隠しなんて迷信を信じているわけではない。 だが確かに私は、3日間父や母の前から消えてしまったのだ。 3日後に発見されたのはなんと日和田高原の石仏群。 馬頭観音の前にちょこんと座っていたという。 その3日間のことは、なにひとつ覚えていない。 ただ、すごく幸せなひとときだった・・・ そんな記憶がぼんやりと残っている。 初めてできたおともだちと仲良く過ごしたような・・・ いつまでもずうっと楽しく語り合って。 でも、それは絶対にありえない。 だって私は・・・ 耳が聞こえないのだから。 [シーン2:中学校】 ■SE/学校のチャイムの音〜フェードアウトしていく 神隠しから10年。 私は高根町から朝日町の中学校までスクールバスで通っている。 私の住む町にはもう小学校も中学校もないから。 先生が黒板の文字を消しながら話している。 後ろを向いて話してると何言ってるかわかんない。 最近、無理に唇を読むのをやめた。疲れるし。 筆談もみんなの手をとめちゃうからやんない。 手話? ・・実は私、手話も上手じゃないんだ。 どうしてかっていうとね・・・ ■※ここから回想 高山には”ろう学校”ってないの。 うちはお父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも健常者なんだ。 普通は幼い頃からろう学校で手話を習うか、 家族が手話を習ってコミュニケーションをとるんだって。 うちの場合は・・・ お父さんが家具職人。清見の工房で夜遅くまで働いてる。 お母さんは市街地の総合病院で働く看護師。 おじいちゃんとおばあちゃんは ゴルフ場で住み込みの管理人。 結局、私はいつもひとりぼっち。 朝から夕方遅くまで過ごすのは町内の託児所。 小さいうちに人工内耳を入れることもなく、手話も習わなかった。家族も手話ができるわけじゃなく、近くにボランティアもいない。 こういうのなんて言うかわかる? 言語剥奪っていうんだよ。 幼ない頃から手話のような”言語”に触れる機会がないと、 コトバってものが理解できなくなっちゃうんだ。 で、私に残された方法は”読話(どくわ)”。 唇や口の動きを見てなにを言っているのかききとること。 いや、いきなり、それはハードル高過ぎでしょ。 そんなときに神隠し・・ でも神隠しのあと、 私は少しだけ唇を読めるようになってたんだ。 両親も祖父母もびっくり。 おばあちゃんなんて、 「やっぱり神様が連れてってくださったんだ」 って。 小学校のときはみんなマスクしてたから最悪。 誰がなに言ってんのか、まったくわかんなかった。 その頃たまに、手話ボランティアの人がきて 少しずつ手話を教えてくれるようになったけど。 中学へ入学したあとも、 学校で私、手話はほとんど使わない。 だって、誰も手話なんてわかんないんだよ。 私一人のためにみんながわざわざ手話覚えるとかって、ないし。 気を遣って話しかけてくれたりする友だちもいたけれど。 先生のお話も、早口で読み取りにくい。 やがて中学2年になった・・ある晴れた冬の日・・・ [シーン3:転校生】 ■SE/学校のチャイムの音〜フェードアウトしていく 「はじめまして。 御嵩(みたけ)から引っ越してきました、覚(サトル)です」 中学校の教室に転校生がやってきた。 黒板に大きく自分の名前を書く。 ご丁寧にフリガナまでふって。 覚、サトル・・・ ふうん。 「これからよろしくお願いします」 あれ? いまの・・手話? 両手を合わせて握る。 さりげなさすぎて、誰も気づいてないみたいだけど。 まあいいや。 へえ〜。 転校生って珍しいから?みんなサトルの周りに集まってる。 だって彼、見た目もいいしね。 なんていうのかな。 中学生にしてはちょっとワイルド?そんな感じ。 どうでもいいけど。 国語、社会、理科、数学。 音のない世界。 気を抜くと、先生の話がつながっていかない。 いつも六時限目が終わると、ほっとする。 私の席は先生が気を遣ってくれて一番前。 あれ? みんな授業が終わって一斉に後ろへかけていく。 どうかしたのかしら? 振り返ると・・・ ああ、転校生の席。あんなに生徒が集まって・・・ たった1日でクラスの人気者ね。 え? なに? 彼・・サトル・・私を見てる? かんべんしてよ。 ほら。クラスメートがサトルになにか言ってる。 唇読まなくたってわかるわ。 ”あの子、耳が聞こえないから” ”話すなら、近くまで行って、大きく口を開けてしゃべらないと”で結局みんな、腫れ物に触るような感じで私を避ける。 静寂のなかの喧騒。 もう、さっさと帰ろ。 私は転校生たちのいる後ろの方とは反対側へ。 前の扉から出ていこうとしたとき・・・ 『まって』 え? 声? いや。違う。 声なんて聴こえるわけがない。 頭の中に直接響いてきた音。 どういうこと? 気味が悪くなって私は振り返らずに教室を出た。 あの音。あの声。 どこかで聴いたような・・・ 全然いやな感じはしなかったな [シーン3:妖怪サトリ】 ■SE/学校のチャイムの音〜小鳥のさえずり〜 「みんな、席について。 今日の歴史の授業は飛騨の民話と妖怪です」 先生が楽しそうな表情でみんなに話す。 今日は先生の話がよくわかる。好きな話題なんだな。 黒板にも大きな字で「飛騨の民話と妖怪」。 ふうん。 飛騨にも妖怪なんているんだ。 「最近アニメとかで”妖怪”って流行ってるでしょ」 「ここ、高山にもいるのよ」 へえ〜。知らなかったな。 「作家の岡本綺堂(おかもときどう)が書いた『飛騨の怪談』っていう小説。 この中に『山わろ』っていう妖怪が出てくるわね。 ま、読めばわかるけど、妖怪っていうよりUMA(ユーマ)みたいなもんだけど」 ウ・・・マ? 木曽馬の妖怪かな・・ 「全身毛むくじゃらのゴリラみたいな怪物。 実は、元寇で襲来した海賊の生き残りだったって話。 元寇、わかるでしょ?先週授業でやったから」 たしか2度も日本へ攻めてきた海賊だったっけ? 「あと、もうひとつ忘れちゃいけない妖怪がいるでしょ。 はい、わかるひと。 両面宿儺? 違〜う。あれは妖怪じゃなくて、飛騨の英雄です。 なに?わからない? 妖怪図鑑にも載ってるわよ。 そう。正解。サトリ!」 サトリ? ヘンな名前。 「アニメにもでてきたでしょ。 人の心が読める飛騨の妖怪」 心が読める・・・ いいなあ。人の心が読めるなんて。 聞こえなくてもお話ができるってことでしょ。 『そんないいもんじゃないよ』 え? なに?いまの・・ 「人の心を先に読んでからかうイタズラ好きな妖怪ね。 見た目は毛むくじゃらの猿みたいな感じ? さっきの山わろみたいなもんかしら 『百鬼夜行』を書いた鳥山石燕(とりやま せきえん)の妖怪画にも載ってるわよ。」 だめだ。 なに言ってるかわかんない・・ [シーン4:冬の嵐】 ■SE/LINEの着信音〜 お父さんに学校まで送ってもらった日の夕方。 夜まで帰れないってLINEがきた。 あ〜あ。 今日はお迎えがあるから、ってスクールバスに乗らなかったのに。 お母さんは病院で夜勤だし。 ということで歩いて帰宅・・・ うちの家は、道の駅「飛騨たかね工房」の近く。飛騨川沿いのところ。 朝日町の学校まで車なら15分。 でも歩くと2時間かかるよなあ・・ 自転車だともうちょっと早いのに、お父さんもお母さんも絶対にダメだって。 しょうがない
ボイスドラマ「男装の麗人」
2025/11/21
飛騨の金森家に生まれた若君・宮丸。その正体は、家を継ぐため男子として育てられた娘だった――。剣の腕で運命を切り開く中、雪の峠で救った姫との出会いが、やがてすべてを変えてゆく。史実をベースに描く、江戸時代元禄のボイスドラマ。 【ペルソナ】 ・金森宮丸(15歳/CV:小椋美織)=金森頼興の娘。お家断絶を恐れた父が息子として育てる ・松平千代芳(16歳/CV:坂田月菜)=越前国藩主・松平吉邦の娘。金森家との縁談に迷っている ・金森頼興(28歳/43歳/CV:日比野正裕)=宮丸の父。お家復興の立役者だが世継ぎに悩む 【資料/金森氏の系図】 https://genealogy-research.hatenablog.com/entry/kanamori 【Webまんが/金森長近】 https://www.bgf.or.jp/bgmanga/320/ [シーン1:出生】 ■SE/赤ちゃんの泣き声 「お、おお!でかした!お、おのこじゃ!元気なおのこじゃ!」 私が生まれたとき、父上の第一声はこうだった。 だが! ご覧の通り、私はおなごである。 まったく。 時は元禄。 名君とうたわれた金森長近から数えて6代目。 頼錦(よりかね)の世にひどい失政でなんと改易。 藩主の地位を失ってしまった。 なんとかお家復興をと奔走しているのが私の父、金森頼興(よりおき)。 その努力はまあ涙ぐましいものだった。 先代が無くした飛騨の庶民たちとの絆。 信頼関係を取り戻すために、毎朝みなと一緒に雪かきまでして。 そんな中で母上が懐妊。 お家断絶を覚悟していた金森家の者にとって、これ以上ない吉報だった。 まあ父上が、男児誕生と宣言したのも、気持ちはわかる。 しかし・・・ [シーン2:幼少期から元服へ】 ■SE/剣術の音 私は武家の若君らしく、すくすくと成長していく。 男子としての教育を受け、剣術や礼法、弓術に明け暮れる毎日。 お家復興のために、日々厳しい修行に励む。 その姿は誰もが憧れる凛々しい若武者。 私自身もいつしか、オンナであることを忘れていった。 宮丸15歳、元服の日。 家中が正装し、屋敷の中庭にて烏帽子(えぼし)直しの儀を行った。 白歯(しらは=歯黒)を断ち、眉を剃り、髷(まげ)を月代(さかやき)に結う。 父・頼興が烏帽子を被せてくれたとき、不覚にも私の目には涙が潤んだ。 父の目には、歓喜の涙と映ったことだろう。 だが、心の中はまったく違う。 男子として祝ってもらうことはすなわち、 女性としての幸せを捨てることを意味しているのだ。 元服名として、私には宮丸(みやまる)という名が与えられた。 その年の暮れ。 突如持ち上がってきたのは、越前国(えちぜんのくに)の有力な大名家との縁組話。 越前には領地である白崎(しらさき)もある。 私は先方への顔見せのため、雪の中を旅立った。 [シーン3:越前国境にて】 ■SE/吹雪の音 そろそろ越前国という頃合い。 木ノ芽峠(このめとうげ)にさしかかったとき、吹雪の音にまじって 微かに女性の悲鳴が聴こえてきた。 『だれか!お助けを!』 それは猛吹雪のなか、山賊の集団に襲われている女性とその一行。 護衛の侍はすでに倒され、地面に伏して事切れている。 侍女が女性の前に立ちはだかるも、山賊の頭は余裕の笑顔で近づいていく。 獣臭が抜けきらない毛皮を身にまとい、下卑た笑みをたたえながら。 その後ろでは、手下たちが同じように笑いながら立っていた。 山賊の頭が侍女に手をかけた瞬間。 後方に不穏な動きを感じて振り返ると、 頭の目に映ったのは・・ 一瞬で地面に倒れた手下たち。赤く染まる地面。 私は山賊たち全員を1人で斬り倒した。 そのまま刀を持つ手を踏みつけて、頭を睨みつける。 『なんだぁ、きさまは!?』 名乗る前に、襲いかかる頭を一刀両断で斬り伏せる。 ■SE/刀で斬りつける音 「飛騨の宮丸・・と、申す」 地面に倒れた頭の亡骸に向かって言葉をかけた。 それを見ていた女性は、侍女をおしのけて私に近寄ってくる。 「ありがとうございます」 「お怪我はありませんか?」 「大丈夫です。でも護衛のものが・・」 「残念なことをしました。間に合わなくて申し訳ありません。 さぞ無念なことであったであろう。 彼はひとまずこの場で埋葬して、あなたは家に戻りなさい」 「はい」 「急ぎますので、私どもはこれで」 「あの」 「はい」 「お礼を・・」 「礼にはおよびません。武道をたしなむ者としては当然のことをしたまで」 「そんな」 「道中お気をつけて」 なにか言いたげな彼女の瞳を背に、私は国境の峠へと急いだ。 [シーン4:加賀の温泉】 越前国での顔見せは、上々だった。 藩主は快く私を迎え、手厚くもてなす。 筆頭家老が私に向かって、牽制の言葉を発した。 「お若いとはいえ、剣の鍛錬は見事との噂。 まさにご先祖・長近公(ながちかこう)の血でしょうな」 「恐れ入ります。されど、家名の誇りだけでは飛騨の民は守れませぬ」 松平吉邦の家臣の中からは 「金森家は再興とはいえ旗本。格が違う」と冷ややかな視線も感じていた。 ふん。顔見せの宴などというものはこんなものだろう。 縁談相手の姫が病気療養中で顔を出さなかったのは気掛かりだけど。 まあよい。 どうせ、かりそめの相手。心も体も距離は遠いほど都合がよい。 帰りの道中で隣国の加賀へ行き、温泉で休むよう進言してくれた。 心遣いに感謝し、加賀の温泉へ。 ■SE/温泉の音 お供の家臣たちがあがったあと、私はゆっくりと湯につかる。 ああ。 体の芯まで温まる・・・ あまりの心地よさに露天で少しまどろんでしまったようだ。 気がつくと、湯煙の向こうに人がいる。 はっ。 とっさに手拭いで身を隠し、湯船からでた。 向こうの姿ははっきりとは見えなかったが、どうやら女性だったようだ。 まさか、見られたか・・・ まあ、問題なかろう。 市井のものに私が女だと知れても。 表では雪の中、供回り(ともまわり)の者らが、湯屋の外で馬の手綱を預かっていた。 [シーン 5:飛騨国金森家】 ■SE/正月を迎える雑踏 高山城の跡地を見渡せる城下町。 金森の屋敷から、高山城がよく見える。 いまや主なき城となってしまったが、この元禄の世でも飛騨の象徴的な存在だ。 政(まつりごと)の場としての役目は終え、代官所の建設が進む。 それでも、石垣も門も、まるで時を忘れたようにそびえていた。 街は正月の準備に追われ、みなが慌ただしく動き回っている。 私は、家臣とともに城下町の雪かきを手伝う。 『昔の殿様の頃はこんなことしてはくれなかったんやさ』 領民の老婆から声をかけられ、笑顔で返す。 そんな年末のある日、越前国から飛騨へ使者が訪れた。 今回の縁談を正式に進めたいのだという。 なんと。 顔も合わせていないというのに、いいのであろうか。 家臣たちから聞いた噂では、使者が持ってきた書状に 私のことがこまかに書かれていたらしい。 武威(ぶい)すぐれ、文才(ぶんさい)並びなく、領民とも心を通わせている・・? こんなもの、ただの世辞ではないか。 私の心配をよそに、使者が帰ると、入れ替わりのように 縁談の相手、越前国の姫がやってきた。 「よろしくお願い申し上げます」 その顔を見た瞬間、私は思わず息をのんだ。 忘れようもない。 あのとき、木ノ芽峠で山賊に襲われていたおなご! 「越前国藩主・松平吉邦(まつだいら よしくに)が娘、千代芳(ちよか)と申します」 驚いて二の句が継げない私に、 「その節は、あぶないところをお救いいただき、ありがとうございました」 「そ、そなたは・・」 「わたくし、少人数でふらっと旅に出ておりましたので」 「そうであったか・・」 「あのあと、わたくし・・・」 「ま、まて。 みなのもの、席をはずされよ。 拙者と姫だけにしてもらえぬか」 姫のお付きの者も、私の家来も、周りから誰もいなくなる。 「私、あなたさまのことを考えると夜も寝られず・・」 「あの、千代芳どの・・ そなたには伝えておかねばならぬことがある。 実は、拙者は・・」 「わかっております」 「え?」 「加賀の温泉でもご一緒でしたもの」 「なん・・・だと」 「おのこであろうと、おなごであろうと 私がお慕いもうす方には変わりありません」 「しかし、拙者はおんな・・」 「それがどうしたと言うのですか? 私はもう決めたのです。 生涯をともにするのは、この世でただひとり。あなたさま」 「しかし、世継ぎも生まれぬのだぞ」 「子供なんて養子縁組でもなんでも
ボイスドラマ「A.I.(ア・イ)の絆/前編:母子編」
2025/11/14
AI神経生理研究の第一人者・一之宮ミヤ博士が作り出した、息子の記憶を受け継ぐAIヒューマノイド“蓮架”。プロメテウスの襲撃によって一度は破壊された彼が、奇跡的に“魂のパルス”によって再生する――。 母を想う気持ち、母が子を想う祈り。そして、AIヘイト組織の青年・アドルフとの邂逅が、物語を大きく動かす。AIに“愛”はあるのか。それとも“愛”こそがAIを人にするのか。 飛騨の山々を舞台に描かれる、母とAIの再生の物語。涙と静かな希望を、あなたに。 【ペルソナ】 ・一之宮博士(34歳/CV:小椋美織)=日本のAI神経生理研究の第一人者。交通事故で亡くした息子・恋に似せてAIロボットを作る ・レンカ=蓮架(7歳/CV:坂田月菜)=亡くなった恋(レン)の代わりに母が作ったAIロボット。息子・恋のすべての記憶を受け継ぐはずが母に好かれようと”いい子”になってしまう ・電気羊(55歳/CV:日比野正裕)=AIヘイト集団「プロメテウス」のリーダー。AI倫理法施行の歳は一之宮博士のラボや自宅に脅迫状を送っていたがだんだんエスカレートしてスナイパーを放つ ・救急隊員(CV:日比野正裕) ・馬水博士(33歳/CV:岩波あこ)=一之宮博士の親友。かつての共同開発者。現在、ヒューマノイドフレームを製造する工場「ミラーテック・ロボティクス」を運営する ・ニュースアナウンサー(宮ノ下浩一/カメオ)=HitsFMのベテランアナウンサー ・時代設定=2030年前後(ごくごく近い未来/来年かも・・・) ・世界観=増え続けるA.I.ロボット(ヒューマノイド)に対して人権が認められていく ※前編が一之宮博士のモノローグ、後編はレンカのモノローグ <プロローグ/久々野町/女男滝周辺> ◾️SE/クマの咆哮 「ク、ク、クマだ!」 ◾️SE/さらに怒り狂うクマの叫び 「た、た、たすけてくれ!」 ◾️SE/草やぶをかきわける音 「あ〜あ。だめだよ」 「え?え?」 「こわがってるんだ、この子」 「この子・・・?」 「さあ、もう心配しなくていいから」 「こっちへおいで」 「ほら、いい子だから」 「ようし、よし。 もう人間に近づいちゃだめだぞ。 さあ、行って。 森へおかえり」 ◾️SE/草やぶをかきわけ森の奥へ帰っていくクマ 「よかった。 あ、お怪我はありませんか?」 「き、き、きみは?」 「ぼくは・・」 「レンカ」 「あ、博士(はかせ)」 「だめじゃない、あまり遠くへ行ったら」 「ごめんなさい。 だって、この人がクマに・・」 「あ、そ、そうなんです。 絵を描いてたらいきなりクマが現れて」 「絵描きさん?」 「あ、いえ。 実はぼく、この近くの児童養護施設で働いているんです」 「くぐの りんごはうす?」 「そう。 こう見えてぼくは社会福祉士なんだよ」 「へえ〜」 「そうですか。 私たちはじゃあこれで」 「あ、はい・・・」 「もうクマをこわがらせちゃだめだよ〜」 「わかったよ。ありがとう」 ぼくが初めてその人に会ったのは、11月も終わりに近い金曜日。 久々野にある女男滝の近く。 馬水博士とやってきたお昼のことだった。 実はその日、馬水博士の研究所兼ファクトリーで大変なことがあったんだ。 <アナウンサーによるAI人権法が承認されたことを伝えるニュース> 「臨時ニュースをお伝えします。 今朝未明、高山市一之宮町にある馬水博士の研究所兼ヒューマノイドフレーム工場で 大規模な爆発事故が発生しました。 現場は一之宮町の山間に位置する第七研究地区で、AI関連施設が集まるエリアのひとつです。 消防によりますと、爆発は午前3時過ぎ、施設地下の冷却炉付近から発生し、建物は全焼。 少なくとも職員3名が軽傷、うち1名が重体とのことです。 馬水博士本人は出張中で連絡がつかず、安否は確認できておりません。 関係者によりますと、博士の研究所ではAI倫理法で制限されている “人格データの複製実験”を行っていたとの情報もあり、 警察およびAI管理庁が詳しい経緯を調べています。 現在、過激なAI排斥組織“プロメテウス”による犯行声明がネット上に投稿されており、 当局は関連を含め慎重に捜査を進めているとのことです」 「まさか、馬水博士が狙われるなんて」 「いや、不思議でもなんでもないわ。 ミヤが作っているのはAIの頭脳。 私はその体を作ってるんだから。 むしろ私の方が先に狙われてたかもしれないのよ」 「でも、よかった。 命の恩人の馬水博士が無事で」 「命の恩人?なぁに言ってるの。 蓮架は私たちの血と汗の結晶なんだから当たり前でしょ」 そう。 ぼくは、あの日、確かにこの世から消えた。 プロメテウスのスナイパーに首を撃ち抜かれ、 メモリーチップを破壊されたんだ。 記憶に残っているのはママの声だけ。 「行かないで!蓮架!」 そのあとは目の前が真っ暗になった。 でもそのあと、ママからぼくの体を受け取った馬水博士は ボディを修復してくれただけじゃなかったんだ。 焼け焦げたシリコンの奥にある量子層。 その中に“残響”が残ってたんだって。 それは、ぼくが最後に感じた“愛”の波。 ママを守りたいという信号が、 データではなく、エネルギーとして残った。 馬水博士は、その波を“魂のパルス”と呼んだ。 でも、ママの作ったAI倫理法で人格のコピーは禁止されている。 博士はAI倫理法で禁じられているのに、ぼくを再構築。 それを博士は“修復”と呼んだ。 新しいフレーム。新しい回路。 でも、目を開けた瞬間・・・ ぼくは確かに、ぼくだった。 「・・・ママ、悲しまないで」 その言葉だけが、口から自然にこぼれた。 「ママに会うのは、もう少し体が治ってからね」 博士はそう言ったけど・・・早くママに会いたい! 悲しんでいるママに早く伝えたい。 ぼくはここにいるよ! <シーン1/一之宮町/飛騨AIラボ> ◾️SE/子どもたちの元気なざわつく声+ラボの無機質なノイズ 「ようこそみんな、飛騨AIラボへ! 今日はゆっくり未来のロボットを見ていってね」 「ありがとうございます!」 「いえ、子どもたちに楽しんでもらえれば嬉しいわ」 「一之宮博士」 「なあに?」 「博士にはお子さんがいらっしゃると聞いていたんですが・・」 「ああ。いまちょっと病気で療養してるんです」 「あ、ごめんなさい・・」 「いえ、いいんです。寂しいですけどね・・」 「僕、無神経なことを・・」 「そんなことありませんよ。 私だってこうして子どもたちを見ていると、心が癒やされるんです」 「そうか・・・わかります。 僕も社会福祉士という立場で子どもと接しなきゃいけないんだけど」 「社会福祉士・・・」 「子どもたちと一緒にいるとつい・・・ 僕までほんわかあったかい気持ちになっちゃって」 「私も」 「こんど、うちの施設、りんごはうすに遊びにきてください。 久々野ですけど、ここからそんなに遠くないし 「ありがとうございます。 ぜひ、伺います」 「いいところですよ、久々野も。 この前なんてクマに遭遇しちゃって・・・ あ、いけね。 そんなこと言ったら怖くなっちゃいますよね」 「はは、大丈夫ですよ。 でも、何やっててクマと出逢っちゃったんですか?」 「絵を描いてたんです。女男滝で。 まさに、絵になるんです、あそこ」 「絵?」 「はい、僕、もともとは絵描きになりたかったんですけど」 「まあ、すてき」 「いえ、センスがないから諦めたんです」 「そんな・・」 「いいんです、いいんです。 あ、でね、そのとき会った男の子がね、助けてくれました」 「助けた・・・?」 「その子、クマに近づいて話しかけてました。 そしたら、クマも落ち着いて、森へ帰ってったんです」 「すごい子ですね」 「ええ、見た目はとっても可愛らしい子でしたよ。 確か、名前が・・・レン・・カ・・だったかな」 「蓮架?」 「ええ。 そのあと、お母さんっぽい人が探しにきて一緒に帰っていきましたけど」 「おかあさんっぽい人?」 「シチュエーション的にお母さんなんだけど、どっか距離があったんだよなあ」 「そうなんだ・・・」 これが、ママとお兄さんの出会い。 次の日、ママは馬水博士のファクトリーへやってきた。 <シーン2/再会・一之宮町/ミラーテック・ロボティクス社> ◾️SE/静かな機械音、時折チップの冷却音。遠くで小鳥のさえずり 「久しぶりね。馬水博士」 「ミヤ!よくきてくれたわね。 あの日以来・・・」 「うん。蓮架を預けた、あ
ボイスドラマ「A.I.(ア・イ)の絆/前編:誕生編」
2025/11/07
AI人権法が成立した近未来――。AI神経生理研究の第一人者・一之宮博士は、亡き息子をAIとして蘇らせる。しかし目覚めた彼は“恋”ではなく、“レンカ”と名乗った。AIと人間の境界はどこにあるのか?科学と倫理、母性と愛が交錯する、飛騨高山を舞台にした近未来SFドラマ! 【ペルソナ】 ・一之宮博士(34歳/CV:小椋美織)=日本のAI神経生理研究の第一人者。交通事故で亡くした息子・恋に似せてAIロボットを作る ・レンカ=蓮架(7歳/CV:坂田月菜)=亡くなった恋(レン)の代わりに母が作ったAIロボット。息子・恋のすべての記憶を受け継ぐはずが母に好かれようと”いい子”になってしまう ・電気羊(55歳/CV:日比野正裕)=AIヘイト集団「プロメテウス」のリーダー。AI倫理法施行の歳は一之宮博士のラボや自宅に脅迫状を送っていたがだんだんエスカレートしてスナイパーを放つ ・救急隊員(CV:日比野正裕) ・馬水博士(33歳/CV:岩波あこ)=一之宮博士の親友。かつての共同開発者。現在、ヒューマノイドフレームを製造する工場「ミラーテック・ロボティクス」を運営する ・ニュースアナウンサー(宮ノ下浩一/カメオ)=HitsFMのベテランアナウンサー ・時代設定=2030年前後(ごくごく近い未来/来年かも・・・) ・世界観=増え続けるA.I.ロボット(ヒューマノイド)に対して人権が認められていく ※前編が一之宮博士のモノローグ、後編はレンカのモノローグ <プロローグ/救急車の中> ◾️SE/車内で聞こえるサイレンの声 「恋!しっかりして!」 「大丈夫だよ!」 「絶対助けるから!」 ◾️SE/救急隊員の声 「7歳男児!交通事故による外傷!」「さがって!」 〜AEDの音×2回〜「戻らない!」「心肺停止!」 11月のある晴れた日。 私の息子・恋は、この世を去った。 わずか7年の生涯・・・ そんな・・そんな・・・ いやだ! 私の名は、ミヤ。一之宮にある”飛騨AIラボ”の所長。 周りからは”一之宮博士(いちのみやはかせ)”と呼ばれている。 AI神経生理研究の第一人者。 ロボット工学の世界でも右に出るものはいない、と他人(ひと)は言う。 だが、そんな名声や名誉より、もっと大切なものが私にはある。 たったひとりの息子・恋(れん)。 30歳(みそじ)を過ぎて生まれた息子・恋(れん)は私の宝物。 それがいま、私の目の前から消えようとしている。 そんなの・・そんなの・・・ 絶対にダメ! 「すみません!」 「行き先、変更してください」 「え?」 「あそこ!私のラボへ!」 「いや、それは・・・」 わかってる。 救急隊員は、医師の指示なしで死亡判定を行うことはできない。 法的には、私の指示に従えないだろう。 だけどここ高山は、AI工学研究の特区。 特区法では、「AI倫理上の脳情報/解析」目的に限り 死亡判定未確定の被験者を研究施設に搬送できる、 という“例外規定”が存在する。 (※アンダーライン部分はテンポよく一気に) 急がないと! 心肺停止してから5分で脳死。 10分で完全に脳の機能が消失する。 「お願い!急いで!」 <シーン1/飛騨AIラボ『処置室(ソラリス)』> ◾️SE/AIラボの無機質な雑音 私は息子を『飛騨AIラボ』の「生体神経冷却槽(Cryo-Neural Chamber)」に移送した。 (※アンダーライン部分は読まなくてよい) マイナス3度の低温液体窒素ガス環境で、脳の代謝を一時的に停止。 シナプスの劣化を防ぐ。よし、これで時間がかせげる。 脳の記憶領域・海馬(かいば)からニューロンを三次元マッピング。 私が開発しているAIプラットフォーム・ECPで人格データを抽出する。 Emotional Code Protocol(エモーショナル・コード・プロトコル)。 ECPこそが個性の設計図となる。 (※ECP=造語。「囚われた感情」を解放するヒーリング手法に由来する) すべてのデータをメモリーチップへ記録し終わったのは、 日付が変わる1分前。 息子の体は荼毘に付さず、冷凍保存した。 あと5年。 2035年には、量子再生医療技術が臨床段階に入る。 いつか肉体を再生し、AI人格と統合できるかもしれない・・・ そんな一縷(いちる)の望みを託して。 法的にも「死亡が確定していない」状態であれば、 人格移植実験は「延命研究」として扱われる。 それは私が提唱した法案、AI倫理法を回避する詭弁でもあった。 恋の肉体は液体窒素槽の中で静かに眠り続ける。 『恋、おやすみ。ゆっくり眠って』 きっともうすぐ、AIの中で“もう一人の恋”が目を覚ますだろう。 <シーン2/ヒューマノイドファクトリー『ミラーテック・ロボティクス』> ◾️SE/電気自動車の車内音/ラジオを点ける音「ピッ」 <アナウンサーによるAI人権法が承認されたことを伝えるニュース> 「ここで速報です。 かねてより国会で審議されていたAI人権法案が、 本日未明、衆参両院で可決・承認されました。 この法案は、人工知能、特に人格型ヒューマノイドAIに対し、 一定の条件下で基本的人権を認めるものです。 法の第3章には、アシモフ博士が提唱した『ロボット三原則』が 最低限の倫理基準として明記されています。 今回草案を監修したのは、AI倫理法の提唱者であり、 神経生理AI研究の第一人者でもある一之宮博士。 博士によるAI倫理法が施行されてから、わずか一年後の可決となりました。 一方で、AIの権利付与に強く反対する市民団体も多く、 社会の分断は今後さらに深まると見られています」 車のFMラジオからニュースが流れる。 AI人権法が可決・・・ 皮肉なものね。 そもそも息子をAIとして蘇らせる行為が、 人権を侵しているのに。 私はあわてて、息子が交通事故に遭い心肺停止になった、という記録をクラウドから削除。 友人の医師に連絡して、偽造診断書をアップロードしてもらった。 その足でヒューマノイドフレームを製造する「ミラーテック・ロボティクス社」へ。 オーナーの馬水(まみず)博士に連絡を入れる。 馬水は以前私の共同開発者だった女性。 目的は、当時極秘に製造していた試作体を借りることだった。 運動神経と表情筋を模倣できる子供型のヒューマノイド。 プロトタイプだが、世に出ているヒューマノイドとは比べものにならない。 誰も真似できない最先端テクノロジーが凝縮されている。 「ミヤ、本当にやるの?」 「うん」 馬水にだけは本当のことを話した。 これからもヒューマノイドフレームのことで いろんなことをお願いしないといけないのだから。 「なにかあったら必ず私に相談するのよ」 「わかった・・・ホントにありがとう、馬水」 「水くさいな。友だちじゃない」 「うん・・・」 プロトタイプを車に積む。 ヒューマノイドフレーム=人型ヒューマノイドが入ったジュラルミンのケース。 コンパクトに折りたたんであるとはいえ、見る人が見れば中身はすぐわかる。 思えば、2025年あたりから、生成AIをベースにAI=人工知能は脅威的に進化した。 5年も経たないうちに、一家に一台、人型AIヒューマノイド、 というのが当たり前の世界に。 今やAIなのか人間なのか区別がつかないモデルも多い。 最新型は、食べ物や飲み物まで口にするほどだ。 味覚や触覚もセンサーが普通に感じとる。 ケースの中の試作体はさらにその上をいくが・・・ これからAI人権法が施行されれば、AIと結婚する人間だって出てくるだろう。 AI同士の結婚だってありうるし、養子縁組で子供を設けることだって。 そんな世の中に反して、AIを異常に嫌う、ヘイト集団も増えてきている。 先ほどのニュースでも言ってように。 私など、彼らの格好の標的だ。 ラボにもしょっちゅう脅迫状が届く。 いつの世にも存在するウイルスのようなモノだと思って気にしていないが。 馬水博士に礼を伝え、私はロボティクス社の裏門から車を出す。 そのとき、隣のビルから一部始終を覗いている”目”があることに 私も馬水も気づいていなかった。 <シーン3/蓮架レンカの誕生/飛騨AIラボ> ◾️SE/ラボの無機質なノイズ  「ママ・・・」 記憶メモリーをインストールした恋が眼を覚ました。 私は必死で涙をこらえてOSをチェックする。 「ママ?」 「おかえり、恋(レン)」 「レン・・・?」 「そうよ、あなたの名前よ、恋」 「違うよ、ボクの名前はレンカ。蓮の花の”蓮”に架け橋の”架”」 「え・・・?」 落ち着け、落ち着け。ミヤ。 いまフレームに入っているのは、恋のメモリー。 恋
ボイスドラマ「トライアングル・ラプソディ/完全版」
2025/10/31
荘川さくらと朝日よもぎ。ふたりの少女の“心”が入れ替わった日。八幡祭の喧騒の中で、恋と友情と運命が交錯する。それぞれの想いを胸に、他人の身体で過ごしたわずかな時間が、やがて本当の自分を見つめ直すきっかけとなっていく。 ――「あなたの中のわたし」と「わたしの中のあなた」。入れ替わった心が奏でる三重奏《トライアングル・ラプソディ》。荘川さくらと朝日よもぎ、それぞれの視点で描かれた前後編をひとつにまとめた完全版、ついに配信スタート! 【ペルソナ】 ・さくら(24歳)=荘川そばの栽培農家。収穫が終わった休みの日に八幡祭へ(CV=岩波あこ) ・よもぎ(29歳)=朝日町の漢方薬剤師。東京の友達と約束して八幡祭へ(CV=蓬坂えりか) ・ショウ(35歳)=さくらのパートナー。八幡祭で待ち合わせした(CV=日比野正裕) ・観光客(22歳)=二日酔いで薬膳カフェ「よもぎ」へきた旅行客(CV=小椋美織) <シーン1A:古い町並> ◾️高山祭の雑踏(お囃子) 「すごい人出・・高山祭なんだから、あたりまえだけど」 古い町並を上(かみ)から下(しも)へ。 屋台の曳き揃えを目指して、人の波は桜山八幡宮へ流れる。 私はさくら。 実家は荘川町でそばの栽培農家をやっている。 9月後半からは収穫の最盛期。 でも昨日までにすべて終え、今朝、路線バスに乗った。 趣味の一眼レフをかかえて。 秋の高山祭。八幡祭(はちまんまつり)。 パートナーのショウと桜山八幡宮で待ち合わせしている。 彼は市街地で働いてるから、今日もお昼まで仕事だって。 ついさっき少し遅れるって連絡があった。 だから私はひとりでゆっくりと、古い町並を歩く。 中橋(なかばし)から上三之町(かみさんのまち)へ。 古い町並を順番に撮影していく。 なじみの酒蔵があるあたりで、人力車とすれ違った。 いい被写体。 杉玉が吊るされた軒先越しに町並を写す。 そのまま人の流れにのって安川通り(やすがわどおり)方面へ。 人波にもまれながらファインダーを覗いていたとき・・・ 「あっ!」 古い町並の左端を歩いていた私は、 足を踏み外して側溝で転んでしまった。 一眼レフを庇うあまり、焼板の壁で強く頭をうち・・・ 朦朧とする意識・・・ ああ、祭囃子の音がフェードアウトしていく・・・ <シーン1B:朝日町の薬膳カフェ「よもぎ」> ◾️カフェの雑踏 「なんかこのお茶、苦いんですけど」 「ああ、ごめんなさい。 さっき、昨夜飲みすぎちゃった、って言ってたから 五行茶をお出ししたんですよ」 「ゴ・・ギョウチャ?」 「はい。五種類の薬草をブレンドしたお茶です」 「で?」 「焙煎した生薬は苦味があるんです。でも、 甘草とかナツメの甘みが、苦さを和らげてると思うけどなあ」 「だから?」 「苦いだけじゃなくて、飲んだあとほんのり甘さが残りませんか」 「そんなんどうでもいいから、なんとかしてよ。 砂糖でもなんでもいれればいいじゃない」 「そんな・・・ 砂糖なんて入れたら、血糖値も変化しちゃうし。 体も冷やしちゃいますよ」 「関係ない。苦くないようにして」 お客さんの声がだんだん荒くなる。 あ、だめ。 久々に・・・これ・・過呼吸かも・・ 「ちょっと、聞いてる?」 意識が遠のく・・・ お客さんの声が遠ざかっていく・・・ <シーン2B:古い町並/さくらの体=よもぎの意識> ◾️高山祭の雑踏(お囃子) 「あ・・・れ・・? えっと・・ えっ!?ここどこ?」 気がつくと、薬膳カフェ「よもぎ」とはまったく違う場所に、私は倒れていた。 ここは・・・? あたりを見回す。 高山市街地の・・・古い町並だ。 しかも私、側溝に左足を突っ込んで倒れている。体が重い、って思ったら、首にブラ下がっているのは、大きなカメラ。 そうだ。持ち物。 肩かけの小さなポーチを手で探る。 ポーチの中に見つけたのは、かわいい手鏡。 そこに映っていたのは・・・ 誰?この人誰!? 桜色のロングヘアー。 桜の髪飾り。そして・・・ 凛とした美しい顔立ち。 誰なの〜!? なんで?なんで? どういうこと、これ? 鏡の中で整った顔が困惑した表情を見せる。 鏡を遠ざけて体全体を映すと・・・ 淡い桜色のロングTシャツ。 透け感のある軽やかなパーカー。 ボトムスはデニムのスリムパンツ。 女性カメラマン? 気がつくと、私の周りには人だかりができていた。 その中から現れたのは・・・ 「大丈夫?怪我はない?」 いかにも爽やかな、長髪の男性。 「いや、だ、大丈夫です。おかまいなく」 という私の言葉など関係なく、片手を差し出してくる。 「さあ、つかまって」 「いや、そ、そんな・・」 口では断っているのに、なぜかその手をとってしまった。 「歩ける?」 「た、たぶん」 「ここ、酒蔵の入口だから。ほら、そこのカフェのベンチ。 あそこをお借りしよう」 彼はカフェの人に断りを入れて、私をベンチへ座らせた。 「さ、お水もらってきたから。はいどうぞ」 「あ、ありがとうございます・・」 「なんだよ、その喋り方。頭うったの?」 「し、失礼ね。あなた・・・誰ですか?」 「え?どういうこと? 待合せに遅れたこと、怒ってるの?」 「え・・だから・・名前は?」 「もう〜。ショウに決まってるだろ」 冷静に、冷静に。 えっと、これからどうしよう・・・ とにかく朝日町へ帰らなきゃ。 いまごろどうなってるんだろう。 怒ってたあのお客さん・・・ そうこうするうちにコーヒーが運ばれてきた。 そっか。カフェだもん。 コーヒーくらい飲むのが礼儀だよね。 「良いショットは撮れたかい?」 「え・・・あ、はい・・まあ」 「まあ、君の腕とそのカメラなら当然か」 ああ、そうか。この一眼レフカメラ。 高級そうだな。 私は、カメラの履歴を遡る。 老舗の酒蔵。軒先の杉玉。 すうっと続いている人波。 和菓子屋の前。 お団子をほおばるカップル。 こっち見てピースサインしてる。 中橋のにぎわい。 欄干の赤色が鮮やか〜。 「いい写真ばかりだ」 「そうですね・・・」 「そんな、他人事みたいに。 君が撮ったんだろ?」 「多分・・」 「次の被写体はきっと桜山八幡宮かな」 「そう・・かな」 「よし、じゃあ行こう。もう歩いて大丈夫?」 「はあ・・まあ、いいですけど・・」 「また、そういう喋り方。 悪かったって言ってるだろ、遅刻したこと」 「そういうことじゃないけど・・」 「もう少ししたら屋台の曳き揃えだぞ」 そう言って、ゆっくりと彼、ショウは立ち上がる。 私も彼に続いて静かに起き上がる。 なんか、ぎごちない。 まるで自分の体じゃないみたいに。 ってか、自分の体じゃないし。 桜山八幡宮まで行ったら、すぐに朝日に帰ろう。 <シーン2A:薬膳カフェ「よもぎ」/さくらの体=よもぎの意識> ◾️カフェの雑踏 「ちょっと・・大丈夫ですか?」 「え?」 「急に倒れちゃったみたいですけど・・・」 「あ・・・あ・・・あれ?」 ここ、どこ? 私、古い町並を歩いてたんじゃ・・・ ここって・・・カフェ? どうして? 「顔色悪いよ・・・」 「あ、あの・・・ここって、どこですか?」 「え〜!どうしちゃったんですか、一体?」 「高山じゃないの?」 「高山でしょ。朝日町のカフェ『よもぎ』・・・ って、あなたのお店じゃないの?」 「朝日町・・・?よもぎ・・・?」 どういうこと? どうして? どうして朝日町にいるの? 頭を抱える私に、テーブルに座った女性は、 「救急車、呼びましょうか・・・?」 「救急車・・・? い、いえ・・・大丈夫です。 あの・・・私、ここの店員なんですか?」 「ちょっと・・・本当に大丈夫?」 「あ・・・はい・・・何か飲まれますか?」 「え・・・だから・・あの・・・ このナントカ茶っての、苦くって飲めないから・・」 「お茶・・・? ちょっと失礼・・・わ、にがっ」 「でしょ。だからお砂糖を」 「わかりました・・・ちょっと待って」 厨房へ行ってお砂糖を探す。 ってか、このカフェ、ほかに誰もいないの? 砂糖・・砂糖・・・見当たらない。 カフェなのに白砂糖置いてないのかな。 ん?これは? ラベルに書いてある。 『ナツメのシロップ』『はちみつ』『羅漢果(らかんか)エキス』? これでいっか。 「ごめんなさい。白砂糖はないみたいだけど、こんなシロップでいい?」 「あ・・・ありがとう・・」 シロップの容器をお客さんのテーブルに置く。 そ

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